中国軍が強襲する敵は米韓軍ではなく北朝鮮軍! 米中が北を挟撃する日は来るのか?

野口裕之の軍事情勢

 《中国人民解放軍が中朝国境の鴨緑江を渡河し、北朝鮮に進撃した》

 安全保障関係者と先日行ったシミュレーションには、いささか驚いた。(※10月16日にアップされた記事を再掲載しています)

 《人民解放軍の鴨緑江渡河》は、過去の小欄でも触れてきたので驚きはなかった。ところが、渡河を敢行する人民解放軍の戦略・作戦目的が3月に行ったシミュレーション結果とは激変していたのだ。

 3月のシミュレーション結果は、一部ながら同月の小欄に載せた。以下、紹介する。

 《4年以内に米軍が北朝鮮に先制攻撃を仕掛ける確率は50~60%となった。あまりの高さに、インプットする前提条件を変えてみたが、50%を割るケースは皆無であった》

 《一方、米国主導の民主的な統一半島国家樹立を恐れる中国の出方は、不透明なシミュレーション結果に終始した。

 米軍が北朝鮮南部の非武装地帯(DMZ)沿いに前方展開する朝鮮人民軍の主力を撃破すれば、中国人民解放軍は鴨緑江を渡河し、北朝鮮国内に進出、米韓連合軍の北上をけん制する。

 他方、南北国境保全や韓国北部の緩衝帯構築への既成事実作りに集中し、朝鮮戦争(1950~53年休戦)時のごとく、ソウルを抜き積極的攻勢に出るケースはなかった》

 補足すると、米軍がおびただしい数のミサイルや無人機&有人機でDMZ沿いの1万門・基の重火砲を壊滅すれば、韓国軍を主力とする韓米連合軍の北上をけん制するべく、人民解放軍が鴨緑江を渡河し、緩衝帯構築に向け南北国境を少しだけはみ出し、暫定的に韓国最北部の狭いベルト地帯に駐屯する…というシナリオであった。

半年以内に米軍が対北先制攻撃を仕掛ける確率は60~70%

 これに対して、わずか7カ月後に実施した今次シミュレーションでは真逆の理由が加わった。一部を記す。

 《半年以内に米軍が北朝鮮に先制攻撃を仕掛ける確率は60~70%となった》 

 《米軍の対北攻撃に呼応して、中国人民解放軍は鴨緑江を渡河し、河の数十キロ南の北朝鮮の核関連施設が所在する一帯を占領。緩衝帯として暫定統治する。

 その他の北朝鮮中・南部は、金漢率氏を中心とする新体制が樹立される選択肢も示された。金漢率氏は、朝鮮労働党の金正恩委員長の異母兄・金正男氏(1971~2017年)の長男だ。ただ、米中両国がそれぞれどの程度「金漢率政権」に影響力及ぼすかなどの「傀儡率」は判定不能だった。

 暫定統治に至る過程で、中国人民解放軍と朝鮮人民軍の軍事衝突も予想された》

 事実上、北朝鮮の「米中分割統治」だが、このシナリオの主要な前提は2つある。

 一つは、米国と中国が北朝鮮の金正恩政権崩壊後の政権で談合し、合意することだ。かつてなかったほど悪化している中朝関係が起爆剤となる可能性はある。

 金正恩氏は祖父の金日成・初代国家主席(1912~94年)や父の金正日・総書記(1941~2011年)とは違い、中国共産党に反発し北京を一度も訪れていない。

 中国の習近平・国家主席も国家副主席に就いた2008年、初の外遊先に北朝鮮を選び、金正日氏と会談した。だが、11年に金正恩体制のスタートを横目に、習氏は12年の中国共産党総書記就任以降、訪朝していない。それどころか、総書記就任にあたり北朝鮮に特使を派遣したが、金正恩氏に門前払いされた。

 その後も、金正恩氏は中国に反発し続ける。

 2013年には、中国と太いパイプを構築していた叔父の張成沢・国防副委員長(1946~2013年)を中国に通告することなく、高射砲とも火炎放射器ともいわれる残忍なやり方で処刑し、習氏のメンツを潰した。

 中国で2015年に開かれた抗日戦争70周年の軍事パレードに金正恩氏は欠席し、今年2月には中国の庇護を受けていた異母兄・金正男氏を猛毒のVXガスで暗殺した。

 5月には、習氏が強力に推進する経済圏構想《一帯一路》の国際会議当日、中距離弾道ミサイルを発射。9月には「水爆の開発に完全に成功」と発表したが、ブラジル/ロシア/インド/中国/南アフリカの新興5カ国(BRICs)首脳会議の最中だった。いずれも、習氏がスピーチをするタイミングが狙われた。

 従って、後述するが北朝鮮・朝鮮人民軍の核・ミサイルが北京に襲来する懸念も高まっている現在、習氏は金正恩氏をすげ替え、北朝鮮を安定統治できる人物を据えたいと考えている。

 過去の小欄でも触れたが、中国共産党系機関紙・人民日報系の環球時報(社説)は5月、1961年に中朝間で締結された朝鮮半島有事における中国側の自動参戦も盛り込んだ《中朝友好協力相互援助条約》の見直しを提案をした。 

 対北不信は2000年代に入って、オリのように蓄積され、金正恩政権になり爆発しようとしている。

 例えば、中国社会科学院世界政治経済研究所の研究員は異例の警告を放った。

 「中国政府は北朝鮮政府に中朝友好協力相互援助条約改正を正式提案すべきだ。とりわけ、軍事同盟条項を削除すべきだ」

 天津社会科学院対外経済研究所の研究員も明言した。

 「北朝鮮は中国の経済援助に少しも感謝せず、大事な時に中国に全面的支持を寄せない。北朝鮮を全面支援する道義的責任はない」 

 確かに、中国は1970年代以降、石油の輸出量を増やし続け、対北借款の未償還分も免除。80年代には、発電インフラや各種工場の建設を支援し、90年代の飢饉では食糧支援を手掛けてもいる。

 半世紀以上もの間、手厚い不断の支援を実行してきた中国の怒りは沸点を超え、北朝鮮の「始末」を考え始めたようだ。

北朝鮮と核・ミサイル開発に耽る中国軍?の「瀋陽軍区」

 北朝鮮の「米中分割統治」に必要な二つ目の前提は、中国の習近平指導部が、金正恩体制の核・ミサイル開発を支える旧《瀋陽軍区》を制御OR解体できるか否か。この問題についても過去、小欄で採り上げてきたがお復習いする。

 旧満州東部からロシア沿海州南西部、つまり朝鮮半島に接する中国側は李氏朝鮮時代(1392~1910年)以降、多数の朝鮮人が移住した。深い森林でおおわれ、大日本帝國・朝鮮総督府の支配も届かず、無頼の朝鮮人や支那人の匪賊・馬賊の格好の根拠地となった。越境して朝鮮半島北部(現・北朝鮮)の町村を襲撃、無辜の朝鮮人らへの略奪・殺戮を繰り返した。

 絵に描いたごとき無法地帯であったが、中央の威光の届かぬ「無法地帯」は現在も変わりがない。

 ただし、支那人の匪賊・馬賊は中国人民解放軍になり、北朝鮮襲撃ではなく、逆に武器・エネルギー・食糧・生活必需品を密輸し、支援している。国連や日米韓、EU(欧州連合)などが対北経済制裁を科している状況をよそに、人民解放軍が、制裁動機である北朝鮮の核・ミサイル開発まで支援しているとの観測が安全保障関係者の間で根強い。もっとも、支援は人民解放軍全軍を挙げて行われているのではない。支援の黒幕は、中朝国境の旧満州防衛などを担任する旧瀋陽軍区である。

 そもそも人民解放軍は、軍中央の支配が及びにくい半ば独立した軍閥で、習氏に逆らってでも北朝鮮を支援したい軍閥と、習氏に忠誠を誓う軍閥に大別される。背景には利権と政争が薄汚く絡み合う。

 そこで、全軍統率機関=中央軍事委員会の主席を兼任する習氏は、共産党による「シビリアン・コントロール(文民統制)」や軍中央の統制力を強化するべく、軍制改革を大胆かつ独善的に進めてきた。

 軍の最大単位だった7個の《軍区》を5個の《戦区》に再編したが、再編前と後の主な変化は次の2つ。

 《旧軍区が有していた軍区内の兵員・装備に関する整備といった軍政は、中央軍事委に新設された国防動員部へと移譲。戦区は作戦立案と、作戦に沿った訓練・演習に特化された》 

 《戦区内に所在する陸海空軍やロケット軍の各軍種、民兵や予備役などを、戦時でなくとも統合運用できることとなった》

 軍種間の意思疎通&協力を阻害する縦割りや装備・業務の重複・無駄をなくし、「実戦的体制を構築し、現代戦に適合させる」という。が、実態は軍閥に近かった軍区の、習近平派による解体だ。

 特に《瀋陽軍区》は反習近平派の巣窟で、習氏にとって政治生命すら左右する「超危険な存在」であった。否、軍制改革後も、《北部戦区》と名前を変えたに過ぎず、今もって「瀋陽軍区」のままの、依然「超危険な存在」と言うべきだ。

 何しろ、朝鮮戦争の戦端が再び開かれる事態への備え+過去に戈を交えた旧ソ連(現ロシア)とも国境を接する領域を担任する旧瀋陽軍区へは軍事費が優遇され、最新兵器が集積されているのだ。大東亜戦争(1941~45年)以前に大日本帝國陸軍が満州に関東軍を配置したのも、軍事的要衝ゆえ。

 最精強を誇り、機動力にも優れ、北京より平壌と親しい「瀋陽軍区」によるクーデターを、習氏は極度に恐れている。習氏が進める軍の大改編は、現代戦への適合も視野に入れるが、「瀋陽軍区」を解体しなければ「瀋陽軍区」に寝首をかかれるためでもある。

 加えて、「瀋陽軍区」が北朝鮮への“フィルター”と化したままでは、北朝鮮に直接影響力を行使できない。

 「瀋陽軍区」高官の一族らは、鴨緑江をはさみ隣接する北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有する。「瀋陽軍区」が密輸支援する武器+エネルギー+食糧+生活必需品や脱北者摘発の見返りだ。北朝鮮の軍事パレードで登場するミサイルや戦車の一部も「瀋陽軍区」が貸している、と分析する関係者の話も聞いた。

 もっと恐ろしい「持ちつ持たれつ」関係は核・ミサイル製造だ。中国人民解放軍の核管理は《旧・成都軍区=現・西部戦区》が担い「瀋陽軍区」ではない。「瀋陽軍区」は核武装して、北京に対し権限強化を謀りたいが、北京が警戒し許さぬ。ならば、核実験の原料や核製造技術を北朝鮮に流し、または北の各種技術者を「瀋陽軍区」内で教育・訓練し、「自前」の核戦力完成を目指す…こんな筋書きが成り立つ。

 実際、2016年、中国の公安当局は、瀋陽軍区→北部戦区の管轄・遼寧省を拠点にする女性実業家を逮捕した。高濃度ウランを生み出す遠心分離機用の金属・酸化アルミニウムなど核開発関連物資や、戦車用バッテリーなど大量の通常兵器の関連部品を北朝鮮に密かに売りつけていたのだ。戦略物資の密輸重油も押収された。独裁国家の厳しい監視網を長い間のがれられたのは、「瀋陽軍区」の後ろ盾があったためだ。

北朝鮮の「米中分割統治」に立ちはだかる「瀋陽軍区」

 しかも、「瀋陽軍区」の核戦力は日米ばかりか北京にも照準を合わせている可能性が濃厚だ。

 理由はこうだ。

 (1)北京が北朝鮮崩壊を誘発させるレベルの対北完全経済制裁に踏み切れば、無敵の「瀋陽軍区」はクーデターを考える。

 (2)他戦区の通常戦力では鎮圧できず、北京は旧成都軍区の核戦力で威嚇し恭順させる。

 (3)「瀋陽軍区」としては、北朝鮮との連携で核戦力さえ握れば、旧成都軍区の核戦力を封じ、「瀋陽軍区」の権限強化(=対北完全経済制裁の回避)ORクーデターの、二者択一を北京に迫れる。

 「瀋陽軍区」が北京を無視して、北朝鮮とよしみを通じる背景には出自がある。

 中国は朝鮮戦争勃発を受けて“義勇軍”を送ったが、実は人民解放軍所属の第四野戦軍。当時、人民解放軍で最強だった第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身で、朝鮮族らが中心となって編成された「外人部隊」だった。瀋陽軍区の管轄域には延辺朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では180万人もの朝鮮族が居住する。いわば、「瀋陽軍区」と朝鮮人民軍は「血の盟友」として今に至る。金正恩氏の父である金正日・総書記も2009年以降、11回も瀋陽軍区を訪れた。

 戦史上のDNAも手伝って、朝鮮半島有事になれば、北支援に向け「瀋陽軍区」の戦力が鴨緑江を渡河し半島になだれ込む。従って、各種演習も半島全域を想定する。中でも、第39集団軍は、最精強の「瀋陽軍区」でも最強とうたわれ、機械化に伴う展開速度は侮れない。現に、38度線付近の非武装地帯で2015年、朝鮮人民軍が仕掛けた地雷で韓国陸軍の下士官2人が大けがを負い、南北間に緊張が走るや、瀋陽軍区の戦車を主力とする部隊が中朝国境に急派されている。

 先述したが、7大軍区は5個戦区に統廃合されたものの、注目は北京の頭越しに「対北独自外交」を繰り広げる瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併できるかだった。前哨戦として、瀋陽軍区勤務が豊富で、同軍区に強く影響を及ぼす軍区内外の反習近平系軍高官粛清を断行。全軍統率機関=中央軍事委員会の副主席、徐才厚・上(大)将(1943~2015年)の汚職など規律違反での拘束(後に死亡)は象徴的だ。半面、北京軍区司令官に習氏と近い上将を抜擢するなど布石を打ってはいた。

 だが、布石にもかかわらず、徐上将失脚で2014年、徐の腹心の第39集団軍幹部はクーデターを起こした。

 クーデターは小規模で鎮圧されたが、かくも抵抗勢力が跋扈する不穏な情勢では、瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併する目論みが達成できる道理がない。逆に、「瀋陽軍区」は北京軍区の一部を形成していた内モンゴル自治区を編入。人民解放軍海軍の要衝・山東省も飛び地の形で獲得し、膨張に成功した。

 中国人民解放軍建軍90周年記念観兵式(7月)で習国家主席が行った演説に、習氏の野望と不安が強くにじんでいた。

 「軍は共産党の指導下にあり、党への忠誠を誓わなければならない」

 習近平指導部が中朝軍事同盟を破棄し、米中が金正恩政権後の朝鮮半島情勢で手打ちをする可能性は不透明だ。しかし、「瀋陽軍区」解体に比べれば、ハードルは低い。むしろ、「瀋陽軍区」が解体できて初めて、米中が手打ちに至り、北朝鮮の「米中分割統治」を念頭にした「米中連合軍」が対北攻撃にカジを切る端緒と成り得る。