盛り上がらないまま告示 民進代表選で争点に浮かぶ3つの「K」とは? 党最後の論戦の始まりか

野党ウオッチ
民進党代表選に向け、選挙事務所開きを行った前原誠司元外相=8月16日午後、東京都千代田区(飯田英男撮影)

 民進党代表選が21日に告示される。9月1日の投開票に向け、いまひとつ盛り上がりに欠ける感は否めないが、目をこらしてみると、争点には(1)憲法(2)共産党(3)解党の是非-という3つの「K」が浮かび上がる。自民党と政権交代を争える党に戻れるのかどうか。民進党に対する国民の視線は冷め切っているだけに、これが党として「ラストチャンス」の論戦ともなりそうだ。

憲法

 政策的にも政局的も、最大の争点は憲法9条の改正問題だろう。

 本来、民進党は綱領に「象徴天皇制のもと、新しい人権、統治機構改革など時代の変化に対応した未来志向の憲法を国民とともに構想する」とうたう改憲政党だ。しかし党では岡田克也前代表(64)のころから、憲法の全条項厳守を掲げる共産党との選挙協力を念頭に「安倍晋三政権下での改憲反対」と具体論に踏み出すことを避けてきた。

 党内では、改憲論を避ける党運営に不満がたまっている。細野豪志元環境相(46)は昨年の代表選で、蓮舫氏(49)を支持するにあたり、改憲に関する党の考え方をまとめることを条件に支持したというが、蓮舫氏が約束を反故にしたことが離党の一因になった。長島昭久衆院議員(55)も離党(結果は除籍)の理由に改憲議論の脆弱さを挙げている。

 今年5月に安倍晋三首相(62)が自民党総裁として9条改憲論をぶち上げたことで、情勢は大きく変わった。首相は憲法9条に自衛隊の存在を明記する案を示し、平成32(2020)年に新憲法施行を目指す考えを表明した。内閣支持率の低迷でトーンダウンしたときもあったが、首相は「来年の通常国会にも改憲発議」という目標は諦めていない。次期衆院選の最大争点となるのは明白で「安倍首相なら議論を拒否」という逃げは通用しないのだ。

 代表選で優位に立つ前原誠司元外相(55)は、もともと現実的な安全保障論者だ。現行憲法前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあるが、前原氏は目下の北朝鮮情勢などを踏まえ「あまりにも現実離れし、理想主義に過ぎない」と断じたこともある。

 前原氏は昨年9月の代表選で「(戦争放棄と戦力不保持などを定めた)1、2項は変えず、3項に自衛隊の位置付けを加えることを提案したい」と主張した。これは首相の提案とほとんど同じだ。今月7日の代表選出馬会見では「憲法の議論は安倍政権のもとで行わないということではなく、野党第一党として堂々とすべきだと思う」と述べている。

 ただ、同じ会見では「改憲論をまとめるには年単位の議論が必要で、年内に草案をまとめ来年発議というスケジュールにはくみしない」とも強調し、「憲法改正が最重要の課題でない」と言い切った。自民党が一気に案をまとめ、「前原氏の持論と同じ案ですよ」と踏み絵を迫られたときの対応はどうなるか。

 一方、前原氏のライバルとなる枝野幸男元官房長官(53)はどうか。枝野氏には「リベラル」の印象が先行しがちだが、実はこちらも立派な9条改憲論者だ。

 平成25年に発表した「改憲私案」では、9条1、2項に「9条の2、9条の3」を追加し、自衛隊を事実上「自衛権に基づく実力行使のための組織」と位置づけている。

 特徴的なのは、私案で安全保障法制の制定時に大激論となった集団的自衛権の行使にも踏み込んでいることだ。「9条の2」では、(1)わが国の安全を守るために行動している他国の部隊に対し、急迫不正の武力攻撃がなされ(2)これを排除するために他に適当な手段がなく(3)かつ、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全に重大かつ明白な影響を及ぼす場合(4)必要最小限の範囲内で、当該他国と共同して、自衛権を行使することができる-とも記している。

 ただ、枝野氏は27年に成立した安全保障関連法に反対する立場から「まず安保法の廃止が優先」として、安倍政権下での改憲議論に応じない姿勢をにじませてきた。今月5日に党憲法調査会長として臨んだ「憲法草の根集会」では、首相の改憲提案について、安保関連法を前提に自衛隊の存在を明文化すれば「海外の紛争に武力で介入することを憲法が追認することになる」と問題視した。別の会合では「首相提案は明確に反対だ。きちんと国民に説明していけば、何とかつぶせる」とも語っている。

 首相に反対するのはいいが、それに変わる代案はまとめられるのか。民進党の党勢が低迷するのは、国の根幹である外交や安全保障政策がわかりにくいことだ。北朝鮮から弾道ミサイルが飛んでくるかもしれないと各地で避難訓練まで行われるご時世に「反対」だけでは通用しない。

共産党

 前原氏が共産党を「シロアリ」呼ばわりしたのは有名だ。共産党が伝統的に強い京都府を地盤とし、20年以上も死闘を繰り広げ、党内で誰よりも「共産アレルギー」が強い。27年には「共産党の本質はよく分かっているつもりだ。シロアリみたいなものだ。ここと協力をしたら土台が崩れる」と言い切っている。

 前原氏のような意見は、真剣に政権交代を目指そうと考える民進党議員なら少なからず抱く懸念だ。共産党は党綱領に「日米安全保障条約の廃棄」「自衛隊の解消」などを掲げており、民進党の基本政策とは根源的に違う。

 これまでの民進党執行部は、政策の異なる共産党と一緒に政権を目指すつもりはないとしてきたが、次期衆院選での候補者調整は進める考えを示してきた。当選者が1人の小選挙区制で自民党に勝つためには、野党候補の一本化が不可欠という考えからで「候補の相互推薦や支援はせずにケジメを付け、民進候補に共産票だけを上乗せしたい」というのが本音だろう。

 ただし、有権者側の視点でみれば、選挙区に1人しかいない野党統一候補に共産党の影をみるのは明らかだ。特に共産党は7月の東京都議選の躍進などで勢いが増しており、野党共闘にあたっては共通政策作りなどの要求をエスカレートさせるのは間違いない。

 民進、共産、自由、社民の4野党は6月の党首会談で「4野党が協力して候補者調整を行い、一致したところを順次発表する」と踏み込んだ合意をした。前原氏は今月7日の会見で、合意を見直す可能性も示唆したが、懸念材料はいつも対応にブレがあることだ。

 前原氏は「シロアリ」発言の後、昨年4月の衆院北海道5区補選と10月の新潟県知事選で、共産党の小池晃書記局長と一緒に応援演説に参加した。昨年9月の代表選では、両党が政策合意を重ねることを条件に、候補者調整を容認する姿勢も示している。

 枝野氏は幹事長時代に野党共闘を進めた立場から、次期衆院選でも候補者調整をすることに躊躇がない。今月8日の会見では「自民党の議席を1議席でも減らすとの目的を見据えれば、答えはおのずから出る」と明け透けに語った。

解党

 前原、枝野両氏の主張を細かく点検すると、憲法にせよ、対共産党にせよ、今の党運営と何がどう変わるのかよく分からない。両氏は党内をまとめ上げることを最優先にしているようだが、代表選で政策議論が深まらなければ、党の未来に失望し、去る議員も増えるだろう。

 細野氏は離党するにあたり、党内に複数の離党予備軍がいることを明らかにしている。小池百合子都知事(65)の側近の若狭勝衆院議員(60)は、政治団体「日本ファーストの会」を発足させ、年内の政党立ち上げを目指す考えも示し、細野氏と協議も始めた。

 次期衆院選で「日本ファーストの会」が東京などに候補者を擁立すれば、民進党候補の当選は一層困難を極めるだろう。民進党内で東京選出の複数の衆院議員が「日本ファースト」への合流を模索しているのは周知の事実だ。

 すでに党の足元では、解党に向けた流れが始まっている。お盆休みに親類や友人と一杯やる機会があったが、民進党が代表選をやることすら知らない人もおり、今や党への関心そのものが低いのだ。

 ただし「自民党政権が失敗したときの受け皿は必ず必要」との声も多く聞いた。前原、枝野両氏の責任は重い。今年が民進党として最後の代表選にならないよう祈るばかりだ。(政治部 水内茂幸)

 前原誠司(まえはら・せいじ) 昭和37年4月30日、京都市生まれ。京都大卒業後、松下政経塾、京都府議を経て平成5年の衆院選に旧京都1区で日本新党公認で出馬、初当選。以後、当選8回。新党さきがけなどを経て8年の旧民主党結成に参加。17年に43歳で党代表に就いたが、党所属議員が虚偽の内容に基づき自民党幹部を追及した「メール問題」により半年あまりで辞任した。21年発足の民主党政権では国土交通相に就任。22年に外相に就いたが、在日韓国人からの献金問題で約半年で辞任。その語、党政調会長、国家戦略担当相も務めた。下野後は表舞台に立つことが少なくなり28年の民進党代表選では蓮舫氏に大差で敗れた。趣味はSL撮影で、写真が鉄道会社のカレンダーに採用されたこともある。

 枝野幸男(えだの・ゆきお) 昭和39年5月31日、宇都宮市生まれ。東北大卒業後、司法試験に合格し弁護士に。平成5年、日本新党の候補者公募に合格し、衆院選旧埼玉5区で初当選。以後、当選8回。新党さきがけなどを経て8年の旧民主党結成に参加、幹事長や政調会長を務める。21年の政権交代後は行政刷新担当相、官房長官、経済産業相を歴任。官房長官時に発生した東日本大震災・東京電力福島第1原発事故では連日記者会見を開いて対応した。民主党下野後は26年に再び幹事長に就任。民進党結党後も28年9月まで幹事長を務めた。中学、高校と合唱部に所属し、中学校ではNHK全国学校音楽コンクール全国大会で優勝した経験を持つ。現在も趣味はカラオケで、アイドルの歌を好む。