ゾウムシの体が硬いのは共生細菌のおかげだった 産総研が謎解明、害虫駆除に応用も

びっくりサイエンス
共生細菌の減少で体が赤みを帯び、柔らかくなったクロカタゾウムシ(産業技術総合研究所提供)

 頭部がゾウの鼻のように長いゾウムシという昆虫に隠されていた謎が明らかになった。沖縄県に生息する「クロカタゾウムシ」の体が黒くて硬いのは、体内に共生している細菌のおかげであることを、産業技術総合研究所などの研究チームが突き止めた。ゾウムシ類の多くは農作物の害虫で、共生細菌の機能を抑制すれば新たな駆除方法を開発できる可能性がある。

 クロカタゾウムシは体長1・5センチの甲虫で、沖縄・八重山諸島に生息している。マンゴー畑で木の幹や根を食い荒らした被害の報告がある害虫という。

 甲虫は外敵や乾燥から身を守るため体の表面が硬い「外骨格」で覆われている。クロカタゾウムシの外骨格はカブトムシやクワガタよりもはるかに硬く、標本を作製する際も簡単に虫ピンが刺さらないほどだ。

 ゾウムシ類は世界で6万種以上が発見されている。体内に「ナルドネラ」という細菌が1億年以上前からすんでおり、共生関係を続けてきたとみられているが、その役割はこれまで謎だった。

 そこで研究チームはナルドネラのゲノム(全遺伝情報)を解読。その結果、生存に必要な最低限の遺伝子しか持っておらず、大半の遺伝子が失われており、「チロシン」というアミノ酸の一種を作る機能にほぼ特化していることが判明した。外骨格はタンパク質とキチン質からなるが、チロシンはこれらを結合する役割を担う。

 そこで、クロカタゾウムシの幼虫に抗生物質を投与してナルドネラを減らす実験を行ったところ、体液中のチロシン濃度が大きく減少。その後、成虫に育つことはできたが、黒い色素が失われて赤色に変化し、外骨格が硬くならずフニャフニャの体になった。

 また別の実験で、幼虫を通常の飼育温度である25度より高い30度で育て、ナルドネラを完全に死滅させたところ、成虫になることができなかった。

 これらの結果から研究チームは、クロカタゾウムシが成虫に育ち、黒くて硬い体をつくるために、ナルドネラが持つ機能を利用していると結論づけた。

 産総研の深津武馬(たけま)首席研究員は「外骨格を硬くするには大量のチロシンが必要。共生細菌をうまく利用することで手に入れ、自分の体を強くしているようだ」と解説する。

 この仕組みを逆手に取ることで、新たな駆除方法を開発する可能性が開ける。共生細菌だけを標的とする薬剤を、散布などの手段で幼虫に与えれば、細菌の死滅を経てクロカタゾウムシの駆除が可能になる。標的が細菌のため、人体に悪影響を及ぼす可能性も低く安全だ。

 共生細菌を利用しているのはゾウムシ類だけではない。昆虫全体の1~2割が共生細菌に成長や生存、繁殖を依存している。害虫も多く、ゴキブリ、シロアリ、シラミ、アブラムシ、ウンカ、ヨコバイ、カイガラムシなど、厄介者ばかりだ。

 深津さんは「さらに詳しい研究が必要だが、これらを駆除する新たな道も開けるのではないか」と話している。(科学部 伊藤壽一郎)