北朝鮮核実験 迫られる軍事攻撃か核容認の選択 重村智計氏

iRONNA発
「火星14」型核弾頭と題された図面の前で「水爆」とみられる物体を視察する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮通信=共同)

 北朝鮮が6度目の核実験を強行した。国営放送を通じた声明では「水爆実験の成功」を主張し、米国を射程圏に入れた核ミサイル開発が最終段階にあることをアピールした。国際社会の反発を無視して暴挙を繰り返す北朝鮮。対話か圧力か、それとも軍事オプションか。揺らぐ世界秩序を読み解く。(iRONNA)

 北朝鮮は、核弾頭と米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)が完成するまで、核とミサイル実験をやめない。3日の「水爆実験成功」発表はその意思表示だ。米国のトランプ大統領は、軍事攻撃か核容認かの選択を迫られる。

 対話を求める多くの論者は、北朝鮮が核開発を中止する気は全くない、というこれまでの経過を忘れている。軍事的圧力を強めようが外交的圧力を強めようが、最終的には交渉しなければ解決しない事実を知らないのだろうか。北朝鮮の指導者は、米国に届く核とミサイルの完成なしには体制も自身も崩壊するとの強い「思い込み」を持っている、との認識も欠いている。

相手が嫌がる作戦

 日露戦争の名参謀、秋山真之は外交や軍事戦略の極意について「相手が最も嫌がる作戦の実行」だと述べた。北朝鮮が最も嫌がる対応は、石油の全面禁輸と米国の軍事攻撃である。北朝鮮は石油が一滴も出ない。しかも、年間の石油の確保量は世界最低である。

 中国はひそかに、通関統計には公表されない原油を数十万トン供給していると報じられるが、それでも軍事用に使用できる石油は最大で50万トン程度しかない。日本の自衛隊の約3分の1だ。石油製品と原油が全面ストップすると北朝鮮は軍隊を維持できない。通常兵器による戦争と戦闘は不可能になる。

 歴史の教訓に学ぶなら、北朝鮮は明らかに崩壊の道に突き進んでいる。旧ソ連は、市場経済を拒否し核大国として人権と自由を抑圧し、崩壊した。北朝鮮は、中国とロシアの黙認を背景に核開発を継続できた。しかし、中露が許せる「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えれば、黙認も終わる。

 中国はなぜ北朝鮮への石油禁輸に反対したのか。石油を全面禁輸すれば北朝鮮の軍隊は崩壊する。戦車は動かないし、戦闘機も飛べない。軍の崩壊はすなわち北朝鮮の体制崩壊を意味する。それを望んでいないから、石油禁輸に反対してきたわけである。だが、米国に届く核弾頭とミサイルが完成すれば、トランプ大統領は北朝鮮を軍事攻撃するかもしれない。そうなれば、北朝鮮が崩壊し朝鮮半島は統一され、中国の東アジアへの影響力は失われる。

 軍事攻撃がなければ、北朝鮮の核保有は既成事実となる。次に起きるのは日本や韓国、台湾、ベトナムなどの核開発だ。それを米国が容認すれば中国にとっては最大の悪夢となる。

 とすると、中国にとってのレッドラインは、北朝鮮が米国に届く核ミサイルを完成する直前になる。これは、トランプ政権とも共有できるレッドラインだ。あるいは、米国が日本や韓国の核武装を認める時期がレッドラインになる。

制裁にはなお課題

 安倍晋三首相とトランプ大統領は、国連安保理で「対北石油全面禁輸」の制裁決議を採択させようとしている。中国とロシアは簡単には賛成しないかもしれない。その場合にはどうするのか。

 選択肢は、(1)北朝鮮への石油タンカーの全面入港禁止(2)中露以外の国の石油輸出禁止(3)中露は核実験とミサイル実験のたびに石油供給を減らす(4)世界の船舶の北朝鮮入港禁止(5)北朝鮮との貿易の全面禁止(6)北朝鮮の国連傘下機関からの除名(7)北朝鮮の国連加盟資格停止(8)国連からの除名-など本格的な制裁はなお多く残されている。

 米国の軍事行動も、小規模なものから大規模なものまで、多くのオプションがある。そのオプションが既に提出されているとトランプ大統領は明らかにした。

 米国は、北朝鮮が韓国に報復攻撃しにくい口実と攻撃目標を設定するはずだ。軍事オプションには、在韓米軍兵士の家族や米民間人の韓国からの退去が不可欠だ。報復攻撃による米国民の犠牲を恐れるからである。軍事攻撃がない限り、北朝鮮の核とミサイル実験は続く。

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【プロフィル】重村智計 しげむら・としみつ 早稲田大名誉教授。昭和20年、中国・遼寧省生まれ。毎日新聞記者としてソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員などを歴任。朝鮮半島情勢や米国のアジア政策を専門に研究している。著書に『外交敗北』(講談社)、『日韓友好の罪人たち』(風土デザイン研究所)など多数。