北核実験で張り詰めた日露首脳会談 立場食い違いに緊張走る 

外交・安保取材の現場から
ロシアのプーチン大統領(右)との会談を終え共同記者発表に臨む安倍晋三首相=7日、ウラジオストク(共同)

 ロシア極東ウラジオストクで7日に開かれた安倍晋三首相(62)とプーチン大統領(64)の日露首脳会談は、北朝鮮が3日に核実験を強行した直後とあって、北朝鮮情勢への対応が主要議題となった。首相は領土問題という難題を抱えながらもプーチン氏と個人的な信頼関係を築き、マルチ(多国間)の首脳会議などの場で頻繁にプーチン氏と会談を重ねてきた。しかし、今回の首脳会談や記者発表などでは立場の異なる北朝鮮対応ですれ違いが目立ち、緊迫した空気が流れた。

 日露両首脳は昨年12月に山口県長門市と東京で行った会談で、北方領土で共同経済活動を実施することに合意した。今回の首脳会談は共同経済活動の具体化がどこまで進むかに焦点が当たっていた。しかし、北朝鮮が3日に核実験を強行したことで東アジア情勢の緊迫度が格段に上がり、首脳会談の焦点は北朝鮮問題となった。

 首相は7日の会談前に「東方経済フォーラム」で行った演説で、こう呼びかけた。

 「北朝鮮がこれまでにない重大かつ差し迫った脅威として国際社会に挑戦してきた。8月29日、北朝鮮は中距離弾道ミサイルを発射し、日本の上空を飛び越えさせた。9月3日、北朝鮮は、ここウラジオストクからわずか300キロメートルの地点で6度目の核実験を強行し、爆発の規模は過去を顕著に上回るものだった」

 「北朝鮮は、地域の、いや世界全体の平和、繁栄、法と秩序に対する公然たる挑戦をエスカレートさせている。北朝鮮に全ての関連する国連安保理決議を即時かつ全面的に順守させ、全ての核・弾道ミサイル計画を完全な、検証可能な、かつ不可逆的な方法で放棄させなければならない。そのため、国際社会は一致して最大限の圧力を彼らに加えなければならない。北東アジアの平和と繁栄が、彼らによって脅かされることなど決してあってはならない」

 演説はプーチン氏も聴いていた。しかし、反応は鈍かった。

 プーチン氏は「北朝鮮は愚かではない。彼らの安全を保障し、受け入れられる条件を示すべきだ」と対話が必要であることを訴え、圧力強化を主張する首相の顔に泥を塗った。

 プーチン氏は今回の首脳会談前から「外交的手段による解決」を主張し、対話重視の構えをみせてきた。首相は演説後の首脳会談でも「最大限の圧力」を求めたが、プーチン氏は制裁強化に賛成したものの、石油禁輸には反対を表明した。

 プーチン氏は首脳会談後の共同記者発表でも「朝鮮半島情勢を解決するためには政治的、外交的な手段しかない。対話を続けなければならない」と重ねて強調し、ロシア側の基本姿勢が揺るぎないことを印象付けた。

 こうした両首脳の立場の違いを反映してか、首脳会談の会場となったウラジオストク市ルースキー島内にある極東連邦大学にも、張り詰めた空気が漂っていた。

 日露首脳会談は直前に行われていた日、露、韓国、モンゴルの首脳らが参加する討論会が長引き、1時間半遅れの開始となった。

 当初の予定通り、首脳会談が3時間に及べば、終了予定時刻は現地時間で7日午後8時半(日本時間同7時半)になる見込みで、そうなれば最も注目が集まる共同記者発表が終わるのは同9時(日本時間同8時)を過ぎる。日程がずれ込んだことは日本政府関係者、同行記者団の双方をあせらせた。

 共同記者発表に出席する記者はプレスセンターが入る建物の1階に同7時20分ごろに集められ、保安検査を受けた。厳重な検査を受けた後、記者団はプレスセンターに隣接する首脳会談が行われていたS棟に移動するため、保安検査場から延びる細い通路を移動した。

 日本の外務省関係者が「前の人から離れないで!」と声を上げるなど、記者の移動にも両国の政府関係者が細心の注意を払っていることがうかがえた。このまま細い通路を経由して共同記者発表の会場にたどり着くのか…。そう思っていたところ、不思議な場面に遭遇した。

 細い通路を通って外に出ると、プレスセンターとS棟を隔てる広い道路に出くわした。この道路は、大学の敷地内に入ることが許された人なら誰もが通れる道路だ。この道路を、それぞれの記者がてんでばらばらに横断した。そのため、誰が保安検査を受けたのか、把握しようもない状態に陥った。露政府側の誰もそれを注意することはなかった。

 「保安検査を受けた意味はあったのですか」

 近くにいる日本の外務省関係者に話しかけると、「『(保安検査は)しっかりやっています!』っていうプーチン大統領へのポーズなんですかね」と苦笑いを浮かべていた。

 当初の主要議題だった共同経済活動については、個別事業の具体化に向けて一定の前進をみた。しかし、北朝鮮対応で鮮明になった日露両首脳のすれ違いは、領土問題の解決を含む平和条約締結交渉という、今後の日露交渉全体に暗い影を落とした。 (政治部 大橋拓史)