「8月危機」北朝鮮ICBM、技術流出の「黒幕」は中国だった? 鍛冶俊樹氏

iRONNA発
北朝鮮の朝鮮中央テレビが7月29日放映した、「火星14」の発射映像(共同)

 北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が米領グアムへのミサイル発射計画をぶち上げ、米朝間の緊張が再び高まっている。グアム攻撃は威嚇との見方が支配的だが、強硬姿勢を貫くトランプ米大統領との駆け引きは続く。朝鮮半島有事は起こり得るのか。「8月危機」の現実味やいかに。(iRONNA)

 昨年から今年にかけて北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)技術は飛躍的に進展した。当然、技術の提供元があると考えられる。米国の研究者は「提供元はウクライナだ」と言い出したが、ウクライナは旧ソ連時代にICBMなどの兵器を製造し、ソ連軍に納品していた過去を持つ。

 ところが、ウクライナの民主化に伴い、ロシアに兵器を売れなくなった。ウクライナの主要産業である兵器技術が闇市場に流れ、最終的に北朝鮮の手に渡ったというのが米国の見立てである。

 米国の研究では北朝鮮のICBMのエンジンはウクライナで製造されたエンジンRD250系に類似するという。これだけ聞くとRD250系はあたかも最新の技術で製造されたエンジンのように思われようが、実は1970年代の旧式である。

液体燃料

 ただ、注目すべきは、北朝鮮のICBMが液体燃料を使用している点である。弾道弾の燃料には液体燃料と固体燃料の2種類があるが、液体燃料は保管が難しく、発射前に数時間かけて注入しなければならない。

 固体燃料は入れっ放しにして、いつでも発射できるから、世界的に新式の弾道弾はすべて固体燃料である。北朝鮮でも潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は固体燃料を用いているが、ICBMは液体燃料を使っている。なぜなのか。

 これは北朝鮮がエンジン技術を自主開発していないことを意味する。つまり他国から与えられた技術をうのみにしているため、SLBMの固体燃料をICBMに応用することができないのであろう。

 そもそも、エンジンは50年も前の技術であり、これを確立させたのは他ならぬ米国である。しかも、ウクライナはこのエンジン製造を2000年代初頭にやめており、10年以上も闇の市場を漂っていたとは考えにくい。どこをどう通って北朝鮮にたどり着いたかは、慎重に検討すべきであって、ウクライナだけが非難されるべきではない。

米露接近を警戒

 むしろ、ここで関与が疑われるのは中国であろう。中国にはまだ北朝鮮を支援するだけの経済的余裕がある。しかも1998年に中国はウクライナから空母を購入して、後に「遼寧」として就航させている。

 2000年前後において、ロシアの軍縮によってウクライナの兵器産業は逼迫(ひっぱく)しており、経済発展著しい中国は新しい顧客として優遇された。ウクライナが中国にRD250系を二束三文で売り払ったとしても不思議ではない。

 もちろん、ウクライナが主張するようにすべてがロシアに納入されているとすれば、ロシアから中国が買った可能性もある。中国としては当初、非軍事の宇宙ロケットの開発に転用する計画だったであろうが、やがて北朝鮮が核実験に成功するにおよび、新しい利用法を発案した。北朝鮮のミサイル開発の支援である。

 北朝鮮が核ミサイルを独自開発してしまえば、そのミサイルが中国に向かう可能性をはらんでいる。中国が全面的に支援して北朝鮮のミサイル開発自体をコントロールすれば、中国製のGPSを組み込むことにより、その可能性を排除できるのである。

 今回、米国がブーメランのリスクを冒してまで、同盟国ウクライナを苦境に追い込んだのは興味深い。トランプ政権はロシアとの接近を図っているが、その最大の障害はロシアとウクライナの対立であり、ウクライナの譲歩があれば、米露接近は可能になる。

 一方、米露接近を最も警戒しているのが中国であり、ロシアを中国側に引き込み中朝露と日米韓の対立の構図を演出している。だが、この対立の構図は安定したものではなく、むしろ不安定で危険である。なぜなら、中国は今でも世界大戦を志向しているからである。

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【プロフィル】鍛冶俊樹(かじ・としき) 軍事ジャーナリスト。昭和32年、広島県生まれ。埼玉大卒業後、自衛隊に入隊。退官後の平成6年に軍事ジャーナリストに転身。現在、チャンネル桜「国防・防人チャンネル」にレギュラー出演。著書に『領土の常識』(角川学芸出版)、『イラスト図解 戦闘機』(監修、日東書院本社)など多数。