性能データ改竄の神戸製鋼「説明責任」でも失態 元社員の安倍首相も危惧「誠実な責任感」

経済インサイド
神戸製鋼所加古川製鉄所の高炉を見学する安倍晋三首相=平成19年3月、兵庫県加古川市

 性能データ改竄(かいざん)問題に揺れる神戸製鋼所。契約で取り決めた仕様になるよう強度や寸法を偽って出荷していた悪質さは論外だが、「説明責任を果たす」という面でも不手際が続出し、余計に世間の信用を失ってしまった。強豪のラグビー部を抱える神戸製鋼は、スポーツファンや一般の人たちにも抜群の知名度を誇っていた。その「名門企業」はなぜここまで失墜してしまったのか-。

 「午後2時から記者会見します」

 10月8日の正午ごろ、神戸製鋼の秘書広報部から担当記者に緊急の電話連絡が入った。当日は3連休中日の日曜日だ。よほどのことがない限り会見はしない。

 だが、会見が始まると、その理由が納得できた。不正の内容があまりに重大でひどく、「メード・イン・ジャパン」の信頼すら揺るがしかねなかったからだ。

 神戸製鋼によると、不正は三重県の大安工場など、アルミ・銅部門の4工場で発覚。約200社に問題製品が供給されていたことが分かった。

 その後、自動車部品の材料となる鉄粉や、子会社が手がける半導体やDVDの金属材料でも不正が判明。その上、当初は「ない」としていた主力の鉄鋼製品でも4件の不正が分かり、供給先は約500社に膨れ上がった。

 20日にはアルミ・銅事業部門の長府製造所(山口県下関市)で、改竄を自主点検する際に管理職を含む従業員が不正を隠蔽した事実まで発覚した。

 重大な不正が発覚した場合、それを速やかに公表するのは、広報対応のイロハの「イ」だ。同社が3連休まっただ中に会見したのは「間違っていない」といいたいところだが、内実は違う。

 実は、神戸製鋼は前日の土曜夜に会見を開こうとしていた。一部マスコミに不正をかぎつけられたためだ。すぐに会見することで、何とかすっぱ抜かれる事態だけは避けようとしたのだ。だが、夜はさすがに非常識すぎるとアドバイザーの外部弁護士から猛反対され、翌日昼すぎに落ち着いた。

 しかも、会見したのは梅原尚人副社長のみ。経営トップの川崎博也会長兼社長は姿をみせなかった。

 そもそも、同社が最初に不正を把握したのは8月末のことだ。昨年グループ会社が起こした日本工業規格(JIS)違反を受けて自主点検した際、アルミ・銅事業の不正が発覚。同月30日には工場長から事業を統括する金子明副社長に報告がなされ、約1時間後には川崎氏の耳に届いていた。経営陣にとって寝耳に水の出来事だったらしく、川崎氏は「がくぜんとした」と振り返る。

 それにもかかわらず、公表したのは10月8日と1カ月以上も過ぎていた。

 神戸製鋼幹部は「全容が判明してない段階で公表すれば大混乱に陥っていた。最終消費者のことを考えたからこそ、今回のタイミングでの公表になった」と抗弁する。

 だが、神戸製鋼のアルミはロケットから旅客機、自動車まで幅広く使われている。同社は「安全性に問題は出ていない」と強調するが、万一、発覚から公表までの間に消費者の命にかかわる事故が起きていれば、どうしていたのか。

 川崎氏は、公表4日後の10月12日に経済産業省の多田明弘製造産業局長を訪れ、今回の不正を陳謝した。多田局長は今後2週間で安全確認し、1カ月以内に原因と再発防止策をまとめるよう強く指示した。

 多田局長はその上で、経営トップの川崎氏自ら真っ先に記者会見して国民に説明すべきだと主張。川崎氏の“逃げ腰”に激怒したようだ。「叱責」の甲斐あって、川崎氏は多田局長との会談直後に報道陣の取材に応じ、翌13日には記者会見も開いた。

 川崎氏はもう一つ過ちを犯した。

 経産省で報道陣に囲まれた際、問題製品に「鉄は含まれていない」と言い切った。ところが、翌23日の会見では自動車部品のバネなどに使われる「線材」と呼ぶ鉄鋼製品でも不正が見つかったと百八十度修正した。

 鉄鋼の不正は過去の事例だったため、川崎氏は「今回の緊急監査、自主点検で発覚したものではない」と釈明した。だが、こんな言い訳は世間的には“詭弁(きべん)”ととられても仕方がないだろう。しかも経営陣は把握していたにもかかわらず、公表していなかったことになる。

 同社の説明対応からは、会社の奥深くに巣くう「内向き」の思考や素材メーカーが陥りがちな消費者軽視の姿勢が透けてみえる。

 神戸製鋼は、問題製品の出荷先について「取引上の守秘義務など事情があり、公表できない」との立場を貫く。自動車や新幹線、ジェット旅客機などの部品に使われていることが分かっているが、いずれも出荷先の企業が取材で認めたもので、神戸製鋼が明らかにしたものではない。

 ある関係者は「とにかく商売への差し障りを小さくしようとする風潮が強い。不正の公表が遅かったのは、各事業部から『公表するな』という圧力が大きかったという噂もあるほどだ」と打ち明ける。

 OBの証言によると、今回の不正は数十年前にさかのぼる可能性があるといわれる。だとすると、慣行として引き継がれ、罪の意識が薄れたことで、自浄作用が働かなかった可能性がある。

 一方、現場の重圧が関係しているとの見方もある。同社にとって、アルミ・銅部門はコンスタントに100億円程度の利益を上げる「孝行息子」だ。鉄鋼や建設機械といった他の部門が安定しない中、大きな期待を背負ってきた。

 しかも、メーカーにとって納期は絶対だ。顧客の求める性能に仕上げられなかったからといって、遅らせるわけにはいかない。納期遅れは、不良品の少なさを示す歩留まりの悪化にもつながる。そうした中、現場に過度な重圧がかかっていた可能性も否めない。

 川崎氏は会見で「鉄鋼やアルミ銅は半製品を取引企業に供給するビジネスで、BtoB(企業対企業)に集中している。(完成品を売る)BtoC(企業対消費者)の部門では不正が起きていない。そこに原因の本質があると思う」とも説明した。

 「誠実な責任感をぜひ取り戻してもらいたい」

 安倍晋三首相は衆院選で与党が大勝した10月22日夜のテレビ番組で同社にこう求めた。

 政界に入る前の昭和54年から約3年半、神戸製鋼に勤務していたことを振り返り、「工場では品質を高めていくために、職場で皆、忙しい中で知恵を出し合い、汗を流していた。それが日本のモノづくりの強さだった」と語った。

 神戸製鋼は11月中旬にも原因と再発防止策をまとめる。そのころには正確な原因や背景がより明らかになっているはずだ。きちんと説明責任を果たすのか注目したい。(経済本部 井田通人)

 神戸製鋼所 明治38(1905)年創業で、国際ブランド名は「KOBELCO」。新日鉄住金、JFEスチールに次ぐ国内鉄鋼大手。アルミ、銅など非鉄金属や産業機械の生産のほか、電力事業も手掛ける。平成25年4月に川崎博也氏が社長となり、28年4月に会長を兼務した。原材料高や中国事業での損失処理が響き、29年3月期の連結最終損益は2年連続の赤字だった。