絶滅生物は生きていた 植物、昆虫、魚…喜んでばかりいられない

びっくりサイエンス
79年ぶりに開花した「シマクモキリソウ」(国立科学博物館提供)

 地球環境の変化や人間の多様な営みの影響で、絶滅の危機に瀕(ひん)する生きものは多い。だが最近の研究で、既に絶滅したと思われている種が、実は力強く生き残っていたことが判明するケースが相次いでいる。それ自体は喜ばしいことだが、専門家は「単純に絶滅の回避を喜ぶだけでなく、なぜ危機に瀕したのかを考えることが大切だ」と警鐘を鳴らしている。

約80年ぶりの開花

 国立科学博物館、首都大学東京などの研究チームは今年11月、絶滅したと考えられていたラン科の植物「シマクモキリソウ」を発見し、栽培して花を咲かせることに成功したと発表した。

 シマクモキリソウは小笠原諸島に固有の極めて希少なラン。同諸島の父島では1938年に採取されたのを最後に、人の入植で自然環境が変わった影響などで絶滅したとされていた。

 だが今年6月、父島から約300キロ離れた同諸島の南硫黄島で同大などが10年ぶりに自然環境の調査を行ったところ、標高700メートル付近の雲や霧が頻繁に発生する雲霧帯という場所で、シマクモキリソウとみられる植物を発見した。生えていた株は未開花で種の鑑定が困難だったことから3株を採取して持ち帰り、同博物館の筑波実験植物園(茨城県つくば市)で栽培した。

 このうち1株が11月16日に開花。長さ約9センチの葉2枚の間から伸びた高さ約12センチの茎の先に、直径約1センチの花が7輪咲いた。花びらは緑色で、丸い形や細長い筋状の形をしている。

 DNA解析を行ったところ、本州などの比較的涼しい地域に分布するスズムシソウと近縁だが、遺伝的には明らかに異なっていることが分かった。亜熱帯の小笠原諸島で独自の進化をしたとみられる。

 首都大学東京の加藤英寿助教は「本州から1000キロ以上離れて隔離された小笠原諸島にどうやって移動し、どのように進化したかを解明したい」と話している。

難破船が引き金に

 一方、沖縄科学技術大学院大、豪メルボルン動物園などの研究チームは今年10月、豪州で絶滅したと思われていた昆虫「ロードハウナナフシ」が生き残っていたことを、DNA解析で突き止めたと発表した。

 ロードハウナナフシは、豪州東方沖のロードハウ島の固有種で、体長約15センチ。羽がなく黒っぽい色をしている。1918年に付近で難破した船から同島にクマネズミが侵入し、捕食されて絶滅したとみられていた。

 だが、60年代にロードハウ島から約20キロ離れた小島でよく似たナナフシの死骸が見つかった。また、2001年には同じ小島の海抜65メートルの段丘で、生きた個体が発見された。翌年に数匹がメルボルン動物園に運ばれ、飼育研究が行われている。

 飼育個体はロードハウナナフシとよく似ていた。しかし、豪国立昆虫コレクションの博物館に所蔵されているロードハウ島のナナフシに比べると体が細いほか、後ろ脚のとげが小さいなどの違いがあり、同じ種かどうか議論が続いていた。

 研究チームは決着をつけるため、小島で採取したナナフシと博物館の標本の両方から、細胞内小器官のミトコンドリアのDNAを採取して比較した。その結果、相違は1%以下と判明。小島で見つかったのはロードハウナナフシだったと結論づけた。

 アレクサンダー・ミケェエヴ沖縄科学技術大学院大准教授は「この生きものを永久に失ってしまっていなかったことは幸運だった。だが、これはめったに起こることではない。たった一そうの難破船が島の動物相を大きく変えてしまうほど、生態系はもろいのだ」と指摘する。

環境DNAで解明

 秋田県立大、神戸大などの研究チームは今年11月、水中の生物から流出した微量のDNAを調べる環境DNA分析という最新の技術を駆使して、秋田県の雄物川では絶滅したとみられていた淡水魚「ゼニタナゴ」の成魚を11年ぶりに発見したと発表した。

 ゼニタナゴは、全長8センチ程度の日本固有のタナゴ属の魚で、タナゴ属としては例外的に、秋にタガイなどの二枚貝に産卵する。

 かつては東北や関東の大きな河川に広く分布していた。だが、現在は秋田県、岩手県、宮城県などのため池や用水路など、ごく限られた場所でしか確認されていない。環境省のレッドリストでは、絶滅危惧種に指定されている。

 研究チームは昨年8月、雄物川本流の112キロにわたる区間で99地点の表層水を採取。ゼニタナゴの表皮やふんから出たDNAが含まれていないか調べた。また、ゼニタナゴが卵を産み付ける二枚貝を仕掛け、繁殖状況も調査した。

 その結果、2地点でゼニタナゴのDNAを検出。これらの地点はゼニタナゴがいる可能性が高いとみて、さらに詳しい調査を行った結果、1地点で雄と雌の成魚各1匹を捕獲した。この地点では、二枚貝に卵が産み付けられており、ゼニタナゴの繁殖地点を特定することもできた。

 杉山秀樹・秋田県立大客員教授は「全国の大河川が、外来魚の放流や河川整備などによってゼニタナゴの住みにくい環境になっている中、本来の生息域で見つかったことは非常にうれしい。今後はさらに、保全に向けて調査を続けていきたい」と話した。

 今回の広範囲な調査は、環境DNA分析という手法が比較的低コストで簡単に行えることから実現した。ゼニタナゴ以外の水生希少種の調査にも役立ちそうだという。

喜ぶだけでは無意味

 2010年には、かつて秋田県の田沢湖だけに生息していたが、水質悪化などの影響で1940年以降に絶滅したとされてきた日本固有の淡水魚「クニマス」が、山梨県の西湖で生息しているのが確認され、明るいニュースとなって全国を駆け巡った。

 また琉球大などの研究チームは今年8月、長崎県・対馬でカワウソ1匹の映像を撮影したと発表。1979年に高知県須崎市で目撃されたのを最後に絶滅したニホンカワウソではないかと日本中で話題を呼んだ。こちらは環境省の緊急調査が行われ、「ニホンカワウソである可能性は低い」と結論づけられたが、失われた種に対する日本人の関心は実に高い。

 だが、杉山客員教授は「絶滅したと思っていた種について『いた』『いない』と一喜一憂するだけでは意味がない。なぜいなくなったのか、危機的状況に追い込まれた理由をきちんと検証しないかぎり、種の絶滅は止まらない」と指摘している。(科学部 伊藤壽一郎)