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【産経抄】天守閣はいらない 9月30日

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【産経抄】
天守閣はいらない 9月30日

 東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に向けて、江戸城天守閣の再建をめざす動きがある。ロンドンのバッキンガム宮殿、パリの凱旋門のような、その国の歴史と文化を発信するモニュメントが、東京にも必要だというのだ。

 ▼そもそも、なぜ天守閣がないのか。明暦3(1657)年1月、江戸の大半が焦土と化した「明暦の大火」によって焼失した。大火の直後から、幕閣の間で再建を望む声が上がるなか、会津藩主の保科正之は、一貫して先送りを主張した。

 ▼正之の意見が通らなかったら、江戸の再建は遅れ、幕府は財政難に苦しんでいただろう。喜ぶのは、木材価格の値上がりによって巨利をむさぼる材木商くらいのものだ。

 ▼東京五輪の開催費用が3兆円を超える可能性がある。東京都の調査チームが、驚くべき試算を公表した。すでに設計段階に入ったカヌー会場など3施設の建築費は、五輪招致時に比べて2~7倍にも高騰している。小池百合子東京都知事が、抜本的な見直しを検討するのは当然である。

 ▼都や五輪の組織委員会にとって都合の悪い情報は、なかなか表に出てこない。新国立競技場や築地市場の豊洲移転をめぐる問題も同様である。作家の中村彰彦さんによると、正之は実は、「情報公開」にも熱心だった。大火によって、徳川家代々の重宝も失われてしまった。正之は、内密にしようとする閣老を「その儀には及ばぬ」と一喝した。宝物が今も存在するように繕えば、後になって誰かが罪に問われる事態を恐れたらしい。

 ▼東京都と五輪を大混乱に陥れたのは一体誰なのか、犯人捜しをしても無駄であろう。都庁と組織委員会は、正之のような識見のあるリーダーに恵まれなかった。その一点に尽きる。

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