東方経済フォーラム 安倍晋三首相演説全文「対立の原因なした島々は日露協力の象徴へ」 - 産経ニュース

東方経済フォーラム 安倍晋三首相演説全文「対立の原因なした島々は日露協力の象徴へ」

 ロシアの極東ウラジオストクを訪問中の安倍晋三首相は12日午後(日本時間同)、ロシア政府主催の「第4回東方経済フォーラム」に出席し、「極東・可能性の幅を広げる」と題し、演説した。全文は以下の通り。
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 ウラジーミル・プーチン大統領、そして(中国の)習近平国家主席、(モンゴルの)ハルトマー・バトトルガ大統領、(韓国の)李洛淵(イナギョン)首相、お会いできてうれしく思います。私たちを当地に招待してくれたプーチン大統領に、まずは感謝を申し上げます。
 お三方の話は、時として気宇壮大、さまざま、想念を刺激するものでした。感銘を受けると同時に、日本とはいかなる国か、アイデンティティーについての思いにいざなわれました。
 私の念頭に浮かびますのは、「ドット・コネクター」という言葉です。
 接続のない地点、繋がりのないヒト、モノ、資金。それら点と点を、日本は結び、それによって付加価値を作ります。
 時として、例えばヤマル半島とカムチャツカ。平面上の2地点かもしれません。
 またあるいは、三次元空間にある人工衛星と、シベリアの誰かの家かもしれません。実現するのはそれぞれ、LNG(液化天然ガス)の、あるいはインターネットの接続性です。
 ユーラシア大陸のランドスケープで、日本が位置するインド・太平洋のシースケープで、誰もが属すアウター・スペースやサイバー・スペースでも、新たな接続がまた新たなコネクションを生むという、コネクティビティの進化が起きています。繋がることで付加価値が生まれる時代に、私たちは生きている。
 私は日本の今後に、偉大なるドット・コネクターとしての役割を望みます。公明正大なルールのもと、交わらない点を交わらせ、繋がらなかった「知」と「知」をつなぐ役割です。
 プーチン大統領だからこそ、日本とロシアは協同することで、偉大な相乗効果を望めるのです。そのことを私はこのスピーチの後半で強調いたします。
 ■改元、G20、東京五輪
 ここから私は、いただいた時間の前半を、「未来」の話に当てようと考えています。未来の話「だけ」に関心を絞ります。
 来年、皆さまが日本に見るものは、皇位の継承であります。プーチン大統領や、習近平国家主席をお招きする、大阪G20サミットの開催であります。
 夏が終わると、ラグビー・ワールドカップ(W杯)が始まります。9月20日、東京スタジアムでの開幕第1試合で、ホスト国日本が戦う相手を、ご記憶ください。ロシアです。互いの健闘を祈りましょう。
 その先、2020年は東京オリンピック・パラリンピックの年。世界中の若者が東京に集まり、スポーツと、平和の祭典を繰り広げます。
 壇上の指導者の皆さん、会場の聴衆の皆さん、日本はいま、歴史の大きな転換点に立っています。
 その歴史的転換点にあって、私は、21世紀の東アジアにおける、平和と繁栄の礎を築きたい。そう決意しています。
 ■日中関係
 まずは、日中関係です。
 私は、第一次政権で首相に就任した直後に中国を訪問し、「戦略的互恵関係」の考え方を打ち出しました。中国の『人民日報』はこの訪問を「氷を砕く旅」と呼びました。
 しかし、再び首相となって第二次政権を始めた際、日中関係は、戦後最悪ともいえる困難な状況にありました。
 私は、何とか日中関係を改善したいと考え、努力をしてきました。なぜなら、日中両国はこの地域と世界の平和と繁栄に、大きな責任を共有しているからです。
 アジアの諸国も、日中両国が、友好関係を安定的に発展させていくことを期待しています。その期待に応え、あらゆる分野で協力関係を発展させ、地域や世界の平和と繁栄に貢献していきたい。私の信念です。
 昨年11月、(ベトナム・)ダナンでのAPEC(アジア太平洋経済協力首脳会議)での、習近平国家主席との会談は、日中関係の「新たなスタート」となる、良い機会となりました。
 本年5月、中国の首相として8年ぶりに来日された李克強(リコッキョウ)首相は、日中関係は、正常な軌道に戻ったと言われました。私も、全く同感です。
 先ほどは、習国家主席と、日中関係やわれわれが共に直面するさまざまな課題について、大変有意義な会談を行うことができました。
 中国のお招きを受け、日中平和友好条約締結40周年という記念すべき年である本年中に中国を訪問したいと考えています。
 その後は、習主席をぜひ日本にお招きしたい。首脳同士の相互訪問を通じて、日中関係を新たな段階に引き上げていきたい。私の決意であります。
 ■北朝鮮問題
 21世紀における、この地域の平和と繁栄を確固たるものとするために、北朝鮮の問題を避けて通ることはできません。
 6月、シンガポールで、歴史的な米朝首脳会談が行われました。私はこの会談を、拉致・核・ミサイルの問題解決に向けた前向きな一歩として、支持します。
 トランプ米大統領は(北朝鮮の)金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との相互信頼を醸成しながら、非核化の先の明るい未来を共有し、相手の行動を促すという、誰も試みたことのない新しいアプローチを採りました。
 トランプ米大統領の英断によって、北朝鮮と国際社会との関係が大きく動こうとしています。北朝鮮は、このチャンスをぜひともつかんでいただきたい。
 私は思うのですが、北朝鮮くらい、「未来」を「希望」に変えるポテンシャルに恵まれた国はありません。銅や金、鉄鉱石や豊富なミネラル資源が、北朝鮮にはあります。2500万人の人口は、世界有数の勤勉な労働力となるに違いありません。
 今日、ここに集まったわれわれは皆、北朝鮮が希望に満ちた未来を歩んでいけるよう、北朝鮮に対し、一つの声で語り続けていくことを誓おうではありませんか。ぶれない態度で接していくことを、確かめあおうではありませんか。
 そのためになすべきこと。朝鮮半島の完全な非核化を、何としても実現させなければなりません。この点について、私も、プーチン大統領も、習国家主席も、完全に一致しています。近く平壌で開催される南北首脳会談が、朝鮮半島の非核化に向けた、具体的な行動につながることを期待しています。
 日本と北朝鮮との間には、拉致問題が横たわっている。これも解決しなければならない。その中で、北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化に向けて歩みだす決意を私は持っています。
 私も相互不信という殻を破り、一歩踏み出し、最後は、金委員長と向き合わなければならない。現在、日朝首脳会談について決まっていることは何もありませんが、これを行う以上、拉致問題の解決に資する会談としなければならない。そう決意しています。
 北東アジア地域の永遠なる平和と繁栄に向けて大切なことは、ここにいる私たち5人を含め、地域の指導者たちが、同じ方向を向いて歩んでいくことです。私はそのための努力を惜しみません。ここにお約束いたします。
 ■日露関係
 そして、日露関係です。
日本にとって、21世紀におけるこの地域の平和と繁栄の礎を築くにあたり、日露関係は無限の可能性を秘めています。
 日露の間には、戦後70年以上の長きにわたり、平和条約が締結されていません。これは異常な状態であるとする思いにおいて、私とプーチン大統領は一致しています。
 2016(平成28)年12月、プーチン大統領を私の故郷、(山口県)長門(市)にお迎えし、二人で日露関係の将来についてじっくりと話し合い、北方四島において共同経済活動を行うための特別な制度に関する協議の開始、元島民の方々による自由な墓参の実現について約束しました。そして、長門の地で平和条約問題の解決に向けた真摯(しんし)な決意を共有しました。
 聴衆の皆さん、この長門での約束は、着実に実施されつつあります。
 日露関係は今、かつてない加速度で前進し始めています。プーチン大統領と私が約束した両国協力のプランは、150以上に上ります。うち半数以上がもう現実に動いているか、いままさに動こうとしています。
 お見せするビデオがそこを雄弁に教えてくれます。
 《2016年5月、ロシア・ソチでの日露首脳会談で安倍首相が提示した8項目の日露経済協力プランに関する映像が数分間、会場のスクリーンに上映される。上映終了後、会場から大きな拍手が起きる》
 いかがでしょう。一本貫く、太い流れをお感じいただけましたでしょうか。8項目の協力プランの実現を通じて、ロシア住民の生活の質の向上が、皆さまにも実感できるようになるのではないでしょうか。
 ロシアと日本は、いま、ロシアの人々に向かって、ひいては世界に対して、確かな証拠を示しつつあります。
 ロシアと日本が力を合わせるとき、ロシアの人々は、健康になるのだというエビデンス(証拠)です。ロシアの都市は快適になります。ロシアの中小企業はぐっと効率を良くします。
 ロシアの地下資源は日本との協力によって、なお一層、効率よく世界市場に届きます。
 ここウラジオストクをはじめ、極東各地は、日露の協力によって、ヒト、モノ、資金が集まるゲートウエイになります。
 「デジタル・ロシア」の夢は、なお一層、早く果実を結ぶという、そんな証拠の数々を、いままさに、日本とロシアは生み出しつつあります。
 日本とロシアには、ほかの二国間にめったにない可能性があるというのに、その十二分な開花を阻む障害が、依然として残存しています。それこそは皆さん、繰り返します、両国が、いまだに平和条約締結に至っていないという事実にほかなりません。
 今年の5月25日のことでした。場所は(ロシアの)サンクトペテルブルクの国際経済フォーラムです。「想像してみましょう」と私は聴衆を促しました。
 日本とロシアに永続的な安定が生まれたあかつき、一帯はどうなるか。希望とともに想像してほしいと呼びかけました。
 そのあかつき、私たちは、北半球と東半球の一角に、平和の柱を打ち立てている。それは頼もしくも、地域と世界を支える太い柱となっているはずなのであります。
 北極海からベーリング海、北太平洋、日本海は、平和と繁栄の海の幹線道路になることだろう。
 対立の原因をなした島々は物流の拠点として明るい可能性を見いだし、日露協力の象徴へと転化するだろうし、日本海も恐らく物流のハイウェイとして一変しているだろう。
 そしてその先には、中国、韓国、モンゴル、そしてインド・太平洋の国へとつながる、大きくて、自由で公正なルールに支配された、平和と繁栄、ダイナミズムに満ちた地域が登場するであろう。
 プーチン大統領、もう一度、ここで、たくさんの聴衆を証人として、私たちの意思を確かめあおうではありませんか。
 「今やらないで、いつやるのか」「われわれがやらないで、他の誰がやるのか」と問いながら、歩んでいきましょう。
 容易でないことは互いに知り尽くしています。しかし、われわれには未来の世代に対する責任がある。北東アジアから一切の戦後的光景を一掃し、未来を、真に希望に満ちたものへと変えていく責任が、私たちにはあります。
 会場の皆さん、われわれの子どもたちを、われわれの世代を悩ませたと同じ日露関係の膠着(こうちゃく)でこれ以上、延々と悩ませてはなりません。
 いまビデオでごらんになったいくつもの達成は、両国がその気になれば成し遂げられる偉大な事業の、ほんの「予告編」のようなものです。私たちがもつ可能性を、もっと全面的に花開かせましょう。
 プーチン大統領と私は、今度で会うのが22回目となりました。これからも、機会をとらえて、幾度となく会談を続けていきます。平和条約締結に向かう私たちの歩みを、どうかご支援をください。力強い拍手を、聴衆の皆さんに求めたいと思います。
 《会場から大きな拍手》
 ■一身をなげうつ覚悟
 2020年、東京はオリンピックとパラリンピックで姿を一新します。自動運転のクルマは地上を走るだけでなく、飛翔体に姿を変えて、空飛ぶクルマになっているかもしれません。
 新しい時代が、日本の新しい世代によって、世界中から訪れる人たちによって、いま日本で幕を開けようとしています。
 ロシアの若者に、私は声を大にして訴えます。日本に来て、暮らして、学んで働いて、新しい日本を、日本人と一緒にこしらえてください。
 未来とは、希望である。そう心から確信できる若者を育てることこそは、国を率いる者すべてにとって最も重い責務です。
 私は、日本に生まれようとしている若い世代が、ロシア、中国、韓国、モンゴルの若者たちと手をたずさえ、アジアと世界に一層の平和と繁栄をもたらし、やがて真に希望に満ちた時代を生む原動力となってほしい。そう期待しない日とて、一日もありません。この先も、一身をなげうって、働く覚悟です。
 またお会いしましょう。ありがとうございました。
 (ウラジオストク 小川真由美)