老老介護 「セカンドハネムーン」という考え方 小山朝子氏

iRONNA発
認知症を患った声優、大山のぶ代さん(左)の介護を続ける中、今年7月に死去した夫の砂川啓介さん=平成19年6月

 厚生労働省によると、介護が必要な65歳以上の高齢者を65歳以上の人が介護する「老老介護」の世帯の割合が過去最高の54・7%に達した。核家族化と超高齢社会が進行し、「大介護時代」に突入したニッポン。私たちはこの現実とどう向き合うべきか。(iRONNA)

 老老介護の中でも、特に深刻なのが認知症の人が認知症の人を介護する「認認介護」である。公益社団法人「認知症の人と家族の会」のホームページには、80歳前後の認知症高齢者はおよそ20%であることから、80歳前後の夫婦ではおよそ11組に1組が認認介護となる可能性があると記されている。

 ある番組で老老介護について取り上げることになり、この番組のスタッフに私が認認介護の事例について紹介したところ、「ニンニンって響きだけを聞くと、かわいい感じなんですけどね」と話していたが、現場は深刻な状況である。認知症の妻を介護する認知症の夫が妻を受診させようと病院に同行するが、夫が院内で迷ってしまい、結果的に受診できずに帰ってきたという話もよく耳にする。今年7月には、認知症を患った声優の大山のぶ代さんを介護していた夫で俳優の砂川啓介さんが亡くなり、「老老介護」が話題となった。

 私は長年にわたり介護現場の取材を続けてきた。その間執筆した記事の中で印象深い事件の一つが平成17年に埼玉県富士見市で発覚した「リフォーム詐欺事件」である。この事件の被害者は当時80歳と78歳の姉妹だった。事件に関わった市の消費生活相談員の話では、「姉妹はともに認知症だった。寡黙な妹と社交的な姉、ともに10分前のことは忘れてしまうレベルだった」という。

重要なケアマネ

 事件が発覚するまでの4年間で姉妹宅のリフォーム工事に関わった業者は19社あり、姉妹が請求された金額は約4800万円に上った。姉妹は被害に遭った事実も把握できず、近隣の住民が気づいて市に相談しなければ、この事件は明らかにはならなかった。

 姉妹が介護保険の申請を行い、介護保険のサービスを手配・調整する介護支援専門員(ケアマネジャー)やヘルパーなどの介護スタッフが出入りすれば、もっと早く事件が表面化し、被害総額もここまで膨らむことはなかったのではないだろうか。

 他方、こんな老老介護もある。10年ほど前だったか、私は海辺からほど近い神奈川県内のあるお宅を訪問した。老老介護で夫婦ともに生活の一部に介護が必要であった。この夫婦の家の近くにある事業所の管理者であるベテラン女性ケアマネジャーがこまめに足を運んで2人の見守りをしていた。

 ケアマネジャーとともに2人の住まいにうかがう前、私は2人がどんな生活をしているのかを想像して陰鬱な気分でいた。しかし、お宅に到着すると、そこには目を疑うような光景があった。足の踏み場もないような部屋の中で、夫婦はカセットプレーヤーにマイクが付いたカラオケ機器を使い、戦後の歌謡曲を楽しそうに歌っていたのである。

つかず離れず

 このケアマネジャーのような「キーパーソン」が近くにいることで、老老介護であっても穏やかに暮らしているケースもあるのだなと感じた。この先、2人の生活が成り立たなくなったとしても、キーパーソンがいれば、施設に入居するなどの解決策を提示してもらうこともできるだろう。同居は無理だという子供でも「つかず離れずの距離」で親を見守ることで、「老親の2人が共倒れ」になるような事態を防いだ例もある。

 芥川賞の選考委員などを務めた作家、大庭みな子さんの介護を続けてきた夫の利雄さんの日記には「介護はセカンドハネムーン」だと記されていたという。1+1=2にはならなくても、0・5+0・5=1で良しとして「今日一日が無事に終わった」ことに安堵(あんど)する老老介護の日常。そこには2人だけが共有するスローな時間が流れている。マスコミがあまり報じない「穏やかな老老介護」があることも最後に書き添えておきたい。

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 【プロフィル】小山朝子氏(こやま・あさこ) 介護ジャーナリスト、介護福祉士。昭和47年、東京都生まれ。20代から約10年間、洋画家の祖母を介護。その経験から、介護分野を専門とするジャーナリストとして活動を始める。講演や執筆のほか、日本在宅ホスピス協会役員なども務める。近著に児童書『世の中への扉 介護というお仕事』(講談社)。