俳優、船越英一郎が平成の赤ひげに挑む テーマ損ねず新しい作品にした自負

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NHK BS時代劇「赤ひげ」主演の船越英一郎(酒巻俊介撮影)

「赤ひげ」(NHKBSプレミアム 金曜午後8時~)

 「オファーを受けるのは暴挙じゃないか、と。主演の話をいただいたときには正直、逡巡(しゅんじゅん)しました」

 作家、山本周五郎が生んだ医師、「赤ひげ」こと新出去定(にいで・きょじょう)。江戸の無料診療所を舞台に貧者救済の仁術を施す武骨な医師の活躍は銀幕やテレビで幾度も映像化され、三船敏郎、小林桂樹(けいじゅ)、萬屋錦之介、藤田まことといった名優たちが演じてきた。

 役者としての仕事を山脈にたとえると、「赤ひげ」はその頂にあるような作品だという。

 「でも、あえて暴挙に挑戦することを冒険と呼ぶんですよ。尻込みすべきではないと、心を決めました」

 意外にも、時代劇の主演は初めての経験だそうだ。

 「過酷な状況を楽しむため、万全の準備で挑みたい」

 過去の映像作品を繰り返し見て、歴代の演技からエッセンスをくみ取り、新たなアプローチを追求していった。たとえば、トレードマークでもあるひげの試作は2カ月間にも及んだ。加齢とともに白いものが混じっているだろう、薬品で焼けてもいるはず…。メーク担当らと打ち合わせを重ね、全体的に色を抑えた画質を採用した作品に、赤っぽいひげが存在感を示すように仕上げた。

 ドラマは青年医師、保本(やすもと)登(中村蒼(あおい))が師である赤ひげとの交流を通して成長する物語でもある。赤ひげは、ときに完全無欠な庶民のヒーローというイメージが色濃い。だが、混迷が続く現代の赤ひげを演じることにこだわった。

 「無知と貧困にあえぐ市井の人々の救済に粉骨砕身しながらも、自身がどれだけ無力な存在であるかを誰よりも自覚していたはずです。自分へのいらだちが意図せずにじみ出てしまう。そんな未熟な部分を持ち合わせた男の姿もまた魅力的ではないか。この作品を、赤ひげ自身の成長譚にもしたかった」

 山本が作品に託したテーマを損ねることなく、新しい映像作品として送り出したことへの自負がある。

 「人が必死に生きている姿をどこか滑稽に描き出しつつ、人情の機微にも触れていく、そんな演技を目指したつもりです。人がおかしくもやがて悲しき存在として、どうしようもなくいとおしいものであるということを少しでも感じてもらえたなら、うれしい。ぼくも赤ひげと一緒に冒険できたのかなと思いますね」

 平成の赤ひげもまた、先達たちが登った頂に立った。(文化部 玉崎栄次)

 〈ふなこし・えいいちろう〉昭和35年生まれ。神奈川県出身。57年、ドラマ「父の恋人」(TBS系)で俳優デビュー。テレビを中心に活躍し、とりわけ2時間ドラマの主演が多く、「サスペンスドラマの帝王」と呼ばれる。NHKの昼の情報番組「ごごナマ」の司会を務めるなど、バラエティーでも活躍している。