スワップの次の関心→トランプ氏訪韓 日本と比較「たった1泊コリア・パッシング」のひがみ

ソウルから 倭人の眼
10月13日、韓国南部・釜山に入港した米原子力潜水艦ミシガン。北朝鮮による脅威の最前線にあるとの意識もあいまって、米国から軽視されているのではないかとの不満につながっている(ロイター)

 米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に反発する中国からの経済的な「報復」に頭を痛めている韓国。金融危機などの緊急時に資金を相互に融通する中韓の「通貨交換(スワップ)協定」が延長されるかどうかなどで、「韓中関係10月危機説」まで流れた中、協定はどうにか延長された。胸をなで下ろすや、今度は11月にアジア各国を歴訪するトランプ米大統領の滞在日程が気になって仕方がないようだ。背景にはまた、おなじみの日本との比較があり、複雑な思いが渦巻いている。(ソウル 名村隆寛)

一難去って

 韓国銀行(中央銀行)は今月13日、中韓の通貨スワップ協定を3年間延長することで中国側と合意し、中国人民銀行と契約を結んだと発表した。融通額は64兆ウォン(約6兆1400億円)相当が限度で、延長期間とともにこれまでの契約と同じ内容だ。

 韓国が締結するスワップでは最大規模だが、協定期限の10日を過ぎても合意は発表されず。THAADの韓国配備などで、中韓関係が悪化する中、延長を求める韓国側では、協定が延長されない可能性に懸念が強まっていた。

 日本との通貨スワップは、釜山の日本総領事館前への慰安婦像設置に日本政府が協議中断の対抗措置を取り続けており、中断状態だ。こうした状況で、中国との協定継続は韓国にとって安定確保の意味合いが強い。韓国側は安堵し、中国側は貸しを作ったかたちだ。

 一方で韓国政府は、中国の経済報復をめぐって今月の世界貿易機関(WTO)の会合で行う予定だった問題提起(提訴)を事実上、見送った。北朝鮮の核問題をめぐり「中国と協力すべき重要な時期」(韓国大統領府報道官)との判断が働いたのはもちろん、通貨スワップ協定延長で合意したことを受けて、WTOでの中国刺激を避けたとの見方が一般的だ。韓国メディアの多くは「ギブ・アンド・テーク」だとみなし、一安心している。

 ただし、中国の腹の中までは分からない。痛しかゆしどころか、厄介なことにならず、痛くもかゆくもないのだろう。

関係改善に期待も…

 通貨スワップ協定が延長されたことにより、韓国では「これを機に」(韓国紙)と中国との関係改善への期待が高まっている。しかし、現実は甘くない。

 THAADの配備地を提供したため、中国で袋だたきに遭った韓国ロッテグループの“被害”は甚大で象徴的だ。

 同グループ傘下のスーパー大手「ロッテマート」は、店舗前で抗議デモをやられるわ、不買運動の嫌がらせを受けるわ、中国当局の圧力で営業停止に追い込まれるわ、ついには中国国内店舗の売却作業に踏み切った。売り上げが前年より約1兆2千億ウォン(約1200億円)以上減るという。

 中国の経済報復に対し、保守系の最大野党、自由韓国党などは「問題提起し、中国を圧迫すべきだ」と文在寅(ムン・ジェイン)政権の対応を“弱腰”だとして批判している。しかし、韓国政府はWTOへの提訴などを「今後も(外交の)カードとして活用する」(白雲揆・産業通商資源相)という程度の認識だ。国益を考えた上で、韓国が現在出来うる最大限の対処であり、これが限界なのだろう。

「日本より滞在期間が短い!」

 中国との懸案をしのいだばかりの韓国だが、今度は別の問題で穏やかではないようだ。11月上旬に予定されているトランプ米大統領の訪韓日程だ。

 米ホワイトハウスは16日、トランプ大統領のアジア歴訪日程を正式発表した。発表によると、初訪問国の日本には11月5日から滞在し。その後、韓国入りし、7日に文在寅大統領と首脳会談。8日に中国を訪問し、滞在中に習近平国家主席との首脳会談に臨む。10日にはベトナムを訪れ、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する予定だ。

 韓国大統領府も同じ日に、米韓首脳会談が7日に行われることを発表したが、この時点でトランプ訪韓の具体的な日時には触れなかった。翌17日になって大統領府は、トランプ氏が、11月7日午前に韓国入りし、翌8日午後に(次の訪問先の中国に向け)出発すると発表した。

 日韓中の順に訪れるトランプ大統領の各国での滞在日数は、日本が2泊3日、韓国が1泊2日、中国が2泊3日となった。

 トランプ氏の訪韓日程について、韓国メディアは発表前から、日本よりも短い1泊2日に決まりそうなことに気が気でない様子だった。

 「ただごとではない」「困惑この上ない」「北朝鮮の核の脅威が最も深刻な紛争当事国である韓国をさっさと通り過ぎる日程は、どう見ても腑に落ちない」「仕方なく立ち寄るとの印象まで与えかねない」(中央日報の社説)、「『韓国軽視』が問題になる可能性も出てくる」(朝鮮日報)といった具合だ。

訪問期間よりも内容

 韓国メディアの不安はやはり的中した。韓国政府はこうした世論の動向を十分に察しており、また、文在寅政権はトランプ氏の滞在日程を日本と同等にしたかったようだ。トランプ氏の訪日が1日早い4日になり3泊4日となるのなら、韓国到着時間を6日夕方に操り上げるよう米国に求めていたとの情報もあった。

 トランプ訪韓の日程を発表した韓国大統領府報道官は、米側が当初、2泊3日での訪韓を検討していたが、トランプ氏側の日程上、実現しなかったなどと説明した。同時に、トランプ氏による韓国国会での演説が調整中であり、日中韓3カ国のうち「主要政策について演説する唯一の機会となる」と断言。韓国での滞在期間が短くなったことへの邪推を払拭するかのように、トランプ氏の米大統領25年ぶりの「国賓」としての訪韓の意義をしきりに強調していた。

 韓国紙によれば、大統領府関係者は「実際の滞在時間は日本と変わらない」と説明したという。「国賓として訪韓する」「日本では予定にない国会での演説を、韓国だけでする」と大統領府は、日数よりも訪問内容が重要であると説得に懸命な様子だった。

 にも関わらず、韓国メディアは納得がいかないようだ。予想通り、翌18日付の韓国各紙は“不公平感”や不満をあらわにした。

韓国を素通り?

 「韓中日のうち韓国だけが1泊2日」「国賓訪問なのに1泊2日は短すぎるとの指摘もある。前回1992年に国賓訪問したブッシュ(父)元大統領のときは2泊3日だった。他の大統領も国賓訪問の際は3、4日ほど滞在した」(朝鮮日報)

 「1泊国賓訪問」に対して『コリア・パッシング(韓国を素通り)』との声が出ている。日中での日程は2泊なのに、25年ぶりの国賓訪問の韓国での日程は1泊だけというのはコリア・パッシングではないのかと野党議員が一斉に指摘した」(中央日報)

 「トランプ米大統領の訪韓は日本と中国の訪問にはさまれている。韓国がただの経由地になってはならない。今回こそ韓国の戦略的価値が日本や中国に劣っていないことを認識させ、コリア・パッシングという言葉がなくなるようにせねばならない」(東亜日報)

 「韓国冷遇論が浮上」「大統領府がトランプ大統領の滞在期間に神経をとがらせている。トランプ大統領が日本で(韓国より)1日多く滞在することをめぐり、政界で『韓国冷遇論』が浮上しているからだ。米国の大統領が日本より韓国に1日短く滞在することは無視していいことではない」(ハンギョレ紙)などと報じている。

 保守系の最大野党、自由韓国党の議員からは「時間が絶対的に少ない」という不満はもちろん、「韓国と米国が仲がよくないから、韓国の問題を日本と協議するのではないか」と、ほとんどひがみ同然の邪推まで出ている。

軽視されることへの不安

 大統領府関係者は韓国メディアに対し、訪日初日の5日が日曜日に当たっており、実質的に差はないとの説明をしたという。「トランプ大統領の国賓訪問で重要なのは何泊するかではなく、韓米両首脳の合意と共感だ」(中央日報)とし、どうにか納得しようとする意見もある。

 しかし、韓国メディアが政界の声を引用してまで指摘するように、「韓国素通り論」など、北朝鮮をめぐる朝鮮半島問題の当事者であるにも関わらず、「韓国だけが置いていかれる」ような疎外感や焦燥感は、うんざりするほど伝わってくる。

 同時に韓国世論は、米大統領の滞在が数の上で1日短いことを「韓国軽視」と受け止めている。この「軽視されている」「存在を認められていない」との切ないまでの独特の思い込みや被害感情も、相変わらずだ。

 加えて、韓国メディアが気にしているのは、中国よりも日数が少ないことではない。日本よりも少ないことだ。韓国メディアは「トランプ大統領の滞在日程をめぐって、韓日間で水面下の外交戦が繰り広げられていたが」(朝鮮日報)と報じているが、何も日本政府は韓国と外交戦をした訳ではない。韓国が勝手に「日本と戦った」(朝鮮日報)と思い込んでいるに過ぎない。

 一日本人として個人的には、韓国よりも滞在時間が長かろうが、短かろうが、別に気にはならない。だが、韓国側からすれば日本がからむ今回もそれでは気が済まないようだ。

また「日本に後れをとった」

 案の定、この複雑な心境を素直に吐露した記事が韓国紙に掲載されている。

 「日本と比較すれば全体の日程が貧弱に見えるのは事実だ。韓国と日本は国力に差がある。どんな国であれ日本をより重視するしかない。だが、今は北朝鮮の核問題で韓国ほど切迫した国はない。それほど切迫していない日本が切実に米日同盟強化のために奔走しているのに、われわれはそれに及ばない。米国大統領の韓日訪問の内容がこのように違うことは、国力の差以前に、外交力と切実感の違いだ」(朝鮮日報20日付の社説)

 こうした「日本に後れをとった」「差をつけられた」といった独特の思いは、今に始まったことではない。トランプ政権発足前から韓国ではメディアを中心に何度も見られた。

 トランプ氏が大統領に当選した昨年11月、韓国は朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時、現在は刑事被告人)の友人で女性実業家の崔順実(チェ・スンシル)被告の国政介入疑惑が発覚したばかりで、国を挙げての大騒ぎだった。今年6月末の文在寅大統領による初訪米まで、外交の空白は事実上、8カ月も続いた。

 そんな中、日本の安倍晋三首相は、就任前のトランプ氏からニューヨークの自宅に招かれ、就任後の2月には、いち早く訪米し首脳会談を行った。それも、トランプ氏の別荘で一緒にゴルフを楽しむというオマケ付きだ。

やはり根底には「安倍憎し」

 この安倍首相のトランプ氏への接近ぶりは、韓国メディアでも複雑な思いを込めて繰り返し報じられた。

 報道には、韓国が外交の空白状態である中、自由自在に米新政権との関係を緊密化させる日本への一種の嫉妬やもどかしさが、嫌と言うほどにじみ出ていた。しかも、韓国メディアが数年にわたり「極右」と呼び忌み嫌い続けている安倍首相が、外交舞台で生き生きと活動している。韓国にとっては面白いはずはない。

 今回もトランプ氏が日本滞在中に安倍首相とゴルフ会談をすることなどに韓国メディアは触れており、やはり気にしている。

 日本では22日に衆院選が行われる。いつもならば、「憎き安倍」が率いる自民党の勝敗に一喜一憂する韓国メディアなのだが、今回の総選挙は恐ろしいほどおとなしい。

 理由は、野党のリベラル勢力が精彩を欠いており、韓国メディアが「安倍より右寄り」とみなす、小池百合子都知事の「希望の党」と自民党との戦いという選挙戦構図のためだ。どう転んでも、「極右」が政権の座から転落しそうにない状況への諦めか。どうにも面白くないようで、気になるはずの選挙戦への関心はうせてしまったようなのだ。

日本の選挙どころではない

 それよりも、現在の韓国は「安倍批判」どころではない。念願の中韓通貨スワップ協定の延長が実現したとはいえ、中国の経済的な報復は現在も続いており、関係が復元したわけではない。

 北朝鮮の核・ミサイル問題は全く改善しておらず、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権は核・ミサイルの放棄どころか、開発に前のめりになっている。韓国が北朝鮮から無視されている状況に変わりはない。

 明るい話が相変わらず乏しい韓国で、当面期待を抱かせてくれそうなのはトランプ訪韓ぐらいだ。訪韓日程が決まった以上、滞在時間が短いだの、韓国軽視だのと言っても仕方がない。トランプ氏を迎え、米韓の同盟関係を確認、アピールし、国賓訪韓を成功させたいところだろう。

 日本をはじめ周囲の動向を気にしつつ、韓国は今後も相変わらず、懸念、思い込み、安堵、期待、落胆、つかの間の喜びを繰り返し続けそうだ。