拉致問題 解決を「トランプ任せ」にしていいのか 荒木和博

iRONNA発
トランプ米大統領(左端)と面会した横田早紀江さん(前列右から3人目)ら北朝鮮による拉致被害者家族会のメンバー=6日、東京・元赤坂の迎賓館(ロイター)

 横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されてから、もうすぐ40年になる。先の日米首脳会談では、トランプ米大統領と拉致被害者家族の面会が実現したが、解決に向けて進展の兆しはない。なぜ拉致解決まで米国任せなのか。(iRONNA)

 以前、警察庁の幹部と話をしていてこう言ったことがある。

 「拉致被害者を救出できるなら法律を破りますよ」

 その幹部は何も言わなかった。むろん、彼の立場を考えれば「どうぞ破ってください」とも言えないだろうし、かといって拉致問題を解決できる自信があるわけではないから、「余計なことはしないでください」とも言えなかったのだろう。

 トランプ大統領が来てどんな約束をしても、米国に日本人拉致被害者を救出してもらうことはできない。自分でやるしかない。日本政府はこれまでの流れでいけば、憲法を盾にしてどこまでも米国任せにしようとするはずだが、それで済むほどことは簡単ではない。それどころか、今後さらに難しい問題が日本には押し寄せてくるはずだ。

北朝鮮の武装難民

 総選挙中に麻生太郎副総理が、北朝鮮の「武装難民」に言及して注目を集めた。北朝鮮の状況は切迫しており、すでに高官クラスで脱北する人が相次いでいる。今後何らかの政変、例えば金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の暗殺が起きたとき、秩序が崩壊して各方向に難民が続出するだろう。

 むろん、海を隔てた日本に来る難民はそれほど多くないだろうが、拉致被害者はもちろん、在日朝鮮人の帰還(北送)運動でかつて北朝鮮に行った約9万3千人とその家族がいる。多くは日本を目指すといわれており、その中には難民を偽装した中国朝鮮族や、麻生氏が指摘した武装難民がいるかもしれない。

 北朝鮮の漁船の中には海軍の船も多数存在する。もし、この船が難民船になれば、小銃程度の武器を持ってきても不思議ではない。しかも、このようなケースの場合、銃を撃ちながら港に入ってくるわけではない。隠し持っていて、いざというときに出すだろう。その武装解除は誰がやるのか。

 以上は現実に想定されることの一部である。このような状況になったとき、対応するのは日本政府であり、日本人である。ただ、難民が出てくるような状況は悪いことばかりではない。北朝鮮内部の秩序が崩壊すれば拉致被害者を救出する機会が訪れるからだ。そもそも100人以上いるはずの拉致被害者を、北朝鮮当局との話し合いで最初から帰国させることなど絶対に不可能である。

日本は「放置国家」か

 自衛隊は邦人保護のために外国へ行く場合、相手国の承認を必要とすることになっている。だからどんなチャンスが訪れても、現状では救出に行くことは不可能である。認定か未認定かに関わりなく、拉致被害者家族に対して「法律上助けることはできません」と面と向かって言えるのなら言えばよい。それは法治国家ではなく「放置国家」であると自ら認めたことになるが、できるかのような幻想を抱かせるよりは誠実であるといえるだろう。

 今回の総選挙で与党は大勝した。野党第一党になった立憲民主党はリベラル色が強いが、枝野幸男代表は何だかんだ言っても東日本大震災当時の官房長官である。非常事態に対処した経験はあるのだ。そして日米関係はとにもかくにも良いのである。ある意味条件はそろっているように見える。

 あとは自分でどこまでできるかであり、逆に言えば、これだけ条件がそろっても自分でやらなければ何もできないのである。安倍晋三首相は北朝鮮有事に対処するための解散だと言った。それならば選挙に勝った以上、しっかりと対処しなければならないはずである。

 本来、トランプ大統領に拉致被害者家族を会わせるというのは恥ずかしいことだ。「拉致被害者の救出は日本がやります。米国も協力してください」と言うべきである。

 自ら政治の責任で現在の矛盾を断ち切り、国家としての整合性を確立できるか、安倍政権の真価が問われている。いや、本当に問われているのは私たち日本国民一人一人の真価なのかもしれない。

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【プロフィル】荒木和博(あらき・かずひろ) 拓殖大海外事情研究所教授。昭和31年、東京生まれ。慶応大法学部卒。民社党本部書記局員、現代コリア研究所研究部長などを経て現職。特定失踪者問題調査会代表、予備役ブルーリボンの会代表も務める。著書に『自衛隊幻想』(共著、産経新聞出版)など。