「同意なしに軍事行動できない」と文在寅大統領が主張しても米国は北朝鮮急襲を敢行する!

野口裕之の軍事情勢
7月30日、グアム・アンダーセン米空軍基地所属のB1戦略爆撃機が朝鮮半島や日本周辺で韓国軍や日本の航空自衛隊と共同訓練を実施した(ロイター)

 韓国に文在寅政権が誕生した5月以降、弊社以外のメディアや講演会に出ると、番組キャスターや聴衆が頻繁に尋ねてくる質問がこれ。

 「従北サヨクである韓国の文在寅大統領は米軍の北朝鮮攻撃に反対し、韓国軍に参戦を命じないのでは?」

 筆者は毎回、こう答えている。

 「米国はやらねばならぬ情勢となれば、韓国の同意など必要としない。韓国がゴネようと、頭ごしに対北攻撃を敢行する」

 幾つか理由はあるが、もともと米軍の対北先制攻撃作戦の一つは《朝鮮人民軍の各司令部など軍事中枢+レーダーなど軍事施設+ミサイル・砲兵部隊…に対する2波程度にわたる大規模な各種ミサイル攻撃》→《航空戦力による朝鮮労働党の金正恩委員長を頂点とする党や軍の首脳に対する精密誘導(ピンポイント)攻撃》を、緒戦での念頭に置く。

 戦争終盤を例外とすれば、地上軍は要人の暗殺・拉致任務を帯びる大規模な各種特殊作戦部隊の侵入に限られる公算が大きい。

 ミサイルや航空戦力、特殊作戦部隊は理想的攻撃ではなくなるが、韓国の領土・領空・領海を使用せずとも北朝鮮を急襲可能。韓国の主権を侵さず、少なくとも米国の立場からすれば「国際法上合法的」に作戦を完遂できる。

 加えて、米国は米国民の安全が保障できぬ状況が予見されれば、国際法を自国に有利に拡大解釈して、国内法を優先させる「米国有理」の具現化に躊躇などしない。

 もっとも、かくなる状況に陥れば米韓同盟は機能不全に至る。 

 半面、対北急襲作戦への参戦や事前通告の有無に関係なく、開戦となれば、韓国陸軍は主力をもって南北軍事境界線(38度線)に貼り付かざるを得ない。韓国軍の“消極的参戦”は不可避と成る。

 以上、こんなふうに番組キャスターや聴衆に説明していた折も折の8月15日、文在寅氏が自身の安全保障音痴を自ら喧伝してしまった。韓国が「日本の“植民地支配”より解放された記念日」と自称する《光復節》の式典で、文在寅氏は挨拶した。いわく-

 「韓(朝鮮)半島での軍事行動に決定することができるのは大韓民国だけであり、誰も大韓民国の同意なしに軍事行動を決めることはできない」 

文在寅大統領は「韓国の池乃めだか」なのか

 独立国家である以上、米国が大国だからといって卑屈になる必要はまったくない。

 でも、過度のプライドに憑依され小心を強弁でごまかす韓国の為政者の言動を眺めていると、喜劇役者の池乃めだかさんをどうしても思い出してしまう。池乃さんの十八番は、チンピラに絡まれてボコボコにやられた後、強がりを言ってチンピラを一斉にズッコケさせるギャグ。

 「よっしゃ、今日はこれくらいにしといたるワ」

 しかし、喜劇なら笑いをとれるが、国際政治&安全保障の世界で度を超した強弁は嘲笑される。

 ただ、米国の政府系メディア《ボイス・オブ・アメリカ=VOA》がその後報じた2人の在韓米軍司令官経験者は嘲笑などしていなかった。むしろ、韓国を取り巻く現下の情勢への文在寅氏の無自覚に、タメ息さえ聞こえるかのよう。後述する《戦時作戦統制権》に象徴される、在韓米軍司令官時代以来の「対韓疲労」が色濃くにじんでいた。

 2006~08年にかけて在韓米軍司令官を務めたバーウェル・ベル退役陸軍大将は断じている。

 「北朝鮮が米国本土を攻撃すると威嚇しているが(米国が)軍事的対応に出る場合、在韓米軍の運用には米韓両国の承認が必要だが、仮に(韓国)が拒否しても、米国は国際法に従い韓国に駐屯していない(オフショア)軍事資源により北朝鮮を攻撃できる。そこに、韓国の承認・協力は必要としない」

 「(米本土・ハワイ・アラスカ・グアムと北朝鮮周辺の海上に陣取る米軍資源に加え)日本や豪州といった(米軍が駐留する)他の同盟国も、韓国の承認を得ず作戦に参加することが可能だ」

 「北朝鮮が米本土に対する核打撃力を保有する情勢に関し、米韓相互防衛条約では直接的明示がない。従って(北朝鮮の対米核打撃力の無力化は)条約の枠組みの外で行われる」 

 2011~13年まで在韓米軍司令官だったジェームズ・サーマン退役陸軍大将も同じ認識を明言した。

 「全ての国家は自衛権を保有する。北朝鮮が延坪島を砲撃した際、韓国が反撃し自衛権を発動したケースと同様、われわれも自衛権を有している。米領グアムにミサイルが襲来するのなら韓国と同様、米国も生存権を行使する。韓国の承認を必要としない」

 そもそも米国憲法には、自衛・生存に伴う諸々の措置を実行するにあたり、「同盟国の同意」をうたった条項はない。

 さて、先述した、2人の在韓米軍司令官経験者に透けて見えた「対韓疲労」について論ずる。まずは、筆者が対韓疲労を発症させた要因の一つに挙げた戦時作戦統制権の説明から。

 戦時作戦統制権とは、戦時に軍の作戦を指揮する権限。現在の米韓連合司令部では、在韓米軍司令官(大将)が連合軍司令官を兼務して戦時作戦統制権を行使し、連合軍副司令官は韓国軍の大将が就いている。言い換えれば、韓国軍は戦時、米軍の指揮下で軍事行動を実施し、単独で自軍を動かせない。

 戦時作戦統制権の淵源は、朝鮮戦争(1950~53年休戦)にまでさかのぼる。以来、北朝鮮情勢の緊迫化や従北サヨク政権の出現の度、戦時作戦統制権が米韓の駆け引きのテーブル上に並んだ。

 従北サヨクの盧武鉉政権は米国に対して戦時作戦統制権の返還を求めた。要求を受け、2006年の米韓首脳会談で米国は戦時作戦統制権の返還に合意する。2007年には返還期限「2012年4月」が設定された。

 一転、2008年に保守系の李明博政権が発足。李大統領は金融危機などを理由に、盧武鉉政権が決めた戦時作戦統制権返還の延期を懇願した。さすがに、韓国軍首脳は軍事的合理性は逸脱できない。李大統領の耳に、何とか内実を届けたのだろう。例えばこんな具合に-

 「戦時において、平時に立案済みの対北朝鮮戦略に沿って→決心し→軍に作戦実施を許可する韓国政府の戦争指導能力は極めて低い」

 米国は戦時作戦統制権の返還延期を承諾し、新たな期日「2015年12月」を約定。土俵際で朝鮮半島の平和は保たれた。

戦時作戦統制権でも迎撃ミサイル配備でも、あっちへフラフラ&こっちへフラフラ

 この時、米国は返還延期の交換条件として、韓国への最新鋭地上配備型高高度ミサイル迎撃システム(THAAD)配備を突き付けた。

 THAADは6基の発射台と48発のミサイルなどで構成され、北朝鮮・朝鮮人民軍の短・中距離弾道ミサイルを迎撃する切り札だと期待される。韓国民だけでなく在韓米軍も防御するTHAAD配備を譲らない米国の姿勢は至極当然だ。だから、韓国の安全保障史上、THAAD配備は戦時作戦統制権の問題と表裏一体を成してきた。

 筆者には、「戦時作戦統制権を韓国軍に譲れば、軍事上の拙策が急増しよう。せめてTHAAD配備で在韓米軍の安全を担保したい」との、米国防総省の本音が漏れ伝わってくる。

 だが、予想通り、韓国は韓国であった。《事大主義》の悪癖が発症し、米国と中国を天秤にかけ、のらりくらりと曖昧な態度を取り続けたのである。事大主義とは《小が自らの信念を封じ、大=支配的勢力に事(つか)え、自己保身・生存へと流されていく外交姿勢》などを意味する。説明しよう。

 中国はTHAADを構成するXバンドレーダーの韓国配備に猛烈に反対している。射撃管制モードの探知距離は500キロで北朝鮮の中~南部をカバーする程度だが、捜索モードに徹すれば1000キロを超え、北京・天津の手前まで覗ける。しかも、在日米軍が青森県車力と京都府京丹後に置くXバンドレーダーと同型で、データリンクで連結され、互いをカバーし合える優れモノだ。

 中国は「レーダーは中国内も監視する」と猛反発。6月に北京で開かれた韓中外務次官戦略対話でも、文在寅政権の「従中・従北・非米」姿勢を見逃さず政治決断を強く迫った。中国外務省の張業遂・次官の言い回しはドスが利いていた。

 「中韓関係を制約する主な障害物(THAAD)が除去できずにいる」 

 2013年に発足した朴槿恵政権も戦時作戦統制権返還の再延期を請うた。もちろん、米国は改めてTHAAD配備を異例の強さで訴えた。 

 結果、戦時作戦統制権の返還は「2020年代中盤」に再延期され、米韓両国は2016年にTHAAD配備で一致した。

 にもかかわらず、朴大統領はセウォル号事件への対応不備や「崔順実ゲート事件」など一連の不祥事が元で、2017年3月に大統領弾劾が成立して罷免。代わって従北サヨクの文在寅政権が誕生した。

 盧武鉉・大統領を大統領選挙中も支え、盧武鉉政権では大統領秘書室長を務めるなど「盧武鉉の影法師」と呼ばれ最側近であった文大統領は、自らの大統領選挙で戦時作戦統制権の任期内返還を公約。盧武鉉政権同様、またも戦時作戦統制権の返還話を持ち出した。

 かくして、従北サヨク政権で「返還」を申し入れ、保守政権で「延期」をお願いする堂々巡りと相成った次第。

 それでも、朴槿恵政権との合意を受け、在韓米軍は文在寅政権発足直前の4月末、THAAD用の発射台やレーダーなどを南部・慶尚北道星州郡のゴルフ場に搬入したのを皮切りに、一部設置を完了していた。

 対する文大統領は7月28日、一般環境影響評価(アセスメント)の実施を発表するなど、THAAD配備の先延ばし・撤回を画策してきた。ところが、同じ日の夜に北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射するや即、配備済みのTHAAD発射台2基に加え、在韓米軍に保管中の残る4基の速やかな追加配備を指示するなど、鮮やかなる「朝令暮改」を披露した。

 THAADをめぐり米中という大国の間で揺れ続けるのも、戦時作戦統制権が米韓の間で行ったり来たりするのも、主権国家たるプライドは一見すると高いものの、強者を前にするとプライドをかなぐり捨てる《事大主義》ゆえだ。在韓米軍の戦力はノドから手が出るほど欲しいが、自らが「陣頭に立つ」体裁は取り繕いたいのだ。 

 韓国が背負う事大主義について過去、小欄では何度か批判しつつも、哀れんできた。哀れの極みは、韓国軍自身が世界最強の米軍を作戦統制する能力を備えていない限界を悟っていること。

 戦時作戦統制権が韓国軍に返還されれば、対北抑止行動や緒戦での応戦は主に韓国軍の担任となるが、その時、文大統領は大統領選~就任直後に発した戦時作戦統制権返還への威勢を保てるのか? 

 「よっしゃ、戦時作戦統制権は米軍に貸しといたるワ」

 文大統領の「池乃めだか化」が目に浮かぶ。