「飛ぶボール」が甦った? 今季一発病に悩むマー君が指摘 ダルビッシュも打撃練習で柵越え

スポーツ異聞
今季は本塁打を浴びてマウンド上で田中(左)が捕手のルミネと話をする機会が増えた(ロイター)

 「juiced ball」。飛ぶボールと訳される。古くて新しい問題が全米で騒動を巻き起こしている。

 論争を大きくしたのは、ヤンキースの田中将大(28)。米ニューヨーク・ポスト紙によると、「自分はおそらく最も多く本塁打を打たれている投手かな。言い訳に聞こえるかもしれないけど、今年はボールがちょっと飛ぶ印象がある」と話したという。

 田中は復調の兆しが見えているとはいえ、今季すでに23本の本塁打を浴びている。昨季が22本だったから、前半戦だけで上回ってしまった。ア・リーグでは2番目の被弾の多さだ。

 「ボール自体に違いは感じられない」とも付け加えたが、ロスチャイルド投手コーチは「(田中の問題の一部には関わっていると思うが、それはわずかだろう」と話す。

 ただ、メジャー全体でも本塁打数は増加傾向にある。MLBのデータによれば、昨季は1試合あたり2.31本だったが、今季はオールスター戦までの前半戦終了時点で総数が3343本で1試合あたり2.52本。10%近く増えている。ちなみに一昨年は2.02本に過ぎない。

 この投手受難の状態に、今季調子が上がってこないことも重なって「飛ぶボール」発言になったようだ。

 さらに、レンジャーズのダルビッシュ有(30)がオールスター戦(7月11日)前日に、「自分が打撃練習していても中堅(バックスクリーン)に入っちゃう。そんなこと、自分の野球人生で本当に1回もなかった。絶対におかしい」とまくし立て、今季のボールが昨季より明らかに硬くなり、飛んでいることに言及。疑惑は解消されるどころか、炎上しかねない状況になった。

 田中やダルビッシュの発言を裏付けるように、元ESPNのキャスターが中心になって設立されたスポーツサイト「ザ・リンガー」が「飛ぶボールが戻ってきた」というタイトルで、具体的な研究結果を基にボールが変わったことを指摘している。

 「ワシントン州立大学の調査で、2015年のオールスター戦を境に、ホームランの増加を説明できる数値に変化があった。ボールの大きさと重さ、縫い目の高さに始まって、硬度、反発係数、飛距離、打球の速度などを比較した。新しいボールは反発係数が大きく、縫い目が低くなっていたことがわかった。この数字はMLBの許容範囲に収まっているが、違いは大きい」

 方々から聞こえる「飛ぶボール」に対し、大リーグ機構は「これまで以上にテストしており、規定の範囲内であるということは確実に言える」(マンフレッド・コミッショナー)と全面的にこれを否定する。米メディアも今のところは「おそらくないだろう」というスタンスだ。

 というのも、本塁打が増加した理由は、単に「飛ぶボール」になったという投手の感覚的なものだけではないからだ。打者の方でもより遠くに打球を飛ばすために新たな打撃理論が実践されつつある。「フライボール・レボリューション」と呼ばれているもので、これまでの常識だったジャストミートしてライナーで打ち返すことをやめ、ボールのやや下部で捉えて飛球にして飛距離を稼ぎ、安打や本塁打を増やすという。日本でも3度の三冠王に輝いた落合博満が実践していたことの1つだった。

 全米ネット局NBCは「ドナルドソン、J・D・マルティネス(いずれもタイガース)、ジンマーマン(ナショナルズ)、アロンソ(アスレチックス)らの強打者がこの理論を取り入れた。メジャー全体で飛球が2%近く増えている。ステロイドにより驚異的に増えたとき以来、多くの本塁打が見られるかもしれない」と伝える。

 日本球界でも「飛ぶボール」は永遠のテーマとなっている。近いところでは、2013年に選手側から「ボールが飛びすぎる。変わったのではないか」との指摘が多く出たが、日本野球機構(NPB)は当初、これを全面否定したが、後になって秘密裏に反発係数の許容値が変更されていたことが発覚し、大騒動に発展したことがあった。

 その前にも、各球団で異なるボールを使用していたことから、公平性が保たれないという理由から、製造が1社に統一された経緯がある。

 勝負の行方を決することが多い本塁打の増減にかかわるだけに、ボールのわずかな違いに神経質になるのも当然だろう。

 浮かんでは消える「飛ぶボール」疑惑。野球界の永遠のテーマなのかもしれない。