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【金曜討論】「首長の多選」 松沢成文氏、石坂わたる氏

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【金曜討論】
「首長の多選」 松沢成文氏、石坂わたる氏

石坂わたる氏

 地方自治体で首長の多選自粛を掲げた条例を改正する動きが相次いでいる。徳島県阿南市では現職市長の任期を3期までとする多選自粛条例の廃止案を6月議会で可決した。東京都中野区では3月に、自治基本条例にある区長4選自粛を定めた条文が削除され、現職区長が6月に4選を果たした。首長の多選は制限すべきか。神奈川県知事時代に多選禁止条例を制定した松沢成文氏と、中野区議会で条文削除の際に賛成討論をした石坂わたる氏に見解を聞いた。(溝上健良)

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 ≪松沢成文氏≫

 ■権力の集中に対策必要

 --20年以上前から多選禁止条例の必要性を訴えている

 「神奈川県議をしていたころ、多選の問題点に気づかされた。当時は長洲一二(かずじ)知事の時代だったが、県議会が共産党以外はオール与党状態で、行政をチェックすべき議会が応援団になってしまっていた。それで長洲氏が5期目の立候補をするときに反対の論陣を張って以来の持論だ。長期政権で実績を残す首長もいるとは思うが、総じて権力は腐敗し、住民が不幸をこうむる。ルールとして多選は制限すべきだ」

 --多選の何が問題か

 「議員は自分の選挙区に予算を付けてもらうため首長と仲良くなろうとするし、首長は人事権を握っているので長期政権になると周囲がイエスマンばかりになり、行政はマンネリ化して若い職員がやる気をなくしていく。許認可や補助金の関係で首長と外部利益団体との癒着が始まると、利益をたらい回しにする総談合体制ができ上がり、知事は楽々当選できる。そして県政が県民から離れていってしまう」

 --多選は何期までに限るべきか

 「『権不(けんぷ)十年』という言葉があるように、10年くらいを境に権力はおかしくなっていく傾向がある。2期8年では大きな政策が実現しきれないという面はあり、3期12年が許容範囲かと思う。多選の弊害は4~5期目で出てくる、との声をよく聞く。私も知事を2期やってみて、このまま5期6期もやれば完全に“天狗(てんぐ)”になってしまう、という感覚があった」

 --憲法上、多選禁止条例の制定には問題があるともいわれる

 「米国や韓国にも多選禁止の規定があるが『民主政治を守るために必要な規制だ』として自由権には抵触しないとされている。日本でも総務省の検討会で、憲法上は問題ないとされた。公職選挙法や地方自治法といった法律上の根拠はないが、神奈川県では法的に問題はないとして条例を制定した」

 --多選禁止は法律でなく、条例で定めるべきなのか

 「地方政治のルールを国が画一的に決めるのは中央集権の発想で問題だ。条例は地方自治体ごとに作るべきで、特に都道府県ではなるべく策定すべきだろう。国には多選禁止条例を作っていい、という法的整備をしてほしい」

 --東京都中野区などの多選自粛の条例を撤回する動きをどうみる

 「公約をほごにする行為で、住民との約束は何だったのかと思う。地方の首長は米国の大統領制に近く、1人に権力が集中するだけに、任期に制限をつけることで腐敗を防げるし、そうでないと独裁者が出てくる恐れもある。全国の10を超える自治体で制定された多選自粛条例は重要な一歩だが、やはり多選禁止条例が必要で、今後の地方政治の大きなポイントだといえる」

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 ≪石坂わたる氏≫

 ■有権者の判断に任せて

 --多選禁止・自粛条例について

 「首長の多選の是非については有権者の判断に任せるべきで、あらかじめ多選を禁じるような制度をお膳立てしておく必要はないと感じている。条例で定めるようなものではない。憲法上、立候補の自由は最高裁の判例で認められており、極端な例だが前科がある人でも公民権が回復すれば立候補は可能だ。憲法が保障している被選挙権を条例で制約していいのだろうか」

 --米国、韓国などでは憲法で大統領の多選が禁止されている

 「国民全体の同意を得て多選に一定の制約をかけることは可能かと思う。もし多選禁止条例の制定を自治体に任せるのなら、憲法でそれが可能だと規定しておくことが望ましいし、あるいは地方自治法などの法律できちんと定めておくべきだ」

 --中野区は平成17年に区長の4選自粛条項を含む条例を作った

 「多選を制限した条例を制定したことには問題があった。立候補する際に『私は多選は望ましくないと思う』と意思表示することはあってもいいが、制度として制限すべきではない。立候補の自由という現にある権利を放棄するとの公約は、望ましいことではないと考える」

 --4選出馬に先立ち、多選自粛条項の廃止を求めた現区長の判断は

 「私自身は条例改正に賛成だったが、区長部局からの条例改正の提案は唐突な印象があった。条例はあくまでも努力規定であり、改正などせずにそのまま立候補すればよかった。選挙後に改めて条例のあり方を議論する方法があったのではないか」

 --一般的に首長の多選は問題か

 「それは善しあしがあるだろう。新しい首長が選ばれれば新しいアイデアが出てくるし、多選の首長であればずっと同じ方向性の政策が続くということはある。一方で『首長は3期目でやっと自分のやりたいことができる』との声があるように、職員との関係を築いてリーダーシップを発揮するのは期数を重ねた首長のほうがやりやすい部分はあるはずだ。多選を制限するよりも、首長による自治体運営の実情を有権者に詳しく示すことが重要だろう」

 --自治体の広報誌では首長の動向も載るが、基本的にいい情報ばかりで選挙の際、現職有利になりがちだ

 「国レベルでは、マスメディアが政権与党の問題点を検証したり糾弾したりしている。市区町村の情報についても、市民レベルのミニコミなどがもっと情報を発信していく必要があると思う。有権者が判断するのに必要な情報が、現時点では少なすぎると感じる。住民側の知る努力も必要で、単に多選だからというのでなく、首長の実績を判断して有権者が自らの意思で投票することが重要だ」

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【プロフィル】松沢成文

 まつざわ・しげふみ 昭和33年、神奈川県生まれ。56歳。慶応大法学部卒。神奈川県議を経て衆院議員を3期、神奈川県知事を2期8年務め、昨年から参院議員。著書に「甦れ! 江戸城天守閣」など。

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【プロフィル】石坂わたる

 いしざか・わたる 昭和51年、東京都生まれ。37歳。立教大大学院博士前期課程修了。養護学校教諭、中野区任期付職員などを経て、平成23年から中野区議。共著に「議会はあなたを待っている」など。

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