朝鮮戦争休戦後、最高度に緊迫する半島情勢 有事で国連軍の主力は米軍と中国人民解放軍?

野口裕之の軍事情勢
朝鮮人民軍戦略軍の中長距離戦略弾道ミサイル「火星12」発射訓練の成功を喜ぶ、金正恩朝鮮労働党委員長(右から2人目)。日時は不明。朝鮮中央通信が9月16日報じた(朝鮮中央通信=朝鮮通信)

 米国のドナルド・トランプ大統領のアジア歴訪が終わり、ホワイト・ハウスで通常の執務に戻る11月下旬~来年2月の厳寒期までの間、わが国の悲願である国際連合・安全保障理事会の常任理事国入りが試される事態が勃発するかもしれない。言い換えれば、実績が乏しいにもかかわらず、安易に掲げてきた「国連中心主義」なる過去の看板の真贋が問われる。国連が軍事組織であり、安保理は「軍議の場」だとの実像を直視せねばならぬ、次のごとき事態が起きるかもしれないのだ。

 《朝鮮戦争再開における国連軍、もしくは国連が公認した多国籍軍の編成》

 本来、日本は「二重の意味」で国連軍OR多国籍軍にはせ参じるべき立場なはず。

 一つは、日本は朝鮮半島危機に関わる関係国中、北朝鮮の核・ミサイル攻撃を受ける確率が断トツに高い現実。

 米本土に届く北朝鮮のICBM(大陸間弾道核ミサイル)が実戦段階を迎えるのは来夏だと、筆者は観測している。しかも、対米核攻撃を行えば、米軍による数倍返しの核報復を受ける。他方、日本と韓国を狙う核・ミサイルは実戦段階ではあるが、韓国は同胞であり、対韓攻撃で北朝鮮も核汚染の危険をはらむ。反面、日本は朝鮮半島を併合した憎き敵。対日核・ミサイル攻撃のハードルは、米韓に比べ格段に低い。

 そして今ひとつ、日本には《朝鮮国連軍》の《後方司令部》が在る。後述するが、後方司令部を緒戦で壊滅する作戦は戦のイロハ。北朝鮮の朝鮮国連軍・後方司令部攻撃は、日本攻撃と同義なのだ。

 仮に、対北攻撃が12月であれば、「二重の意味」が「三重の意味」となる。わが国の国連安保理・非常任理事国の任期は12月まで残しており、12月は議長国でもある。

自衛隊と米軍に加え英仏軍が合同訓練を実施するワケ

 今次小欄は、朝鮮国連軍に関する説明より入る。

 朝鮮国連軍は北朝鮮・朝鮮人民軍の対韓奇襲侵略に対抗し、1950年に始まった朝鮮戦争劈頭で編成された多国籍軍である。

 指揮権は米軍が有するが、「国連軍」の冠を国連安保理決議で許された戦史上、戦闘を目的とした唯一の多国籍軍だ。朝鮮戦争は1953年に休戦となったに過ぎず、終結はしていない。従って、朝鮮国連軍は今も解散していない。

 わが国は朝鮮国連軍に参加してはいないが、朝鮮国連軍との間に現在も有効な地位協定を締結。後方司令部所在の横田基地(東京都)など、国内の米軍7基地の利用を承認している。朝鮮戦争休戦以降、最高度に緊迫する半島情勢に鑑みれば、後方司令部が再び本格的運用に戻る可能性は一気に増している。

 もともと、朝鮮国連軍総司令部は日本に設立された。休戦後、総司令部はソウルに移ったが、日本には後方司令部が残った。後方司令部は長く在日米陸軍・キャンプ座間(神奈川県)に陣取ったが、2007年、航空自衛隊と米空軍が使用する横田基地に移動した。

 今なお、英国/フランス/豪州/カナダ/トルコ/ニュージーランド/フィリピン/タイの8カ国の駐在武官が朝鮮国連軍連絡将校の肩書で在京各国大使館に常駐し、会合などに臨んでいる。

 北朝鮮情勢が極度に緊張する中、5月には朝鮮国連軍の一翼を編成する米国・英国・フランスの各国軍と自衛隊が合同訓練を行ったが、地位協定を締結した英仏両国の国軍も日本国内の米軍基地を使用できる。

 4カ国は海上自衛隊佐世保基地(長崎県)に入港(4月末)したフランスの強襲揚陸艦《ミストラル》に、水陸両用作戦を担う陸上自衛隊・西部方面普通科連隊の自衛官や米海兵隊将兵、英海軍のヘリコプターを載せ、海自の輸送艦《くにさき》と合同訓練を重ねながら南下し、グアム周辺海域では4カ国で上陸訓練を実施した。

 水陸両用作戦とは、主に上陸用舟艇などを使って海岸に上陸する戦法だ。 

 さらに、8月には陸自・相浦駐屯地(長崎県)で、英国の海軍&海兵隊の教官を招聘。陸自西部方面隊や海自掃海隊群司令部の自衛官、米国の海軍&海兵隊の将兵が水陸両用作戦に関して受講した。

 英軍は、大西洋の英国領フォークランド諸島をアルゼンチン軍に不法占領され、これを武力奪還したフォークランド紛争(1982年)で、実戦を経験している。イラク軍がクウェートに侵攻し、国連が多国籍軍派遣を決定した湾岸戦争(1990~91年)でも水陸両用作戦を完遂。非戦闘員を戦場から退避させる任務(NEO)も熟達している。

北朝鮮の「米中分割統治」戦略とは?

 米軍にとり、国連軍や多国籍軍は長所と短所を併せ持つ。

 長所は、国際社会の合意が得られる点。短所は、参加国に奇襲=秘匿性の高い作戦日程がバレる恐れがある点。米軍の最先端兵器を駆使した超迅速で超精密な猛攻に、友軍が付いていけず、かえって足手まといにもなる。足手まとい、かつ北朝鮮へ情報を漏らす韓国・文在寅政権に知らせず、米軍単独で攻撃を敢行する筋書きは、いまだに高い。 

 それでも、国連軍や多国籍軍が編成される展望は検証しておかねばならぬ。

 国連が北朝鮮に対する軍事行動を公認する主な合理的基準を列挙すれば、以下のようになる。

 (1)安全保障理事会の「お墨付き」。 

 (2)対北攻撃後、北朝鮮が「より良い国」になる。国際情勢も安定する。

 (3)国連軍OR多国籍軍と朝鮮人民軍の間の戦力バランス(比例原則)。

 (4)対北攻撃以外に、核・ミサイルの実戦配備や核拡散を阻止できぬ「最終手段」であること。

 (5)北朝鮮が「極端な人権侵害」を止めない場合。

 (6)金正恩政権の転覆は認めない。

 まず(1)。「お墨付き」の形態はさまざまある。

 国連安保理は朝鮮戦争勃発後、複数の決議で米軍が指揮を執る多国籍軍編成による軍事力行使を決めた。国連憲章第7章に基づく、安保理が指揮する国連軍ではないが、国連決議で、国連旗を使用し、「国連軍」を名乗ることを許された。

 続いて(2)。24年間も国際社会をだまし、核・ミサイル開発に狂奔してきた北朝鮮を「より良い国」にするには、対北朝鮮攻撃以外の手段はゼロに近い。攻撃の結果、国際情勢も安定する。

 (3)は今後の問題ではあるが、北朝鮮は一貫して核兵器使用を否定しておらず、米軍は起爆力を可能な限り弱めた戦術核の使用も考えている。

 (4)の「最終手段」か否かについて。対北攻撃以外に核・ミサイルの実戦配備を止める手立てがあれば、筆者に教えてほしい。

 (5)もはや、地球上の誰もが、北朝鮮の「極端な人権侵害」を知っている。

 (6)金正恩政権の転覆を意図していない?が、攻撃で政権が崩壊する“想定外”は大いに有り得る。

 ところで、国連軍か多国籍軍が編成されるとして、主力は米軍に加え、中国人民解放軍との分析が、安全保障関係者の中で浮上し始めた。 

 小欄も過去、安全保障関係者と3月と10月に実施したシミュレーションを紹介したが、お復習いしよう。

 いずれのシミュレーションも《中国人民解放軍が中朝国境の鴨緑江を渡河し、北朝鮮に進撃した》との戦況が柱となった。

 しかし、2回のシミュレーションは渡河後、全く違った展開を繰り広げた。

 3月の展開は、

 《4年以内に米軍が北朝鮮に先制攻撃を仕掛ける確率は50~60%となった。あまりの高さに、インプットする前提条件を変えてみたが、50%を割るケースは皆無であった》

 《一方、米国主導の民主的な統一半島国家樹立を恐れる中国の出方は、不透明なシミュレーション結果に終始した。

 米軍が北朝鮮南部の非武装地帯(DMZ)沿いに前方展開する朝鮮人民軍の主力を撃破すれば、中国人民解放軍は中朝友好協力相互援助条約の参戦条項に基づき鴨緑江を渡河し、北朝鮮国内に進出、米韓連合軍の北上を牽制する。

 他方、南北国境保全や韓国北部の緩衝帯構築への既成事実作りに集中し、朝鮮戦争時のごとく、ソウルを抜き釜山に迫るなど積極的攻勢に出るケースはなかった》

 補足すると、米軍がおびただしい数のミサイルや無人機&有人機でDMZ沿いの1万門・基の重火砲を壊滅すれば、韓国軍を主力とする韓米連合軍の北上を牽制するべく、人民解放軍が鴨緑江を渡河し、緩衝帯構築に向け南北国境を少しだけはみ出し、暫定的に韓国最北部の狭いベルト地帯に駐屯する…というシナリオであった。

 これに対して、10月のシミュレーションでは真逆の理由が加わった。一部を記す。

 《半年以内に米軍が北朝鮮に先制攻撃を仕掛ける確率は60~70%となった》

 

 《米軍の対北攻撃に呼応して、中国人民解放軍は鴨緑江を渡河し、河の数十キロ南の北朝鮮の核関連施設が集中する一帯を占領。緩衝帯として暫定統治する。

 その他の北朝鮮中・南部は、金漢率氏を中心とする新体制が樹立される選択肢も示された。金漢率氏は、朝鮮労働党の金正恩委員長の異母兄・金正男氏(1971~2017年)の長男だ。ただ、米中両国がそれぞれどの程度「金漢率政権」に影響力及ぼすかなどの「傀儡率」は判定不能だった。

 暫定統治に至る過程で、中国人民解放軍と朝鮮人民軍の軍事衝突も予想された》 

 事実上、北朝鮮の「米中分割統治」だが、このシナリオの主要な前提は2つある。

 過去記事で詳述しているので、今次小欄では簡単に触れるにとどめるが、一つは、米国と中国が北朝鮮の金正恩政権崩壊後の新体制で談合し、合意することだ。かつてなかったほど悪化している中朝関係が起爆剤となる可能性はある。

 二つ目の前提は、中国の習近平指導部が、金正恩政権の核・ミサイル開発を支える事実上の敵対軍閥《旧・瀋陽軍区=現・北部戦区》を制御OR解体できるか否か。この問題についても過去、小欄で採り上げてきたので省く。

 2つの前提をクリアすれば「米中分割統治」は具現化の度を増すが、多少なりとも国連軍か多国籍軍の体裁を繕えば、統治に一定の正当・正統性をもたらす。

攻撃は米軍単独か米中連合軍か国連軍か多国籍軍か?

 米軍単独OR米中連合軍OR国連軍OR多国籍軍…と、数種の編成が考えられるが、冒頭で述べたように、関係国中で最悪の被害が予想される日本の支援態勢はあきれるほど整っていない。

 有事の際の日米地位協定を精査しても、惨状は明らかだ。

 地方の主要空港・港湾の優先活用+弾薬・燃料・通信・医療の提供&支援につき、議論が煮詰まっていない。地方の反米軍基地闘争や反原発闘争をながめると、地方自治体との協議は難航が予想され、多くは朝鮮半島有事に間に合わないだろう。

 日米地位協定を記した日米安全保障条約改定は1960年。58年近くの間、日本は憲法改正を含む軍事上の重要課題から逃げまくったが、重要課題のヤマを残したまま戦後最大の国難を迎える。

 北朝鮮が暴発し、休戦協定が破棄され、国連軍OR国連公認の多国籍軍が編成されたとしよう。その時、北朝鮮の第一標的(既に撃ち込まれている?)たる日本の国連大使は、国連の議場でこう弁解するのか。

 「憲法上の制約で、国連軍(多国籍軍)には参加できませんが、資金面での支援は惜しみません。感謝の心も忘れません」

 国連の安保理常任理事国入りを目指す前に、「戦後平和主義」なる偽善・独善の仮面を脱ぐのが順番というものだ。