杜撰な運営が露呈したVリーグ機構 仙台の譲渡無効問題で泣くのは選手 

スポーツ異聞
譲渡無効騒動で仙台ベルフィーユの選手の中には、やむなくバレーをあきらめた者もいるという(チームのホームページから)

 バレーボールのVリーグを運営するVリーグ機構に、関係者の間で不信感が募っている。女子で2部相当のチャレンジリーグIに所属していた仙台ベルフィーユ(仙台市)が、一度はクラブチームのヴィクトリーナ姫路(兵庫県姫路市)へチーム譲渡されながら約1週間後に無効になった。機構が重要な譲渡条件を口頭で伝えたことが原因で、仙台の関係者は「今回の騒動でバレーから離れた選手もいる。いい加減な運営で選手の活躍の場を奪うなんてありえない」と憤りを募らせている。(運動部 川峯千尋)

 ■「バレーする場を失った」

 「純粋にバレーをしたかっただけなのに、こういう形で居場所を失ったことがすごく悔しいです」

 バレーから離れることを決めた仙台の選手はこう声を震わせた。2011年に創設された「仙台ベルフィーユ」は現在、解散へ向けて粛々と手続きを進めている。

 そもそも今回の譲渡をめぐる一連の騒動は今年6月、仙台がリーグ退会にあたる「退社勧告」を受けたことに端を発している。

 機構などによると、昨年12月、仙台の運営会社「トウェルブ」社長の米田隼人氏が資金難を苦に「一緒にチームを運営できないか」と独断で姫路に打診。一度は合意したが、米田氏が経営から外れたため、4月中旬で譲渡の話はこの時点で白紙になったという。

 存続に向け舵を切った仙台は、スポンサーが約40社に増えることを盛り込んだ経営改善計画書を提出。機構の要請に応じて各スポンサーの確約書なども追加提出したが、「根拠が乏しい」として6月22日に退社勧告をされた。その後、チーム譲渡の話が再浮上したという。

 ■説明なく、膨らむ疑念

 機構側によると、譲渡は7月29日の臨時理事会で一度承認された。しかし、V所属のチーム関係者から「譲渡の要件を満たしていないのでは」と指摘があり、両チームへのヒアリングを行った。その結果、「仙台13選手のうち8選手が移籍すること」という機構の条件と異なり、実際には3人しか移籍しないことが発覚。8月9日に開かれた理事会で、譲渡の承認決議が取り消された。

 ファンや関係者に疑念を持たせたのは、この間の対応だった。8月1日、機構は公式サイトで、譲渡決定と姫路のチャレンジリーグI参戦を発表。翌日にはサイト上の移籍公示リストを更新し、仙台選手の所属先を退団者も含めて「ヴィクトリーナ姫路」と変更した。

 これに対し、仙台選手の一人が「全員姫路になっているけど、うそです。何も知らされていない」とツイッターで反発。機構は「あくまで管理上の手続き。姫路に選手登録されている訳じゃない」とするが、選手らは「ルールがどうあれ、端から見れば仙台選手が全員姫路に移籍したような印象を受ける。私たちが、この公示を見てどう感じるのか機構は想像もできなかったのか」と憤る。

 機構が公式な説明の場を設けてこなかったこともファンや関係者の誤解を招いた。昨年創設した姫路は、元全日本女子キャプテンの竹下佳江氏が監督を務めるなど話題性が高い。そのため、SNS上では「Vリーグ機構が、集客を見込める姫路をチャレンジIに入れるために仙台退社を画策したのでは?」「仙台の選手が姫路に移籍したと見せるために、所属先を変更したのでは?」などと、さまざまな憶測が飛び交った。

 機構の嶋岡健治会長は「事実と異なる情報をこれ以上放置できない」として、8月24日に記者会見を開いた。事実の詳細を明らかにしなかったのは「選手のことを一番に思って」のことだったと釈明し、「(Vリーグ参戦は)姫路を助けるというより、仙台選手の処遇をどうするかを優先したのが事実」と語った。

 会見では、Vリーグ機構のずさんな運営が明らかになった。機構規約には譲渡時の移籍選手に関する明確な人数設定がない。そのため、機構は7月12日の理事会で条件を協議。「仙台の現役続行を希望している13選手を母数としたおおむね7割にあたる8選手の移籍」と設定し、両チームに“口頭”で伝えたとしている。

 ところが、仙台は「3選手しか移籍しないことは譲渡前から何度も伝えていた。それでも譲渡は可能だと機構に説明されていた」と主張。姫路も「譲渡後まで8人という明確な数字は聞いたこともなかった」と機構の主張に首をひねる。

 ■「落ち度」認めるも、責任転嫁

 3者間で認識のずれが生じたまま交渉は進められた。「おおむね7割の移籍でいい」と思っていた姫路は、移籍の見込める仙台6選手のリストと、数人のスタッフの獲得に尽力する旨の資料を機構に提出。一方、仙台は事前の機構とのやりとりから「3選手の移籍で譲渡可能」と認識しており、3選手以外は姫路とは別のチームへ移籍させた。

 重要な譲渡条件をなぜ書面で伝えなかったのか。会見で記者から問われた機構の沖隆夫事務局長は「完全な落ち度」と非を認めたが、「口頭では条件はきちんと伝えていた」と主張。譲渡前に両チームへ移籍者数を確認しなかったことについては、「両者の代表を信用していた」と責任転嫁するような言いぶりさえみられた。

 ■不安抱え練習、精神的に疲弊

 「悲しいというか、怒りというか…。一番かわいそうなのは選手たちですよ」。14年からチームを指揮してきた仙台の元監督・葛和伸元氏は嘆く。

 葛和氏によると、選手らは昨季のリーグ戦が終わった直後の3月下旬、突如、仙台を訪れた姫路の関係者からチーム存続の危機を知らされたという。「チームがなくなるから、バレーを辞めるか姫路に来るか判断してほしい」。仙台運営陣が、選手へ状況説明する時期を模索していた矢先のことだった。

 来季へ気持ちを新たにしていた選手はひどく動揺した。詳しい状況も分からず、不安な気持ちを抱えながら練習に取り組まなければならなかった。葛和氏によると、選手のうち4人は一連の騒動で精神的に疲弊し、バレーから離れる決断をしたという。

 チームを保有するNPO法人仙台ベルフィーユの荒谷敏理事長は、機構から受けた6月の退社勧告にも納得がいっていない。「議事録も公開しない、どうしたらリーグに残れるのか具体的な指導もない。それで、一方的に退社勧告。地方のチームなんて結局こんな扱いです」と悔しさをにじませる。

 チャレンジリーグ入りが幻となった姫路の選手も、機構に翻弄させられた。昨年チームを設立したばかりで、Vリーグ参戦を目指し地道に実績を重ねている最中だった。練習を見守ってきた姫路市の関係者は「譲渡の拙速性が余計な誤解を生んだ部分もある。いわれのない噂の中でプレーする選手たちがかわいそうでならない」と気遣った。

 ■会長兼務に冷ややかな声

 機構の会見が開かれた5日後の8月29日には、2カ月余り空席となっていた日本バレーボール協会の会長に、嶋岡会長が新たに就任した。「Vリーグでの経験から地方協会との連携は難しいと感じる。いろんな意見を聞きながら、共通した認識で運営できたら」と翌30日に抱負を語ったが、関係者の中には「Vリーグ機構ですら運営がいい加減なのに、兼務なんてできるのか」といった冷ややかな声もある。

 Vリーグは来季、ファンサービスの向上などを目的に新リーグに移行することが決まっている。チームは新たに導入される「ライセンス制度」で決められ、財務や成績などの観点からリーグ参加にふさわしいかを審査する。嶋岡会長は「こういう不幸なことが起きないように準備をしている」とし、規約改定も視野に再発防止に努めるという。

 「もう二度と、私たちのような思いをする選手が生まれませんように」。機構の杜撰な運営によってバレーをやめざるを得ない選手の悲痛な叫びが切なく響く。

 ■Vリーグ 日本バレーボール機構(Vリーグ機構)が主催するプレミアリーグ、チャレンジリーグの総称。20117年から18年のシーズンでは最高位のプレミアリーグは男女とも8チームで構成。下部リーグといえるチャレンジリーグはIとIIに分かれており、Iの男子は8チーム、女子は7チーム。IIは男子が10チーム、女子は6チームが所属する。

 仙台ベルフィーユは四国のチームを移転引き継ぐ形で11年に設立され、17年6月に経営難で脱退するまでチャレンジリーグIに在籍していた。ヴィクトリーナ姫路は名セッターとしてロンドン五輪で銅メダルを獲得した竹下佳江を監督に迎えて16年にクラブチームとして発足し、地域リーグに参戦している。