2つのロシア疑惑 政治の不安定化が狙いか

トランプ旋風から1年(3)
9月下旬、スペインの在サンフランシスコ総領事館前でカタルーニャ自治州の独立を訴えるカリフォルニア州独立運動団体「イエス・カリフォルニア」のマーカス・ルイス・エバンス代表(右から2人目)ら(同団体提供)

 「ロシアにまつわる全てのことは選挙で負けたことに対する民主党の言い訳だ。共謀など全くない」(ドナルド・トランプ 10月、記者団に)

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 昨年11月8日の大統領選で敗れた民主党の元国務長官ヒラリー・クリントンは内部メールの流出に苦しめられた。ロシアがサイバー攻撃でクリントンの陣営や民主党全国委員会から選挙戦で不利になる情報を入手、内部告発サイト「ウィキリークス」などを通じて公表して大統領トランプの勝利を手助けした-。これが米情報機関の見立てであり、ロシアによる米大統領選干渉疑惑の核心だ。

 「ウィキリークスや(創設者の)ジュリアン・アサーンジは、いかに民主党が犯罪組織であるか教えてくれた。感謝している」

 ロシア中部エカテリンブルクで暮らす米国人、ルイス・マリネリ(31)は電話取材に対し、アサーンジの“功績”をたたえた。

 マリネリは米西部カリフォルニア州を米国から独立させようとする運動を展開する団体「イエス・カリフォルニア」の共同代表を務めた。大統領選後には独立運動がトランプへの「異議」としてメディアに盛んに取り上げられたものの、意外にもマリネリはトランプに投票していた。

 民主党の候補指名争いでは上院議員のバーニー・サンダースを応援していたが、本選で「政治屋で嘘つき」のクリントンに投票する気にはならなかった。

 独立運動は、フランスを抜いて世界第6位の経済規模を持つカリフォルニア州の住民が連邦政府に血税を吸い上げられる不公平を改め、州独自の文化を守ろうとするもので、トランプが再選を目指す2020年大統領選を機に独立の意思を問う住民投票の実現を狙う。

 カリフォルニア州立大フレズノ校のジェフリー・カミンズ教授は「州議会が連邦脱退を認める可能性はゼロで独立はありえない」という。にもかかわらず英国の欧州連合(EU)離脱「ブレグジット」にならった「カレグジット(Calexit)」という言葉でメディアにもてはやされたのは、「トランプへの不満を象徴する動き」(同教授)だったからに他ならない。

 しかし、昨年12月、イエスがモスクワに「カリフォルニア独立共和国大使館」を設置すると、ロシアの干渉を疑う報道が出始めて暗転する。ロシアのプーチン政権派団体「反グローバリズム運動」がイエスに対し、「大使館」スペースや、スペイン・カタルーニャ自治州など世界各地の独立運動の指導者が集まる国際会議での費用を提供していたという報道だった。

 確認のため、カリフォルニア州中部フレズノのカフェで待ち合わせたイエス代表マーカス・ルイス・エバンス(41)は「メディアは証拠もないのに嘘を書いている」と憤った。ロシアの団体がモスクワでの1泊分のホテル代を支払ったと認めつつも「大使館は閉鎖した」と強調した。

 フレズノ住民から独立運動への意見を聞いていると、空軍を退役したマーク・ボイド(52)に「運動の本部はモスクワにある」と耳打ちされた。「ロシアは州の独立で米国を小さくし、自国を相対的に大きくしたい」というのがボイドの見立てだ。

 ロシアが英国のEU離脱を含む各地の分離・独立運動に関心を持つのには、西側諸国の政治状況を不安定化させる狙いがあると指摘される。ロシア疑惑がトランプ政権を揺るがしているのは間違いない。大統領選のトランプ陣営幹部ら3人が起訴され、うち1人はロシアと関係する人物からクリントンの「醜聞」に関わるメール提供を持ちかけられたことが明らかになった。

 「政府やメディアは国民を怖がらせようとして何でもロシアと結びつけようとする。団体がロシアに支配されているというのは嘘、プロパガンダ、陰謀論だ」と、ロシアにいるマリネリは電話口でまくし立てた。

 トランプ政権とカリフォルニア独立運動。2つの「ロシア疑惑」の霧はまだ晴れない。=敬称略

(フレズノ 加納宏幸)