文在寅政権が描く朝鮮戦争シナリオ 中国接近→韓国極左化→在韓米軍排除→北と同化

野口裕之の軍事情勢
11月7日、ソウルで共同記者会見に臨むトランプ米大統領(左)と韓国の文在寅大統領(AP)

 朝鮮戦争再開を食い止めるには、北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩・委員長が核・ミサイル開発を放棄する他はない。しかし、金氏にその意志は全くない。金氏が核・ミサイル放棄を実行しない限り、筆者は朝鮮戦争再開は不可避だと、2016年秋から主張し続けてきた。折しも、韓国を訪問した米国のドナルド・トランプ大統領は11月7日、在韓米軍基地を訪問し、在韓米軍司令官のヴィンセント・ブルックス陸軍大将のブリーフィングを受けたが、日韓軍事筋は筆者に「軍事オプションの説明だった」と明かした。2000名もの在沖縄海兵隊員も既に韓国に展開済みで、朝鮮半島情勢は刻刻とキナ臭くなっている。

2000名の在沖縄海兵隊増強が示唆するマティス国防長官の軍事思想

 筆者は、在韓米軍隷下の陸軍戦闘部隊に加え、2000名の在沖縄海兵隊が増強された陣立てに、ジェームズ・マティス国防長官の強烈な信念を垣間見る。ブルックス司令官もトランプ大統領に、マティス長官の軍事思想に基づいた軍事オプションを解説したに違いあるまい。

 まずは、朝鮮戦争が再開となった際の、作戦の推移をお復習いしてみる。

 米軍の対北先制攻撃作戦の緒戦における基本パターンは《北朝鮮・朝鮮人民軍の各司令部など軍事中枢+レーダーなど軍事施設+ミサイル・砲兵部隊…に対する数派にわたる大規模・猛烈な各種ミサイル・爆弾攻撃》→《有人・無人の航空戦力による朝鮮労働党の金正恩・委員長を頂点とする党や軍の首脳に対する精密誘導(ピンポイント)攻撃》を念頭に置く。

 攻撃前や攻撃中にサイバー攻撃や電子妨害で、朝鮮人民軍の《C4ISR》、すなわち指揮・統制・通信・情報・監視・偵察機能を遮断する作戦の併用は言をまたない。各種ミサイル・爆弾の中に、地下の要塞・坑道を破壊する《大型バンカー・バスター》や爆風で敵を殲滅する《気化爆弾》も投入されるだろう。 

 当然ながら、《各種ミサイル・爆弾攻撃》も《精密誘導攻撃》も《サイバー攻撃》も《電子妨害》も、北朝鮮の核・ミサイル関連施設の破壊・機能不全が最重要任務になる。 

 戦争後半を例外とすれば、地上軍は要人の暗殺・拉致任務を帯びる大規模な各種特殊作戦部隊の潜入に限られる公算が大きい。

 けれども、ミサイルや航空戦力と最低限の地上兵力で、雌雄を決する戦果は得られない。米軍には苦い経験がある。

 小欄を書くにあたり、米国のマティス国防長官が統合戦力軍司令官(海兵隊大将)だった時分に記した論文を読み返した。 

 マティス氏は論文などで、《効果に基づく作戦=Effects-Based Operations=EBO》を完全否定した。EBOはミサイルや航空戦力を主力に迅速・効率的な作戦目標完遂を目指し、地上兵力を軽視する。マティス氏は、EBOでは作戦目標の完遂は無理だと断じ、ミサイル・航空戦力に十分な地上兵力投入を組み合わせ、情報収集→火力の誘導→敵の撃破→拠点制圧を網羅する統合作戦を主唱した。

 マティス論文では、《砂漠の嵐作戦=1991年》や《コソボ作戦=1999年》、それに《イラク戦争=2003~11年》など、米軍が絡むEBOが失敗の連続だった戦訓も引き出している。

 イスラエル軍も然り。イスラエル軍は2006年、レバノン南部に潜伏していたイスラム教シーア派武装組織ヒズボラに対し、EBOに偏重した、激烈な空爆を実施した。イスラエル軍警備小隊がヒズボラに急襲され、8名が戦死し2名が拉致された被害への報復であった。

 米軍は3日間続いた空爆を総括し、《ヒズボラの軍事施設破壊は7%で、指揮系統にも痛打を与えなかった。航空戦力への過信が根源に存在し、全く効果がなかった》と分析。イスラエルの情報機関も《激烈な空爆と小規模の地上軍のみでは、拉致された2名も奪還できず、ヒズボラのロケット攻撃も漸減させられなかった》と結論付け、イスラエル政府高官に上申している。 

「北朝鮮の核保有」を認め始めた文在寅政権

 国防長官に就任したマティス氏は今なお、EBOに極めて懐疑的で、北朝鮮攻撃でも地上軍の投入時機を絶対にはずさない。 

 米軍最高司令官たるトランプ大統領も、自らが軍事の素人だと自覚しており、名将マティス氏の軍事合理性に徹した助言を素直に受けいれている。この点、官僚が作戦レベルに政治介入して泥沼化を誘発したベトナム戦争やイラク戦争での誤りを、トランプ大統領は繰り返さないと思う。

 むしろ筆者は、朝鮮戦争再開に臨み、韓国の文在寅政権が米軍の作戦行動を妨害する挙に出る利敵行為を懸念する。

 6月の米韓首脳会談直前だけ切り取って分析しても、妨害工作の芽は如実に現れている。

 「北朝鮮が核・ミサイル開発を中断するなら、韓米合同軍事演習と米軍の戦略兵器を縮小できる。これは文在寅・大統領の考えだ」

 「北朝鮮が非核化に応じなければ対話をしないとの米国の考えには反対だ」

 トンデモない内容だが、北朝鮮側の発言ではない。発出元は文在寅政権の統一・外交・安全保障担当大統領特別補佐官の文正仁氏。「北朝鮮を事実上の核保有国と認めよう」と平然と話す文正仁氏は文在寅・大統領の本音の代弁者ともいわれる。

 韓国は中国の「関係改善の3条件=3つのノー」要求をほぼ無条件で呑み、ほぼ満額回答で応えた。

 (1)米国のミサイル防衛システムに加入しない。

 (2)日米韓の安全保障協力は軍事同盟に発展しない。

 (3)北朝鮮・朝鮮人民軍の核・ミサイル攻撃などから韓国を守る米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)システムの追加配備をしない。

 「3つのノー」を丸呑みしたのも、文在寅・大統領と文正仁・特別補佐官の共通方針だ。

 既に(2)は実行に移された。朝鮮戦争再開前夜の危機的状況の中、11月14日まで日本海で行われた日米(韓)共同演習の直前、韓国は参加を拒否。日米と米韓の分離演習を成功させたのだ。

 もっとも、米国防総省では、文在寅政権発足の5月以降、韓国軍への情報統制を強化。むしろ、文正仁・特別補佐官や筋金入りの親北活動家、任鍾晢・大統領室長らが北朝鮮側に米韓軍情報を通報するとみて、ニセ情報すら流し始めた、という。

 在韓米軍でも、韓国軍最高司令官の文在寅・大統領が朝鮮戦争再開時、韓国軍の作戦行動を鈍化させ、半ば静観する事態に備えている。11月9日、中国の習近平・国家主席と会談したトランプ大統領は「問題解決の時間はなくなりつつあり、『全ての選択肢』が依然、テーブルの上にある」と伝えたが、『全ての選択肢』に、韓国大統領命令で「洞ヶ峠を決め込む」韓国軍への対抗作戦が加わったのだ。米軍は、韓国に対して《彼我(敵・味方)の識別》を開始したのである。

 文在寅政権は、米韓同盟解消と同盟解消に伴う在韓米軍撤退を確実に狙っている。

 文正仁・特別補佐官も「多くの人が『韓米同盟が崩壊しても戦争はいけない』と言っている。同盟が戦争をする仕組みになっているのなら、同盟に賛成する人はあまりいない」「南北関係がうまく解決すれば、韓米同盟にはこだわらない」との放言、否、文在寅政権の戦略を明言した。

北朝鮮との同化を狙う文在寅政権

 実のところ、在韓米軍撤退は過去に《戦時作戦統制権の返還》を隠れ蓑に、実行寸前まで謀られた。

 戦時作戦統制権とは、戦時に軍の作戦を指揮する権限。現在の米韓連合司令部では、在韓米軍司令官(大将)が連合軍司令官を兼務して戦時作戦統制権を行使し、連合軍副司令官は韓国軍の大将が就いている。言い換えれば、韓国軍は戦時、米軍の指揮下で軍事行動し、単独で自軍を動かせない。

 戦時作戦統制権の淵源は、朝鮮戦争(1950~53年休戦)にまでさかのぼる。爾後、従北サヨク政権の出現の度、戦時作戦統制権が米韓の駆け引きのテーブル上に並び、保守政権で延期を繰り返した。

 従北サヨクの盧武鉉政権は米国に向かい戦時作戦統制権の返還を求めた。要求を受け、2006年の米韓首脳会談で米国は戦時作戦統制権の返還に合意する。2007年には返還期限「2012年4月」が設定された(後に保守政権で延期)。

 ところが、盧武鉉・大統領(1946~2009年)の隠された狙いは戦時作戦統制権の返還ではなかった。盧氏は返還要求前、恐ろしい極秘命令を韓国軍合同参謀本部に下していた。

 「在韓米軍撤退と撤退に伴う対策の研究をせよ」

 自軍戦力の限界を悟る韓国軍合同参謀本部は、のけ反った。

 そこで、盧氏の研究命令を「戦時作戦統制権の返還」に巧みにすり替えたのだった。 

 韓国の従北サヨク政権の陰謀が在韓米軍撤退にあると察知した米国は以来、戦闘部隊を含む各部隊を南北軍事境界線(38度線)はもとより、ソウルの後方へと逐次後退させている。

 盧武鉉・大統領を大統領選挙中も支え、盧武鉉政権では大統領秘書室長を務めるなど「盧武鉉の影法師」と呼ばれ最側近だった文在寅・大統領も、自らの大統領選挙で戦時作戦統制権の任期内返還を公約。盧武鉉政権にならい、またも戦時作戦統制権の返還話を持ち出した。

 しかも、師であった盧氏の失敗に学んだ弟子の文氏は、「在韓米軍撤退と撤退に伴う対策の研究」を命令し、慌てた韓国軍合同参謀本部が「戦時作戦統制権の返還」へと盧武鉉政権時と同様、再び巧みにすり替え、上申しようとも、百パーセント看破し上申を却下。在韓米軍撤退へのカジを固定する。

 文在寅政権はまさに、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞の論説と同じ路線を歩んでいる。いわく-

 《米国は米韓連合司令部を速やかに解体し、直ちに撤退すべきだ》  

 かくして、韓国は既述した「3つのノー」にも象徴されるが、在韓米軍撤退に向け「韓中協商」を樹立し、静かに極左化を始めている。が、在韓米軍撤退も筋書きの途中経過に過ぎない。では、最終到達点は奈辺にあるのだろうか? 筆者が安全保障関係者と実施したシミュレーションでは、次のシナリオが結果の一つとして浮上した。

 《韓国を可能な限り極左化し、中国の支援を受け、北朝鮮と同化していく謀略》

 「朝鮮半島で、韓国の『事前』同意のない軍事的行動はあり得ない」と、文在寅・大統領が国会などで繰り返した演説にも、北朝鮮との「同化謀略」への準備を臭わせる。実際、米国の対北攻撃態勢を『事前』に掌握し、中国や北朝鮮に通報するハラだと、シミュレーションの一つは映し出していた。

 ただし、これまでの韓国のように中国に利用されていると考えるのも早計だ。 

 極めて深刻かつ不気味なのは、トランプ大統領の訪韓中、ニコニコ顔を作り続けた文在寅・大統領に透けて見えるが、韓国が米国にも良い顔をし、その陰で中国と誼(よしみ)を通じる背景に、韓国の歴代政権とは異なり《事大主義》の臭気が感じられぬ点だ。

 事大主義とは《小が自らの信念を封じ、大=支配的勢力に事(つか)え、自己保身・生存へと流されていく外交姿勢》などを意味する。

 文在寅・大統領は大国たる中国へと流されているのではない。むしろ、積極的に中国に近付き→韓国の極左化を加速させ→在韓米軍を追い払い→北朝鮮との同化を目指している。