クモの糸は欲しいけど…共産党切るのか共闘か どちらでも混乱・民進試される前原誠司代表

水内茂幸の野党ウオッチ
新執行部のあいさつ回りで共産党を訪れ、志位和夫委員長(右)と握手を交わす民進党の前原誠司代表。このときはがっちり握手したが…=9月8日、国会内(斎藤良雄撮影)

 民進党の前原誠司代表(55)の真価が問われるときがやってきた。10月の衆院選実施が確実となり、前原氏が忌避してきた共産党との選挙協力に踏み切るのかどうか、早急に決断を迫られているからだ。前原氏は党代表選で、共産党とは国の根幹政策が異なることを踏まえ、選挙協力を「是非も含め見直す」と明言していたが、最近は発言が後退している。判断によっては「離党ドミノ」どころか「解党→社民党化」の危機に直面するが、なかなか前原氏の腰は定まらない。

 「政権選択の選挙においては、基本的な理念政策を考えながら他党との協力は考える。その一言に尽きる」

 前原氏は18日、民共共闘の行方を記者団に問われるとこう述べ、微妙な物言いに終始した。逆に「自民、公明両党は(当選者1人の)小選挙区に候補を1人で立ててくる。われわれもバラバラより1人の方がいいという中で、どう判断するかは今後議論したい」とも語り、候補者調整のメリットに言及した。

 民共共闘の見直しは、前原氏が代表選を制した最大の勝因でもある。選挙戦では、共闘路線を進めた蓮舫前執行部を「共闘に舵を切りすぎた」と批判し、「共産党は綱領に日米安全保障条約の廃棄を掲げる政党で消費税をめぐる考えもまったく違う。そういう政党と選挙協力できますか」と訴えていた。

 代表選で前原氏を支持した議員には、民進党が再び政権交代可能な2大政党の一翼を担うため、共産党とは一線を画し、党が現実的な安全保障政策を掲げるよう求める議員も多かった。

 民共共闘は、岡田克也元代表(64)が昨年の参院選から始めた。参院選では「安全保障関連法の廃止、立憲主義の回復」などを共通政策に掲げて32の改選1人区で野党統一候補を擁立し、野党は前回選挙の5倍以上となる11勝をあげた。

 しかし反作用として、民進党には共産党に引っ張られるような党運営が目立つようになっていった。党は綱領に憲法改正をうたう改憲政党のはずだが、憲法の全条項厳守を求める共産党に配慮したのか、民進党内の憲法改正議論は停滞した。8月に離党した細野豪志元環境相(46)は、周囲に「蓮舫氏が『党として改憲に関する考えをまとめる』と約束したので代表選で支持したが、事実上ほごにされ、離党の最終決断につながった」と打ち明けている。

 実際、昨年9月に蓮舫氏が代表に就任した直後、共産党など4野党首で結んだ合意には「安倍政権での憲法改悪を許さない」「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や沖縄問題など、国民の声に耳を傾けない強権政治を許さない」といった言葉が並んだ。

 「沖縄問題」といっても、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)問題は、旧民主党の鳩山由紀夫政権が迷走の末、名護市辺野古移設に回帰したはずで、民進党も日米合意の順守を求める立場のはずだ。TPP交渉への参加は菅直人政権が発案し、野田佳彦政権が交渉参加に向けた協議入りを決断している。一度は政権を担って理想と現実のはざまに悩み、現実的な政策を学んだ経験はどこへ行ったのだろうか。

 もちろん共産党は前原氏の軌道修正を首を長くして待っている。

 共産党の志位和夫委員長(63)は18日の記者会見で、政権選択選挙の衆院選で政党間で理念や政策が違っていても「共闘は可能だ」と断言した。

 志位氏は「理念政策が違っても、国民の望む当面の一致点で力を合わせる。相互に尊重しあい、違いを持込まない。違いを探すより一致点を探せばたくさん一致点ができる」と力説した。その一例として、党綱領に掲げる日米安保条約の廃棄について「野党共闘に立場は持ち込まない」とも語った。

 共産党は党員の高齢化に伴う党勢衰退に悩んでいたが、昨年野党共闘に乗りだして以降、7月の東京都議選で議席を増やすなど、明らかに盛り返していた。共産党にとっては、ここで共闘路線を修正させるわけにはいかないのだ。

 衆院の289選挙区には、それぞれ共産票が2~3万票程度あるとみられている。民進党の支持率が一ケタ台に低迷するなか、自民党候補としのぎを削る民進党候補にとって、共産党票はのどから手が出るほどほしい「救いのクモの糸」だ。前回選挙で落選した北関東の民進党前職は「自民党の政党支持率が高止まりしている以上、共産票の『げた』をはかない限りとても勝負にならない」と明け透けに本音を語る。

 前原氏もこうした声に配慮し、代表選の中盤以降は「地域の事情も勘案する」「私は独裁者じゃないので、執行部で議論したい」などと発言がゆるんできた。前原氏が党選対委員長に選んだのは、民共共闘に積極的な長妻昭元厚生労働相(57)でもある。

 一方、9月に民進党に離党届を出した3人の衆院議員は、いずれも共産党との共闘に反対し、当初の前原氏の言葉を額面通りに信じていなかった。党内にはさらに「離党予備軍」も多くおり、ここで前原氏が路線維持を決めれば、離党者はさらに増えかねない。

 民進党の共闘論者には「自民・公明両党だって政策が大きく違う」と反論する向きもあるが、党綱領に日米安保条約の廃棄を掲げ、消費税そのものに否定的な立場を取るのが共産党だ。北朝鮮が核実験や弾道ミサイルの発射を繰り返し、国民は対応を呼びかける全国瞬時警報システム(Jアラート)の放送におびえている。前原氏がこうした声より「票の上積み」を優先すれば、社民党のような衰退の道が待っているだけだ。

 しかし、安倍晋三首相(62)はなんとも絶妙なときに解散を決断したものだ。前原氏が共産党と縁を切っても、共闘に転じても、党内は党が割れるほど混乱するだろう。新党の動きも本格化する前に…と。ある民進党の重鎮は先週、こう漏らしていた。

 「私なら解散に触手が伸びる政治情勢だよね。蓮舫氏はこうなることまで読み切ったうえで7月に辞任表明したのか。してないだろうな…。後から検証すれば『蓮舫辞任』が党消滅の引き金になった可能性もある」 (政治部 水内茂幸)