朝鮮戦争再開で韓国は参戦するか ゴネようと米軍は頭ごしに対北攻撃を敢行する!

野口裕之の軍事情勢
11月7日、韓国・平沢の在韓米軍基地を訪れ、米軍や韓国軍兵士らと昼食をとるトランプ米大統領(左)。韓国の文在寅大統領(右)も同行したが、米韓軍事関係は揺れ動いている(AP)

 韓国の文在寅・大統領はこれまでの発言から事実上、「韓国は米国を裏切り、中国に接近するが、米国は韓国に隠し事をしてはならない」と宣言したも同じだ。北朝鮮の独裁体制に深く共鳴する文在寅政権の思想傾向を考慮すれば、「親中排米」体質は驚くには当たらない。ところが、朝鮮戦争再開前夜という危機的状況の中、11月14日まで日本海で行われた日米(韓)共同演習の直前、韓国は参加を拒否してきた。これには驚いた。いかなる底意があるのかは後述する。が、5月の文在寅政権発足後、諸々の不穏な動きを受け、在韓米軍では朝鮮戦争再開時、韓国軍の作戦行動が鈍化する事態も視野に入れ、作戦を練り直しているといわれる。米軍は、韓国に対して《彼我(敵・味方)の識別》を開始したのである。

(※11月20日にアップした記事を再掲載しています)

 折しも、韓国を訪問した米国のドナルド・トランプ大統領は11月7日、在韓米軍基地を訪問し、在韓米軍司令官のヴィンセント・ブルックス陸軍大将のブリーフィングを受けたが、日韓軍事筋は筆者に「軍事オプションの説明だった」と明かした。2000名もの在沖縄海兵隊員も既に韓国に展開済みで、朝鮮半島情勢は刻刻とキナ臭くなっている。

韓国は米国の対北攻撃態勢を事前掌握し、中朝に通報するハラ

 文在寅・大統領は11月1日、国会の施政演説で断言した。

 「朝鮮半島で、韓国の事前同意のない軍事的行動はあり得ない」

 文氏は、韓国が「日本の“植民地支配”より解放された記念日」と自称する8月15日の《光復節》式典でも、同種の挨拶をしている。

 「韓(朝鮮)半島での軍事行動に決定することができるのは大韓民国だけであり、誰も大韓民国の同意なしに軍事行動を決めることはできない」

 発言を“単品”で取り上げると、「国家主権を堅守する覚悟を表明した」との解釈も成り立つが、セットで見つめ直すと、そんな崇高な精神は雲散霧消する。

 9月末、韓国は中国の「関係改善の3条件=3つのノー」要求をほぼ無条件でのみ、ほぼ満額回答で応えた。

 すなわち-

 (1)米国のミサイル防衛システムに加入しない。

 (2)日米韓の安全保障協力は軍事同盟に発展しない。

 (3)北朝鮮・朝鮮人民軍の核・ミサイル攻撃などから韓国を守る米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)システムの追加配備をしない。

 関係者の間では、満額回答が「韓中経済の仕切り直しの誘い水」との指摘もある。

 確かに、中国はTHAADシステムのレーダーが北京・天津の手前までのぞけることで配備に猛反発。意図的に韓国への旅行客を制限し、韓国系企業の経営妨害まで行った。一連の嫌がらせを中止させたい思いはあるだろう。

 中韓通貨スワップ協定の延長も確約させたいはず。

 ただし、経済問題に特化する指摘は甘すぎる。

 そもそも、《米国のミサイル防衛システムへの不参入》や《将来的な日米韓の安全保障協力体制》といった国運を問われる戦略レベルの重大課題を、同盟国・米国や米国の同盟国・日本に相談もしないで、日米にとっての敵性国家・中国との間で勝手に決める二股外交は国際のルールを無視している。

 朝鮮・中国より来日した志士を当初は熱烈に応援していたが、一転して大きな失望を抱くに至った福澤諭吉(1835~1901年)の朝鮮・中国観も、そのあたりを突いている。

 《脱亜論》《朝鮮人民のために其国の滅亡を賀す》《文明論之概略》などを総合・意訳すると、福澤の朝鮮・中国観はこうなる。

 《この二国に国際常識を期待してはならない》

 《国際の法やマナーを踏みにじって恥じぬ二国と、隣国故に同一視されるのは一大不幸》

 《二国には国際の常識・法に従い接すべし。(国交は別として)気持ちにおいては断交する》

 では、文在寅政権が「韓中協商」を米韓同盟の上位に位置付け、《国際の法やマナーを踏みにじって》までたどり着きたい到達点は奈辺にあるのだろうか? 

 筆者が安全保障関係者と実施したシミュレーションでは、次のシナリオが結果の一つとして浮上した。

 《韓国を可能な限り共産主義化し、中国の支援を受け、北朝鮮と同化していく謀略》

 「朝鮮半島で、韓国の『事前』同意のない軍事的行動はあり得ない」といった文在寅・大統領の演説も、北朝鮮との「同化謀略」への準備を臭わせる。実際、米国の対北攻撃態勢を『事前』に掌握し、中国や北朝鮮に通報するハラだと、シミュレーションの一つは映し出していた。

韓国軍が静観しようと“消極的参戦”は不可避

 韓国に文在寅政権が誕生した5月以降、外部メディアや講演会に出ると、番組キャスターや聴衆が頻繁に尋ねてくる質問がこれ。

 「親北サヨクである韓国の文在寅・大統領は米軍の北朝鮮攻撃に反対し、韓国軍に参戦を命じないのでは?」

 筆者は毎回、こう答えている。

 「米国はやらねばならぬ情勢となれば、韓国の同意など必要としない。韓国がゴネようと、頭ごしに対北攻撃を敢行する」

 幾つか理由はあるが、元々、米軍の対北先制攻撃作戦の一つは《北朝鮮・朝鮮人民軍の各司令部など軍事中枢+レーダーなど軍事施設+ミサイル・砲兵部隊…に対する2派程度にわたる大規模な各種ミサイル攻撃》→《有人・無人の航空戦力による朝鮮労働党の金正恩・委員長を頂点とする党や軍の首脳に対する精密誘導(ピンポイント)攻撃》を、緒戦での念頭に置く。

 戦争終盤を例外とすれば、地上軍は要人の暗殺・拉致任務を帯びる大規模な各種特殊作戦部隊の潜入に限られる公算が大きい。

 ミサイルや航空戦力、特殊作戦部隊は理想的攻撃ではなくなるものの、韓国の領土・領空・領海を使用せずとも北朝鮮を急襲可能。韓国の主権を侵さず、少なくとも米国の立場からすれば「国際法上合法的」に作戦を完遂できる。

 もっとも、かくなる状況に陥れば米韓同盟は機能不全になる。 

 半面、事前通告の有無に関係なく、開戦となれば、韓国陸軍は主力をもって南北軍事境界線(38度線)に貼り付かざるを得ない。韓国軍の“消極的参戦”は不可避となる。

 以上のようなシナリオを考えていたのは筆者らだけではなかった。

 米国の政府系メディア《ボイス・オブ・アメリカ=VOA》が報じた2人の在韓米軍司令官経験者の発言には、韓国を取り巻く現下の緊張情勢をよそに利敵外交にふける文在寅・大統領の姿勢に「怒気」さえ含んでいた。

 2006~08年にかけて在韓米軍司令官を務めたバーウェル・ベル退役陸軍大将は言い切った。

 「北朝鮮が米国本土を攻撃すると威嚇しているが(米国が)軍事的対応に出る場合、在韓米軍の運用には米韓両国の承認が必要だが、仮に(韓国が)拒否しても、米国は国際法に従い韓国に駐屯していない(オフショア)軍事資源を投射し、北朝鮮を攻撃できる。そこに、韓国の承認・協力は必要としない」

 「(米本土・ハワイ・アラスカ・グアムと北朝鮮周辺の海上に陣取る米軍資源に加え)日本や豪州といった(米軍が駐留する)他の同盟国も、韓国の承認を得ず作戦に参加することが可能だ」

 筆者はとっさに、朝鮮半島をにらみ日本海に派遣された3個の米海軍・空母打撃群が頭に浮かんだ。空母打撃群は在韓米軍の隷下にはないのだ。 

 ベル将軍は続けた。 

 「北朝鮮が米本土に対する核打撃力を保有する情勢に関し、米韓相互防衛条約では直接的明示がない。従って(北朝鮮の対米核打撃力の無力化は)条約の枠組みの外で行われる」

 2011~13年まで在韓米軍司令官だったジャームズ・サーマン退役陸軍大将も同じ認識を披露した。

 「全ての国家は自衛権を保有する。北朝鮮が延坪島を砲撃した際、韓国が反撃し自衛権を発動したケースと同様、われわれも自衛権を有している。米領グアムにミサイルが襲来するのなら韓国と同様、米国も生存権を行使する。韓国の承認を必要としない」

 米国憲法にも、自衛・生存に伴う諸々の措置を実行するにあたり「同盟国の同意」をうたった条項はない。

在韓米軍撤退を謀る文在寅政権

 2人の元在韓米軍司令官の証言をもう一度読み返して、筆者は「怒気」だけでなく、在韓米軍司令官時代以来の「対韓疲労」も強く感じた。対韓疲労を発症させた要因の一つは《戦時作戦統制権》の所在だった。

 戦時作戦統制権とは、戦時に軍の作戦を指揮する権限。現在の米韓連合司令部では、在韓米軍司令官(大将)が連合軍司令官を兼務して戦時作戦統制権を行使し、連合軍副司令官は韓国軍の大将が就いている。言い換えれば、韓国軍は戦時、米軍の指揮下で軍事行動を実施し、単独で自軍を動かせない。

 戦時作戦統制権の淵源は、朝鮮戦争(1950~53年休戦)にまでさかのぼる。爾後、北朝鮮情勢の緊迫化や従北サヨク政権の出現の度、戦時作戦統制権が米韓の駆け引きのテーブル上に並んだ。

 従北サヨクの盧武鉉政権は米国に対して戦時作戦統制権の返還を求めた。要求を受け、2006年の米韓首脳会談で米国は戦時作戦統制権の返還に合意する。2007年には返還期限「2012年4月」が設定された(その後の保守政権で延期を繰り返す)。

 けれども、盧武鉉・大統領の隠された狙いは戦時作戦統制権の返還ではなかった。盧氏は返還要求前、トンデモない極秘命令を韓国軍合同参謀本部に下していた。

 「在韓米軍撤退と撤退に伴う対策の研究をせよ」

 自軍戦力の限界を悟る韓国軍合同参謀本部は、のけ反った。

 そこで、盧氏の研究命令を「戦時作戦統制権の返還」に巧みにすり替えたのだった。 

 韓国の従北サヨク政権の陰謀が《在韓米軍撤退》にあると察知した米国は以来、戦闘部隊を含む各部隊を南北軍事境界線(38度線)はもとより、ソウルの後方へと逐次後退させている。

 盧武鉉・大統領を大統領選挙中も支え、盧武鉉政権では大統領秘書室長を務めるなど「盧武鉉の影法師」と呼ばれ最側近であった文在寅・大統領も、自らの大統領選挙で戦時作戦統制権の任期内返還を公約。盧武鉉政権にならい、またも戦時作戦統制権の返還話を持ち出した。

 当然、最終的な狙いは《在韓米軍撤退》である。

 ところで、11月9日、中国の習近平・国家主席と会談したトランプ大統領は「問題解決の時間はなくなりつつあり、『全ての選択肢』が依然、テーブルの上にある」と伝えている。

 『全ての選択肢』に朝鮮戦争再開時、韓国軍の作戦行動が鈍化し、米軍の対北攻撃を半ば静観する事態への対抗作戦が加わったのは間違いなかろう。