産経ニュース

【正論】日本大学教授・百地章 「憲法改正」託せる人物を選ぼう

ニュース 政治

記事詳細

更新

【正論】
日本大学教授・百地章 「憲法改正」託せる人物を選ぼう

 参議院選挙の投票日まで、残すところわずかとなった。当初、国政選挙における初めての本格的な改憲論議を期待していたが、残念ながらさして盛り上がらないまま終盤に入ったようだ。そこで改めて、改憲論議の現状と今後の課題に触れてみたい。

 ≪先行改正慎重論に反論続々≫

 4月11、5月28両日付本欄で憲法96条改正反対論への様々な疑問や批判を述べ、『正論』8月号でも詳細な反論(「憲法を国民の手に 96条改正はその第一歩」)を加えたが、その後、96条改正反対論に有力な反論が現れた。

 一つは、京都大学の大石眞教授によるものである。教授は「96条改正は立憲主義の破壊」という批判について、「96条を見直すとどうして立憲主義が破壊されてしまうのか、その理屈がよくわからない」「憲法改正は政治の一つの仕組みに過ぎない。仕組みが存在しているのに動かしてはいけないという主張はおかしい」と反論、96条の見直しは「クーデターだ」「裏口入学だ」といった批判を、「レッテル貼りに近い」としている(7月2日付読売新聞)。

 また、北岡伸一東大名誉教授も「96条改正反対論の中には、憲法の個々の条項ではなく、手続きを先に変えるのはルール違反だという人がある。しかし、現行のルールはGHQが日本に押しつけたものであるから、この批判はナンセンスである」と一蹴している(7月1日付日本経済新聞)。

 さらに、96条改正反対の急先鋒(せんぽう)で、「絶対ダメだよ。邪道」「縛られた当事者が『やりたいことができないから』と改正ルールの緩和を言い出すなんて本末転倒、憲法の本質を無視した暴挙だよ。近代国家の否定だ」(4月9日付毎日新聞)と述べていた小林節慶応大学教授も、筆者との対談では、「9条などの改憲がなされた後なら、96条の改正をしてもいいと思います」と発言しておられる(別冊宝島『憲法大論争』)。

 ≪優先すべきテーマ絞り込め≫

 96条改正は、連合国軍総司令部(GHQ)により課せられた拘束から日本人を解放し、憲法を国会から主権者国民自身の手に取り戻すという、独自の意義を有する。それゆえ、96条の先行改正について決して姑息(こそく)などといった批判は当たらないことは、以上からも明らかであろう。ただ、96条改正後に何を変えるのか、具体的に明確な方向を示さないまま先行改正を行うことに対し疑問や批判が提起されているのも事実である。

 であれば、この際、96条と同時に、改正の中身についても優先テーマを絞ったうえで、具体的な目標をはっきりと提示していくべきではなかろうか。というのは、憲法改正の発議は、「内容において関連する事項ごとに区分して行う」ことになっており(国会法68条の3)、現実問題として全面改正は不可能だからである。

 優先テーマを決定する際の基準は、まず国家的な重要課題であることと、何よりも緊急性を要すること、になると思われる。とすれば、一刻を争うテーマとして真っ先にあげられるべきは、緊急事態対処規定と9条2項の改正による「軍隊の保持」であろう。

 ≪緊急事態対処規定と9条2項≫

 昨年7月19日に、国の中央防災会議の作業部会が、「首都直下型地震は国家の存亡にかかわるものであり、その対策は喫緊の課題である」旨の中間報告を発表した。「国家の存亡にかかわる」という警告は尋常ではない。しかも、京都大学の藤井聡教授(内閣官房参与)によれば、「首都直下型地震は、8年以内に間違いなく起きるだろう」という。だとすれば、速やかに憲法に緊急事態対処規定を盛り込む必要がある。これなら、大方の国民の賛成を得ることも決して困難ではないだろう。

 もう一つの9条2項の改正だが、新聞やテレビのほとんどの世論調査では、「9条の改正」に賛成か反対かを尋ねており、「9条1項の平和主義は維持したうえで2項を改正し軍隊を保持すること」の是非を聞こうとはしない。なぜこれを問わないのか。

 また、9条改正の目的は、自衛隊が対外的には「軍隊」とされながら、国内的には「軍隊」ではないとされている矛盾を解消するためであること、さらに現在の自衛隊が法制度上は「警察」組織にすぎず、「軍隊」にしなければ「武力攻撃」に至らない武装ゲリラなどによる領土・領海の侵犯に有効に対処できないことなど実例を挙げて、なぜ軍隊としなければならないかを分かりやすく説明していくべきである。そうすれば、中国や北朝鮮などによる軍事的脅威を前に、常識ある国民は必ずや耳を傾けてくれるはずである。

 参議院議員の任期は6年であるから、今回選出される議員の任期中に、憲法改正の発議がなされる可能性は高いと思われる。したがって、その時、参議院に憲法改正に通じた人材が確保できているかどうかは、国の命運にかかわる。候補者の政見にじっくり耳を傾けて、真に憲法改正を託すに足る人物かどうか、よくよく吟味したうえでの投票を期待したい。(ももち あきら)

「ニュース」のランキング