どうなるグアム危機 米朝駆け引きの3つのポイント

久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ
 朝鮮中央テレビが4日放映した、ICBM「火星14」の発射実験に立ち会った金正恩朝鮮労働党委員長の写真(共同)

 「米国の様子をもう少し見守る」とした金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の真意はどこに? 21日に始まる米韓合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」(UFG)を前に危機の引き金は金正恩氏が握っている。そもそも、北朝鮮がグアム周辺へのミサイル発射を予告し米朝関係を極度に緊迫させた理由は何なのか。「発射はないだろう」との楽観論の一方、挑発が常態化することで危機が長期化する懸念もある。北朝鮮側の思惑を探った。(久保田るり子)

■ポイント1 恐怖から対米交渉を探った金正恩氏

 北朝鮮はなぜ、グアム周辺へのミサイル発射計画を詳細に予告したのか。軍事専門家の分析を総合すると狙いは次の3つだ。

 第1は、予告で米朝交渉を引き出す狙いだ。北朝鮮がいう「米国への警告」だけなら予告の必要はなかったはずだ。第2に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射成功で自国の交渉能力に自信を付けていた。第3は、過去最高レベルの国連制裁決議採択に対する猛反発で、中国へのメッセージでもあった。

 さらに背景として指摘されているのは金正恩氏の「恐怖」だ。

 北朝鮮が5月中旬、中距離弾道ミサイル「火星12」(射程4000キロ~6000キロ)発射を成功させた後、米空軍は8月上旬までに、有事に先制攻撃に使用するステルス性のある戦略爆撃機B1を計11回も朝鮮半島上空に飛ばした。金正恩氏はこの間、動静が途絶え、7月中旬からはほぼ1カ月、例外を除き行動を公開していない。B1は超低空飛行や精密爆撃も行うため、金正恩氏本人を狙う「斬首作戦」への恐怖があったとみられる。

 金正恩氏は、国際社会に「北朝鮮の脅威」を見せつけたことで一定の目的を達成し、このまま沈黙するのか。その先行きは不透明である。米朝は米国務省と北朝鮮国連代表部の「ニューヨーク・チャンネル」のほか、米元高官や研究者などを通じたルートで接触できるため一定の水面下交渉はあったとされる。

 だが、危機は先送りされただけとの見方が多い。21日からの米韓合同軍事演習(UFG)の規模によっては、演習期間中に北朝鮮の予告なしの挑発が始まる可能性もある。

■ポイント2 過去の対米挑発は連戦連勝 

 北朝鮮は米国との瀬戸際外交で“連勝”してきた成功体験がある。「米国は緊張に耐えられず最後に譲歩する」との教訓を得ている。もっとも、金正恩氏がトランプ政権の思考回路を読み違うと事態は予測不能に陥る。

 1994年、兵器用プルトニウムの生産疑惑が焦点だった第1次核危機で北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言し、「ソウルは火の海になる」「経済制裁は宣戦布告だ」と激しく反発した。このとき北の核武装化を懸念した米国は核施設への先制攻撃も検討したが、当時のクリントン米政権は最終的にカーター元大統領の訪朝で危機を回避した。

 兵器用のウラン濃縮疑惑が発端だった2002~03年の第2次核危機でも北朝鮮は、国際原子力機関(IAEA)の査察官を追い出しNPT脱退を表明、危機を高めた。この結果、米中が主導して「6カ国協議」(03~08年中断)が設定されたが北朝鮮は核実験を強行。さらに紙切れにすぎない「北朝鮮の核計画申告書」提出でブッシュ政権(当時)から「テロ支援国家指定」解除を引き出すことに成功した。

 金正恩氏はこの成功体験をどう判断するのか。ただ、シリアへの巡航ミサイル攻撃を躊躇なく命じたトランプ政権は、歴代米政権と毛色が全く違う。

■ポイント3 時間は北朝鮮に味方する

 米国のマティス国防長官は「北朝鮮が米国をミサイル攻撃すれば戦争になる」と述べ、グアム周辺の海域に着弾した場合は「大統領が判断する」として含みを残した。韓国の宋永武(ソン・ヨンム)国防相は北朝鮮がグアム周辺にミサイルを発射する可能性を「非常に低いと思う」と楽観的な判断を示したが、米研究者は「核保有で北朝鮮は譲歩しないだろう。米朝交渉は、最終局面を対話で解決するのは至難の業」と話している。時間は北朝鮮に有利だ。緊張が緩和することは、北朝鮮の核ミサイルの技術進捗を意味している。