なりふり構わぬ蓮舫民進党 「国連」ケナタッチ氏の書簡を御旗に“共謀罪”阻止の正当性を主張

野党ウオッチ
組織犯罪処罰法改正案の採決が始まり、鈴木淳司衆院法務委員長(中央左)に抗議する民進党の山尾志桜里前政調会長(同右)ら野党議員=5月19日、衆院第14委員室(斎藤良雄撮影)

  民進党が、「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の廃案に向けて勢いづいている。国連の特別報告者、ジョセフ・ケナタッチ氏が公開書簡で改正案に懸念を示したからだ。ただ、この書簡には政府側の見解は盛り込まれていない。しかも、外務省の求めを振り切り、国連のホームページ上に掲載した。民進党のセンセイ方にとっては、作成途中の一方的な書簡であっても、「国連」の名前が冠されていれば、お構いなしのようだ。

(※6月14日にアップした記事を再掲載しています)

 「政府は国連の勧告を重く受け止め、法案は廃案にすべきだ」

 民進党の蓮舫代表は5月21日、ケナタッチ氏の公開書簡に触れ、東京都内で記者団に語気を強めた。

 ケナタッチ氏は国連人権理事会に任命された特別報告者の一人。個人の資格で務め、国連総会と人権理事会に報告書を作成するのが役割だ。

 ケナタッチ氏は5月18日、組織犯罪処罰法改正案について「プライバシーや表現の自由を不当に制約する恐れがある」と懸念を示した書簡を日本政府に送るとともに、国連のホームページで公開した。

 民進党は今国会での最重要目標に「共謀罪」を掲げているが、金田勝年法相の不信任決議案が衆院で否決されるなど安倍晋三政権を攻めあぐねている。そうした中で、「国連」の名を冠した書簡に飛びついた。

 党公式ホームページに日本語訳全文を掲載。「集団的に検討された公開書簡」(有田芳生参院議員)とのコメントも添えて、書簡の正当性を主張した。大串博志政調会長も6月4日のNHK番組で「特別報告者からやり過ぎといわれる法律を成立させるべきではない」と強調した。

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 しかし、ケナタッチ氏の書簡の正当性には首をかしげざるを得ない。

 書簡では、組織的犯罪集団の「計画」や「準備行動」の定義が不明確なため、捜査機関に恣意的に適用される可能性があると民進党と同じように指摘。さらには、「森林法」と具体例を示して、テロ対策と無関係な法律が処罰対象に含まれているとした。森林法についても、民進党議員が「『山へしば刈りに行こうか』と言ったら、共謀罪が適用される」など改正案の不安をあおる決まり文句に使っている。

 この書簡は、政府・与党側にヒアリングしていない段階で公表された一方的なものだといえる。

 国連報告者は人権理事会への報告書作成にあたり、「当局と被害者の双方に会い、現場で証拠を集める」とされる。一方の主張のみをヒアリングした段階で出されるのは「一般的に緊急の場合に限られる。信頼に欠く行為と言わざるを得ない」(外務省担当者)という。

 外務省は、ケナタッチ氏が改正案を批判する書簡の公開を思いとどまるよう、事前に国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)を通じて伝えていた。同時にケナタッチ氏の持つ疑問点に回答することも伝えた。

 にもかかわらず、その要請は無視され、書簡は公開された。

 当然、菅義偉官房長官は5月22日の記者会見で、「政府が直接説明する機会もなく、一方的に発出された。内容は不適切で、強く抗議した」と不快感を示した。

 菅氏の抗議は、片方の見解を基に書簡をまとめ、公開したことに対するものだが、ケナタッチ氏は勘違いをしたのか、「私の懸念に答えていない」と不満を並べ、「訂正するまで安倍晋三首相に書いたすべての単語を維持する」と脅しともとれる再反論声明を発表した。

 その声明は官邸や外務省は把握しておらず、なぜか民進党が代わりに把握していた。

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 民進党は再反論声明を入手した直後の5月23日、党会合に外務省担当者を呼びつけ、これまでの経緯をただした。

 民進党が問題視したのが、菅氏の発言と、外務省がケナタッチ氏に宛てた反論文の齟齬だった。菅氏は記者会見でケナタッチ氏の書簡に関して「国連の立場を反映するものではない」と述べたが、外務省の抗議文では「国連の立場から懸念を表明することは控えてほしかった」と記載された。

 整合性を問われた外務省担当者は「間違いだった」と釈明し、その場で「国連の肩書を持つ者」と修正した。菅氏と同じく、国連特別報告者の見解は、国連を代表するものではないとの意味だ。

 しかし会合に出席していた議員は聞き入れない。

 山尾志桜里前政調会長は外務省担当者の弁明を聞いた後、記者団に対し「官房長官は個人の見解だといいながら、政府見解は国連の立場だという。ダブルスタンダードの使い分けだ」と皮肉たっぷりに語った。

 逢坂誠二衆院議員も6月2日の衆院法務委員会で「国内的には国連の立場を反映する人ではないと言い、反論時は国連の立場から懸念を表明することは差し控えてほしいというのは二枚舌だ」と批判した。

 人権理事会と同じく国連の補助機関である国連薬物・犯罪事務所のフェドートフ事務局長は5月29日、改正案の衆院通過について「国際組織犯罪防止条約への日本の加盟に向けた積極的な一歩だ」と評価した。それでも民進党は「国連の権威に名を借りるかのような主張」(公明党の山口那津男代表)を繰り出している。

(政治部 奥原慎平)