白人至上主義 トランプ氏はなぜ人種差別を政治利用するのか 中岡望氏

iRONNA発
白人至上主義者と反対派の衝突をめぐる発言で波紋が広がっているトランプ米大統領=8月15日(AP)

 米南部バージニア州で起きた白人至上主義者と反対派の衝突をめぐり、トランプ大統領の差別容認とも受け取れる発言に波紋が広がった。トランプ氏は「私の発言をきちんと伝えなかった」とメディアに責任転嫁したが、差別の意図は本当になかったのか。トランプ発言の真意を読み解く。(iRONNA)

 人権と平等を主張する民主国家のアメリカで、なぜ今さら「白人至上主義」なのかと疑問に思っている読者は多いのではないかと思う。しかし、白人至上主義や人種差別はアメリカ社会に深く根差した意識である。

 これも日本人には信じられないことだが、南北戦争後の1865年に設立された暴力的な白人至上主義者の秘密結社「クー・クラックス・クラン」(KKK)が依然として存在し、活動を行っている。KKKは「反黒人」にとどまらず「反ユダヤ人」「反カトリック」を主張しており、今でもこうした白人至上主義者が活動するアメリカ社会の深層に何があるのだろうか。

 1960年代の公民権運動以降、さまざまな差別用語は「封印」された。黒人や少数派の権利を擁護し、差別を排除するために、公民権法や投票法が成立し、法的に少数派の人々の権利が擁護されるようになった。それと同時に社会意識を変えるためにさまざまな対応策が講じられてきた。

 その一つに「ポリティカル・コレクトネス」という考え方がある。日本語に訳せば「政治的に正しい言葉遣い」という意味になる。政治や社会で差別用語を使うと、ポリティカル・コレクトネスに反すると社会的に厳しく糾弾された。

 だが、言葉を使わないからといって差別意識が払拭されるわけではない。あくまで心に思っていること、本音を直接口に出さないということにすぎない。そうした社会的雰囲気の中で人種的な差別意識や白人至上主義的な意識を持っている人は、長い間、息苦しさを感じていたのである。

社会的タブー

 こうした中で、社会的タブーを破ったのが、昨年の大統領選で勝利したドナルド・トランプ氏だった。選挙運動中、トランプ氏は平気でポリティカル・コレクトネスに反する言葉を使った。差別用語禁止に不満を抱いていた保守派の人々は喝采した。トランプ氏は社会的タブーを破ることで、一部の保守派の人々の間で人気を博したのである。

 しかし、シャーロッツビル事件で事態は大きく転換し、改めて白人至上主義が大きな政治問題となった。南北戦争における南軍のリー将軍の銅像撤去をめぐって、奴隷制度を支持し、南軍の敗北を認めない白人至上主義者と反対派が激突、死者が出る事態となった。

 白人至上主義者は反ユダヤ主義者でもあり「ユダヤ人が自分たちにとって代わることは許さない」と叫びながら行進した。そうした状況の中で、トランプ氏は「ネオ・ナチも反ネオ・ナチも両方とも悪い」と発言し、それが白人至上主義者やネオ・ナチと反ユダヤ主義を容認するものだと厳しい批判が浴びせられた。

白人貧困層のいらだち

 だが、白人至上主義の根はもっと深い。アメリカ社会は矛盾に満ちた社会である。トランプ氏支持者のうち20%以上の人々は「奴隷解放宣言は間違いであった」と答えている。少数であるが、そうした考えを持つ人々が存在するのが、アメリカのもう一つの現実である。

 そして今回のもう一つの特徴は、白人貧困層のいらだちと焦燥感がピークに達していたことである。アメリカは「白人社会」である。実際、人口の大半を白人が占めている。だが、白人が最大多数の地位を失うのは時間の問題だ。

 排外的な「アメリカ・ファースト」のスローガンは、彼らを魅了した。白人貧困層は長い間、政治的に忘れられた存在であったが、その声を拾い上げ、不満を吸収したのがトランプ氏であった。

 本音と建前は別にして、アメリカの大統領には高い道徳性が求められる。その試金石が人種差別や性差別に対する考え方である。トランプ氏は、その試金石で大きくつまずいたことは間違いない。

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【プロフィル】中岡望 なかおか・のぞむ 東洋英和女学院大大学院客員教授。国際基督教大卒、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て、『週刊東洋経済』編集委員やハーバード大客員研究員、ワシントン大(セントルイス)客員教授などを務めた。主な著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)。