北の核ミサイルは迎撃しても安全装置作動で起爆せず?それでも激烈な電磁波+化学液+ミサイル破片の「豪雨」…

野口裕之の軍事情勢
北朝鮮の労働新聞が5月22日掲載した中距離弾道ミサイル「北極星2」の実戦配備に向けた「最終発射実験」の写真 (共同)

 関係者と過日行った北朝鮮のわが国に対する核ミサイル攻撃のシミュレーションは途中で早めの休憩に入った。「部屋の空気が一瞬滞留した」ように感じたほど、参加者が受けた衝撃があまりに強かったためだ。小生も事態の深刻さに、少し気持ちが悪くなった。(※5月29日にアップされた記事を再掲載しています)

 現在、日本に襲来する敵弾道ミサイルを迎え撃つ切り札は、海上自衛隊のイージス艦搭載迎撃ミサイル《SM3》と航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット《PAC3》の2段構え。シミュレーションは、次のシナリオで始まった

 《高度500キロの宇宙空間=洋上で迎撃するSM3が、北朝鮮の核ミサイルを撃ち漏らした。従って、大都市圏などに配備され、高度15キロで迎撃するPAC3が撃ち落とさなければならない最終局面を迎えた》

 SM3の撃ち漏らしは、おびただしい数のミサイルが一度に向かってくる《飽和攻撃》など複数考えられたが、いつもなら問題提起される課題は今次シミュレーションでは分析対象外となった。ともあれ、シミュレーションでは、より根源的課題でありながら「定説」を信じ切っていた危機管理上の甘さが、残酷なほど鋭利に突き付けられた。

 PAC3迎撃に成功すると、参加者は「皆」、安堵の表情を浮かべた。否。「皆」ではなかった。A氏が言った。

 「核爆発は起きないのか?」

 B氏が言い切った。

 「起きない」

 核弾頭の起爆装置は通常、幾重にも掛けられた安全装置でロックされ、迎撃の衝撃を受けても、装置の働きで核爆発が起きないとされている。それ故、B氏の答えは「定説」に沿っていた。

 A氏はたたみ掛けた。

 「核ミサイルの上空における迎撃の実証実験結果を掌握しているのか?」

 「部屋の空気が一瞬滞留した」のはこの時だった。核保有国はコンピューター・シミュレーションを実施しているに違いあるまいが、実証実験が公表されたケースは「皆無」だ。核ミサイル迎撃の実証実験は、行われれば各種監視機能で判明するので、実際上も「皆無」であろう。もっとも、事故による“実例”は存在する。

 A氏は軍事史に刻まれた事故による“実例”を話し始めた。

 《1980年9月18日/米アーカンソー州ダマスカス郊外/午後6時30分/第308戦略部隊が所在するミサイル発射基地・ミサイル格納施設》

 《2名の若い作業員が、核弾頭が装填された大陸間弾道ミサイル・タイタンIIの保守点検作業をしていた。内、発射口(=最上部)近くの1名が誤って手を滑らせて重さ3キロのレンチを落とした。レンチは発射サイロの中を加速して落下し、数メートル下のミサイル最下部=1段ロケットの燃料タンクにぶつかった。結果、タンクの表面に穴が開いた》

 《異臭と共に、サイロ内にミサイル燃料が漏れ出し、揮発しだした。燃料の燃焼力は極めて強く、超弩級の爆発も想定された》

 《ミサイル格納施設内の作業員4名は非常口から脱出した。午後9時までに、基地内の総員に退避命令が、午後10時には周辺住民の避難が始まった。が、指揮命令系統の乱れで、決死の覚悟で緊急出動した技術者らが事故現場=サイロ内に立ち入り、燃料濃度測定などを敢行したのは翌日未明に入ってだった》

 《技術者は、次の命令待ちの態勢にあった。と、午前3時、ついにサイロ内で燃料爆発が起こった。9メガトンという、当時の米国で最大級の威力を有す核弾頭が爆風で空高く吹き飛ばされ、30メートル離れた地上に落下した》

 《幸い、安全装置が作動して核爆発は免れた》

 話し終えたA氏は、最後にこう付け加えた。

 《安全装置の作動停止や、高電圧の熱電池が爆発した末に起爆する可能性を警告する米国人専門家は少なくない》

東京上空40~50キロで核爆発が起きたら…

 安全装置が作動しても、PAC3で迎撃する事態とは、地上に着弾するわずか5秒前で、副次的被害は避けようもない。地上15キロの上空で、超音速で落下してくる弾頭に直接ヒットするPAC3は重量320キロ。衝突後、100キロ超の破片と化して、数キロ~数十キロの範囲で、地上に迫る可能性も計測されている。 

 ただし、核ミサイルで大都市圏が直撃されなくとも、戦果は上がる。東京上空40~50キロで核爆発を起こせば、激烈な電磁波が発生する。《高高度電磁パルス攻撃》と呼ぶが、電磁波=衝撃波の影響で電子機器が瞬時に使用不能になり、航空機は墜落し、自衛隊・警察・消防の指揮命令系統も機能不全。携帯電話や防災無線などの情報通信やテレビ・ラジオもマヒし、被害情報把握も救援・復旧活動も困難になる。信号機も突如消え、交通事故や火災で死者を増やし、大パニックに陥る。

 

 核爆弾以外にも、北朝鮮は生物・化学剤を大量に保有する。韓国国防省の報告書(2009年)は、《マスタード・ガスやサリンなど5000トンもの青酸ガス・神経ガス系の化学兵器、天然痘/コレラ/黄熱病/チフス/赤痢など13種類もの細菌を秘蔵する世界最大の化学・生物兵器保有国の一つ。(種類によっては)ミサイルの弾頭への搭載可能技術を有する》と断じる。

 弾頭に化学剤を装填していれば、ガス状なら拡散するが、液状ならば飛散する懸念が残る。

 ところで、敵ミサイルの迎撃はラグビーのタックルと同様、はずされたら他のチームメートがフォローする。3層、4層と防衛網を多層化することで安全性は向上。かつ、ゴールラインよりできる限り遠方でのタックルで、一層安全性が担保される。

 そこで注目されているのが、弾道ミサイルなどを迎撃すべくイージス艦に搭載されているイージス(艦隊防空)システムの陸上バージョンである《イージス・アショア》。レーダーや迎撃ミサイルの垂直発射システム(VLS)など、イージス艦が備える各種機能が陸上で再現されるイメージを描けばよい。

 《C4ISR》も然り。C4ISRとは、指揮(Command)▽統制(Control)▽通信(Communication)▽コンピューター(Computer)の「4つのC」+情報(Intelligence)▽監視(Surveillance)▽偵察(Reconnaissance)の頭文字を並べた軍事用語。頭文字の機能全てが自動で流れるように連結・一体運用される能力もイージス艦と同じだ。

 イージス・アショアは、実戦的実験で素晴らしい成功を収めている。既に欧州では、イージス・アショアの整備が進行中だ。整備は、イランやロシアのミサイルを大きな脅威と考えるNATO(北大西洋条約機構)首脳会議で、加盟28カ国の総意として合意された《欧州ミサイル防衛構想》に基づく。特に、東欧のルーマニアやポーランドは積極的だ。トルコにも高性能レーダー基地が建設され、迎撃ミサイル発射基地など、システムの各機能をドイツに置かれた指揮・統制中枢で一体管理する。陸上型イージスのみならず、本来の海上型イージスも並行して準備され、米海軍やスペイン海軍のイージス艦が地中海やジブラルタル海峡でにらみを利かせ、防空上の縦深性に厚みをもたらしている。

米国に届く核ミサイル開発中止と核保有国認定の米朝取引という悪夢

 一方、現有のSM3(イージス艦搭載迎撃ミサイル)は《ブロック1A》だが、発展型のSM3《ブロック2A》を数年以内に運用する。ブロック2Aはブロック1Aに比べ射高・射程ともに2倍に延び、各1000キロと2000キロへと大進化を遂げる。射程2000キロが描く直径4000キロの円内に日本列島が収まる。故に、イージス艦1隻で日本を防御でき、2隻態勢なら防御確率はアップする。

 射高の高さも魅力だ。従来型では対処が難しかった、ミサイルを高く打ち上げて手前に落とす《ロフテッド弾道》を阻止できそうだ。グアムやハワイに向かう北朝鮮の中距離弾道ミサイルも、わが国が策源地となって阻むことも可能となり、日米同盟下での集団的自衛権行使の実効性も上がる。SM3ブロック2Aを搭載できる新造イージス艦の増隻や従来型イージス艦の改修が急がれる。

 しかも、SM3ブロック2Aはイージス・アショアに転用できる。現に、欧州のイージス・アショア計画はブロック2Aの採用が前提だ。つまり、イージス艦発射のSM3ブロック2Aで前述したごとく、「陸に上がったイージス艦」たるイージス・アショアも適所に1カ所存在すれば最低限、日本の対弾道ミサイル防衛が成る。2カ所あれば防御確率が上がる。

 わが国も前述のNATOにならい、イージス・アショアをはじめ、自衛隊&在日米軍の高性能レーダー+日本近海の海上自衛隊の改修・新造イージス艦&米海軍イージス艦が任務・迎撃分担を円滑に連携できれば、迎撃確率は100%へと近付く。

 海上と陸上のイージス・システムの構造はほぼ同じだが、運用上の相違はある。イージス艦は迎撃の最適海域まで燃料と日数を使い進出し、操艦や艦防護のための要員を長期に拘束する。その点、イージス・アショアは省人化に資するし、建造・運用費もイージス艦ほどではない。人員・予算不足の「自衛隊に優しい兵器」といえる。

 さらに、イージス・アショア+SM3ブロック2A+PAC3(地対空誘導弾)に続く4つ目の切り札が最新鋭高高度ミサイル防衛《THAAD=サード》システム。高度40~150キロ/半径200キロをカバーし、6~7基を導入すれば、わが国の防衛は飛躍的に向上する。ただ、1基あたり2000億円もする財政上の負担をクリアせねばならない。

 しかし、以上の防御態勢では、敵のミサイル攻撃を無力化する《拒否的抑止力》に止まる。現状と今後計画される防御態勢はろう城戦に等しく、いたずらに「矢弾が尽きる落城」を待つだけ。先述した副次的被害も全否定できぬ。

 対地巡航ミサイル&戦略爆撃機+それを支援する軍事衛星&情報機関&各種施設&各種特殊航空機…で、敵ミサイル基地などを先制・報復攻撃する《懲罰的抑止力》を保有する危機的情勢を迎えたのだ。懲罰的抑止力を保有しない国家的怠慢を「平和的」だと自賛している独善を改めるときだ。そもそも、抑止力は懲罰的と拒否的の2種類が相乗効果を発揮して、抑止力が最強化され、祖国を守るのである。ミサイル発射前の策源地攻撃を、あえて拒否的抑止力に分類する元航空自衛隊将官もおられるが、「発射の第1段階」ととらえれば正しい認識だ。

 実は、海上自衛隊のイージス艦の垂直発射システム(VLS)には対地巡航ミサイル《トマホーク》が装填できる。対地巡航ミサイルを装填すれば、海自イージス艦は拒否的抑止力に加え、懲罰的抑止力のプラットフォームも兼ねることになる。

 けれども、情勢の激変に目をつぶり、怠ってきた最強抑止力の構築が間に合うかどうか…。 現時点では米国本土に、北朝鮮の核・ミサイルは届かない。強烈な仲間意識を隠さない文在寅大統領が率いる韓国に対する発射は遠慮がちに。北朝鮮を民主国家との緩衝帯と位置付け、経済・エネルギー支援を陰日なたに差し伸べてくれる中国やロシアには核・ミサイルを撃ち込み難い。従って、関係国の内、日本のみが北朝鮮の攻撃に遭う厄難が突出して拡大した、ことになる。

 「米国第一主義」を掲げるドナルド・トランプ大統領は、日本を射程に収める核・ミサイルで武装する北朝鮮を核保有国と認める代わりに、米国本土に届く長距離弾道ミサイル(ICBM)を持たせない旨を取引(ディール)する恐れも観測されている。かくして、米国の安全は担保される。

 日米安全保障条約5条は次のごとく記す。

 《日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する》

 北朝鮮の核・ミサイル攻撃を米国だけが回避でき、在日米軍も後方に下がり、《自国の平和及び安全を危うくする》と米側が認定しない場合、日米安保条約の発動要件は弱まる。北朝鮮が《共通の危険》ではなくなる日米関係が生起するのなら、わが国は独力で北朝鮮と戦わなければならぬ。

 「現実離れ」のシナリオと批判するのは勝手だが、現実離れした憲法の下、現実離れした安全保障論議に自己陶酔し続けるサヨクには言われたくない。