【主張】保護法改正 幅広く文化財を守りたい
政府が通常国会で文化財保護法改正案の提出を目指している。演劇や音楽などの無形文化財と、祭礼などの無形民俗文化財に新たに登録制度を設け幅広く保護の網をかけるのがねらいだ。
演劇や地域の祭りは新型コロナウイルス感染拡大の影響を色濃く受けてきた。少子高齢化や人口減少で担い手が減るなか、ともすれば消えやすい無形の文化や生活文化を未来につなぐ支援となるよう期待したい。
国の文化財保護制度には、規制が厳しい一方で手厚い保護が受けられる「指定制度」と、届け出制を基本に緩やかな保護措置を講じる「登録制度」がある。
登録制度は平成8年、指定制度を補完するかたちで、主に近代などの文化財建造物を後世に継承しようと設けられた。有形文化財でいえば、指定制度に基づくのが国宝・重要文化財で、登録制度によるのが登録有形文化財だ。
登録は、文化財というお墨付きを得る一方で現状変更も届け出だけで済み、観光資源などとして活用しやすいといったメリットがある。ところが“無形”にはその登録制度がなかった。
こうした動きの背景にあるのはコロナ禍で祭りや公演の中止・延期が相次いだことだ。今後の保存や存続が危ぶまれるものも少なくなく、より基準が緩やかな登録制度で保護の対象を広げる必要性が議論されていた。実際、登録されても大きな資金助成は期待できないが、文化財になることは保存維持への動機付けにつながる。地域や担い手が誇りをもって活動に取り組む原動力にもなるだろう。
さらには、茶道や華道、書道のほか郷土料理、日本酒醸造なども対象に想定されるという。現代アートやファッションなどについても、今後はその文化的価値の見極めが重要だ。
生活文化は消滅しやすい。例えば町家や和室がなくなると、床の間もそれを飾る文化や技も失われる。実のところ建造物だけを守っても、その中で営まれる生活文化が消えてしまっては、魂のない器だけが残ることになる。文化は人とともにあるものだ。
昭和25年に文化財保護法が制定され、その間、名勝や景観なども組み入れ枠を広げてきた。時代の変化を見極めつついち早く保護のしくみを整えることが文化を守る砦(とりで)となる。