花屋さんの店先に青い花がたくさん並ぶ日 

びっくりサイエンス
農業・食品産業技術総合研究機構とサントリーグローバルイノベーションセンターが共同で開発に成功した「青い菊」=22日、茨城県つくば市(桐山弘太撮影)

 今年7月に論文発表された世界初の「青い菊」が今月22日、茨城県つくば市の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)でお披露目された。15系統の菊で青色化に成功し、バラやカーネーション、ユリなどにも同じ手法が応用できる可能性があるとしており、青い花が生活に新たな彩りを与えてくれそうだ。

国内市場の3割を占める菊

 本来の色ではない青い花を人工的に咲かせた例は、サントリーグループがオーストラリアのベンチャーと共同開発した青いカーネーションやバラが知られる。しかし、国内の切り花の産出額でみると、実はカーネーションとバラを合わせても市場全体の15%に過ぎず、菊は31%とダントツだ。また、今回の技術は、従来の青色化とは原理も一部違っているため、市場に新たなインパクトを与えるとみられる。

 菊の花は、黄色や白のイメージが強いが、赤や紫もある。しかし、青紫や青といった青系の花を咲かせる品種は近縁にもないという。そこで農研機構は平成16年からサントリーと共同で遺伝子組み換えによる青色化の研究に取り組んだ。

 青から紫、赤にかけて発色する花では主に、アントシアニンという色素群が関わっている。アントシアニンは分子構造によってシアニジン(赤)、デルフィニジン(青)、ペラルゴニジン(だいだい色)などの物質に分けられる。

 青く咲かないなら、他の花から取ってきた青色遺伝子を組み込むことが王道だ。研究チームは、さまざまな青色遺伝子の導入効果を調べる中で、キキョウの仲間であるカンパニュラの遺伝子を組み込んだ菊で青色色素が作られることを見つけ、25年にデルフィニジン100%の菊の作出に成功した。しかし、色は青紫が限界だった。

想定外の幸運

 そこで、より青いチョウマメが持つ青い色素は、デルフィニジンに糖や芳香族有機酸と呼ばれる分子が結合していることに着目。菊でこれを作らせるには、デルフィニジンに糖を付け、さらに芳香族有機酸を作る遺伝子と、それをデルフィニジンに結合させる遺伝子が必要だ。

 研究チームはまず、デルフィニジンを作る遺伝子と、その分子に糖を付ける遺伝子を組み込んだ。すると、それだけで青い菊が咲いた。農研機構野菜花き研究部門の野田尚信氏は「思いがけない幸運だった」と話す。

 本来は、デルフィニジンに糖が結合しただけでは青紫色のはずだ。分析の結果、菊が本来持っている無色のフラボンという物質との相互作用によって、デルフィニジンと糖の結合物が青色に発色したという結論に至った。

 デルフィニジン、フラボンなどの色素分子は、原子が六角形につながった「六員環」「亀の甲」などと呼ばれる構造を持っている。物質が特定の色に見えるのは、それ以外の色を物質が吸収しているためで、六員環の周囲を回る電子の軌道が特に発色に関与しているという。

 「一般に、六員環が積み重なって相互作用することで青が発色するといわれている。おそらくデルフィニジンに糖が付いたことで、フラボンとお互いにいい具合に青く発色できる構造で積み重なったのではないか」と野田氏は推測している。

市販は10年以内

 作出した青い菊は、2種類の外来遺伝子を細菌を使って組み込んでいるため遺伝子組み換え作物だ。近年は細菌を使わない「ゲノム編集」と呼ばれる方法が生まれているが、この方法を使ったとしても本来、種が持っていない遺伝子を組み込んでいるので組み換え作物にあたる。生態系に影響を与えないためには、花粉や種子を作らないように性質をコントロールし、日本を含む世界各国が締約する「カルタヘナ議定書」に基づき生物多様性影響評価を受ける必要がある。

 青い菊の市販品が登場するのは「10年以内」(野田氏)というから、花屋さんの店先に並ぶまで、少し気長に待つ必要がある。

 国内の切り花の産出額は31%の菊にユリ(11%)、バラ(9%)、カーネーション(6%)を合わせた4種類で計57%と半分を超える。しかし、この4種類は通常の交配による品種改良で作られた青い花はなく、量販店が仕入れる花の色は紫が6~7%、青が2~3%程度しかない。野田氏らは菊などで青い品種が増えることで、花卉(かき)産業を活性化できるとみている。

 ところで、赤、黄、白に青…となると、あとは黒があればフラワーアレンジメントなどでさらに表現力が増す気がするが、野田氏によると、黒は色素が濃い場合に光を吸収するため黒く見えるのであって、黒い色素が作られているというわけではない。濃いアントシアニンを中心に、黄色のカロテノイド、緑色のクロロフィルなどが組み合わさって、黒く見える。交配や遺伝子組み換えで濃く、黒くした実例はないが、需要があれば、交配で選抜していけば作って売り出すことも可能とみられるそうだ。

 市場がどのように反応するか予測は難しいが、青や黒の花が増えれば、男性ももっと花に親しみを感じるようになるかもしれない。(科学部 原田成樹)