在韓米軍高官は韓国を信用せず 文在寅氏&習近平氏&キッシンジャー氏の夢「在韓米軍撤退」

野口裕之の軍事情勢
トランプ米大統領(左)と握手する安倍晋三首相=6日午後、東京・元赤坂の迎賓館

 米国のドナルド・トランプ大統領は今次アジア歴訪で、戦略レベルの巨大な収穫を得た。最大の収穫は、東シナ海&南シナ海制覇をもくろみ軍事膨張を続ける中国や、核・ミサイル開発に狂奔する北朝鮮だけが、果たして米国の仮想敵なのか?という疑心暗鬼ではなかったか。韓国は、米韓同盟で解決すべき安全保障上の極めて重要な課題を、米国と協議する前に中国と“解決”してしまった。仮想敵が言い過ぎならば、日米同盟にとって「敵性を秘める要警戒国家」と断じて差しつかえあるまい。実際、かつて従北サヨクの盧武鉉大統領(1946~2009年)が謀りめぐらした《在韓米軍撤退》工作は、文在寅政権下でまたぞろ危ない顔をのぞかせ始めたのだ。

 盧大統領を大統領選挙中も支え、盧武鉉政権では大統領秘書室長を務めるなど「盧武鉉の影法師」と呼ばれ最側近だった文在寅大統領は、自らの大統領選挙で戦時作戦統制権の任期内返還を公約。政権の座に座って以降も盧氏同様、米国に対する正式な戦時作戦統制権返還要求の時機をにらんでいる。ただ、後述するが、盧氏も文氏も、最終着地点は戦時作戦統制権返還に置いてなどいない。では、米韓同盟の崩壊か?というと、もっと恐ろしい先がある。こちらも後で説明する。

 戦時作戦統制権とは、戦時に軍の作戦を指揮する権限。現在の米韓連合司令部では、在韓米軍司令官(大将)が連合軍司令官を兼務して戦時作戦統制権を行使し、連合軍副司令官は韓国軍の大将が就いている。換言すれば、韓国軍は戦時、米軍の指揮下で軍事行動を実施し、単独で自軍を動かせない。

 しかし、盧武鉉大統領の隠された狙いは戦時作戦統制権の返還ではなかった。盧氏は返還要求前、トンデモない極秘命令を韓国軍合同参謀本部に下していた。

 「在韓米軍撤退と撤退に伴う対策の研究をせよ」

 自軍戦力の限界を悟る韓国軍合同参謀本部は、のけ反った。

 そこで、盧氏の研究命令を「戦時作戦統制権の返還」に巧みにすり替えたのだった。

 返還要求を受け、2006年の米韓首脳会談で米国は戦時作戦統制権の返還に合意する。2007年には返還期限「2012年4月」が設定された。

 一転、2008年に保守系の李明博政権が発足。李大統領は金融危機などを理由に、盧武鉉政権が決めた戦時作戦統制権返還の延期を懇願した。盧氏が謀った「在韓米軍駆逐」謀略時でもそうだったが、さすがに韓国軍首脳は軍事的合理性を逸脱できなかった。李大統領の耳に、何とか内実を届けたに違いない。例えばこんな具合に-

 「戦時において、平時に立案済みの対北朝鮮戦略に沿って→決心し→軍に作戦実施を許可する韓国政府の戦争指導能力は著しく劣っている」 

 結局、戦時統制権は李明博政権→朴槿恵政権と、歴代保守政権で延期が繰り返された。が、盧武鉉大統領と同じく、文在寅大統領にとって戦時統制権返還は米国との駆け引きの道具に過ぎない。文氏は在韓米軍撤退を見据え、着々と準備を進めている。

 しかも、師であった盧氏の失敗に学んだ弟子の文氏は、「在韓米軍撤退と撤退に伴う対策の研究」を命令し、慌てた韓国軍合同参謀本部が「戦時作戦統制権の返還」へと盧武鉉政権時と同様、再び巧みにすり替え、上申しようとも、確実に看破しこれを却下。在韓米軍撤退へのカジを固定する。

 既に、在韓米軍撤退に向け、静かに、不気味に韓国の極左化が始まっている。最終着地点は、在韓米軍撤退(=米韓同盟崩壊)後の北朝鮮との「合併」だ。

米韓協議の前に韓中協議で決定する危なさ

 7日の米韓首脳共同記者会見で、トランプ大統領が「アメリカは必要なら、比類なき軍事力を行使する」と述べたのとは対照的に、文在寅大統領は平和的な解決を目指す姿勢ですかさず“反論”した。北朝鮮に対して、安倍晋三首相とともに軍事攻撃も除外せず「圧力」を強め続けるトランプ大統領と、共同会見で「対話」を連発した文氏との戦略レベルの認識ギャップは繕っても繕いきれていないほど大きい。

 当然だ。韓中間の安全保障関係の深化を観測すればもはや、北朝鮮や中国に備えた「日米韓の連携強化」といった常套句はほころび始めているのだ。

 9月末、韓国は中国の「関係改善の3条件=3つのノー」要求をほぼ無条件でのみ、ほぼ満額回答で応えた。

 すなわち-

 (1)米国のミサイル防衛システムに加入しない。

 (2)日米韓の安全保障協力は軍事同盟に発展しない。

 (3)北朝鮮・朝鮮人民軍の核・ミサイル攻撃などより韓国を守る米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)システムの追加配備をしない。

 関係者の間では、満額回答が「韓中経済の仕切り直しのため」との指摘もある。

 確かに、中国はTHAADシステムのレーダーが北京・天津の手前まで覗けることで配備に猛反発。意図的に韓国への旅行客を制限し、韓国系企業の経営妨害まで行った。こうした嫌がらせを中止したいとの思いはあるだろう。

 中韓通貨スワップ協定の延長も確約させたいはず。

 もちろん、かくなる指摘は甘すぎる。

 《米国のミサイル防衛システムへの不参入》や《将来的な日米韓の安全保障協力体制》といった国運を問われる戦略レベルの重大課題を日米に相談もしないで、独断で決めるのは国際のルールを無視している。

 とりわけ、頭ごなしに敵性国家・中国と安全保障上の利敵取引をされた同盟国・米国は驚愕し、そして警戒したことだろう。ただし、筆者と在韓米軍高官らを除いて。

 筆者も在韓米軍高官も、保守政権を含め韓国の安全保障観をまるで信用していない。特に、親北活動家の巣窟たる文在寅政権は、内政を極左化し北朝鮮との「合併」すら策動しており、北朝鮮に加え中国への漏洩を警戒し、在韓米軍では韓国軍に対する情報提供を露骨に絞り込んでいる。

文在寅大統領が謀る「南北合併」

 ここで、これまでの韓国のように中国に利用されていると考えるのも早計だ。 

 極めて深刻かつ不気味なのは、トランプ大統領の訪韓中、ニコニコ顔を作り続けた文在寅大統領に象徴されるが、韓国が米国にも良い顔をし、その陰で中国と誼(よしみ)を通じる背景に、韓国の歴代政権とは異なり《事大主義》の臭みが感じられぬ点だ。

 事大主義とは《小が自らの信念を封じ、大=支配的勢力に事(つか)え、自己保身・生存へと流されていく外交姿勢》などを意味する。

 文氏は大国たる中国へと流されているのではない。むしろ、積極的に中国に近付き、在韓米軍を追い払い、朝鮮半島の極左化を目指している。トランプ大統領の訪韓を受けた、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞の論説は現時点では、文氏の野望と共通する。

 いわく-

 《米国は、米韓連合司令部を速やかに解体し、直ちに撤退すべきだ》

 一方で、米国内でも在韓米軍撤退論は少なからず浮上している。

 10月末、米国議会調査局は米国が今後採りうる7つの選択肢をまとめたが、《非核化》を前提にしているものの《在韓米軍撤退》も、選択肢の一つとして明記されたのである。米トランプ政権の方針ではなく、議員の参考資料という位置付けだが、撤退が具現化すれば、中国の朝鮮半島への影響力は現在とは比較にならぬほどの飛躍的拡大を遂げ、日米同盟関係の激変を誘発する。

 大統領選の最中、トランプ大統領も在韓米軍撤退に言及したが、どの程度の戦略見通しを基に公言したのか、本気度には疑問符は付く。 

 けれども、米メディアがこのところ繰り返し報じている《キッシンジャー構想》は要注意だ。リチャード・ニクソン政権などで国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたヘンリー・キッシンジャー氏(94)による構想は、大雑把に論じると次のようになる。

 《北朝鮮の核放棄を実現すべく、中国のかつてない強力な取り組みを促すため、北朝鮮の非核化後の在韓米軍撤退で米中が談合→合意する》

 同盟国・日本を無視し、米中国交回復への道を開いたキッシンジャー氏は、トランプ政権の要人や大統領側近と不断に接触を図り、在韓米軍撤退を刷り込んでいる。

 日本の立場など全く眼中にないキッシンジャー氏が、中国の習近平国家主席と文在寅大統領を引き込み、在韓米軍撤退に持ち込む悪夢を、わが国は全力を挙げて断固阻止しなければならない。

 もっとも、在韓米軍高官のほとんどが、何を考えているのか正体不明の韓国に疲れ切っている。存外、在韓米軍高官の側も感情の上では、朝鮮半島撤退を夢見ているかもしれない。