【沖縄取材の現場から】基地問題だけではない沖縄知事選 「子供」が結果を左右する理由とは - 産経ニュース

【沖縄取材の現場から】基地問題だけではない沖縄知事選 「子供」が結果を左右する理由とは

沖縄県知事選の討論会を前に握手する前宜野湾市長の佐喜真淳氏(左)と自由党幹事長の玉城デニー氏=5日午後、南風原町
沖縄県知事選に向け、支援者との会談を終えた玉城デニー氏(左)と自由党の小沢一郎代表=8月24日、那覇市
沖縄県知事選を前に記者会見で公約を発表する佐喜真淳氏=3日、那覇市
米軍普天間飛行場の移設工事が進む沖縄県名護市辺野古の沿岸部=8月18日(小型無人機から)
 沖縄県知事選が13日に告示される。何かと注目を集めるのが、宜野湾(ぎのわん)市の米軍普天間飛行場を名護市辺野古に移設する計画の是非だ。8月に死去した翁長雄志(おなが・たけし)知事の支持母体「オール沖縄」の支援を受ける玉城(たまき)デニー衆院議員(58)は辺野古移設を公約に掲げる。自民、公明、日本維新の会、希望の党の推薦を受ける佐喜真淳(さきま・あつし)前宜野湾市長(54)は辺野古移設への賛否を明言していないものの、普天間飛行場の危険性除去を最重要課題と位置づける。だが、知事選の結果を左右するのは基地問題だけではない。
待機児童ワースト
 5日夜、南風原(はえばる)町内で開かれた討論会に玉城、佐喜真両氏が出席した。事前の予想通り、最も盛り上がったのは辺野古移設の是非をめぐる論戦だった。客席からのやじは事前に禁止されていたが、佐喜真氏に罵声を浴びせる一団もいた。
 とはいえ、2人の討論が基地問題だけに終始したわけではない。佐喜真氏が「暮らしを最重要視する。それを底上げするために任期を全うしていきたい」と強調すると、辺野古移設を「最大の争点」と主張する玉城氏も「やっぱり県知事の仕事だから経済、雇用、福祉、教育、子育て、さまざまな論点がある」と認めざるを得なかった。
 「暮らし」に力点を置く佐喜真氏が選挙公約の目玉とするのが子育て政策で、保育、給食費、医療費の無償化を掲げる。玉城氏も10日に発表した政策集で「子供の貧困対策を最重要政策に掲げて取り組みます」とし、翁長氏が進めた「子どもの貧困対策計画」の実施や保育料の無料化といった子育て政策を並べた。
 沖縄県の待機児童数は今年4月時点で1870人と都道府県別で3番目に多く、人口あたりではワースト1位だ。子供の貧困率は29・9%(28年)で、全国平均の13・9%(27年)を大きく上回る。合計特殊出生率は1・95(28年)で全国で1位を記録し続けている沖縄県だが、子育て環境は良好と言い難い。だが、子育て政策が重要なのはそれだけが理由ではない。
 「沖縄の女性は家族の稼ぎ頭の人が多い。だから選挙活動でも男の言うことを聞かない。後援会の婦人部を作っていれば、それで大丈夫というわけにはいかない」
 全国の選挙に精通したある陣営の関係者はこう語る。だから「沖縄の選挙は本土の選挙よりも女性が大事だ。子育て政策が大事になる。それを忘れては選挙に勝てない」(陣営関係者)ということになる。
 厚生労働省の都道府県別の人口動態統計によると、沖縄県の離婚率は最新調査の28年まで14年連続全国1位で、母子世帯の割合も全国平均より高い。それだけに教育環境の整備は基地問題よりも切実な問題となりうる。佐喜真氏が国からの財政支援を財源とした「無償化3点セット」、玉城氏が子供の貧困対策を目玉とするのは、こうした事情もある。
お盆が大事
 選挙戦をスタートさせるタイミングも、知事選に影響を及ぼすと受け止められている。
 「遅くとも8月22日までには決めたい。23日からお盆でしょ。ウチナンチュにとってお盆は大事だから」
 玉城氏の名前が翁長氏後継として急浮上した直後、陣営関係者はこう述べていた。沖縄県では旧盆(旧暦の7月13~15日)の際に親族が県内各地に集まる。今年は8月23~25日で、玉城氏の陣営はこのときまでに出馬を表明して選挙戦をスタートさせる考えだった。
 なぜお盆までに選挙戦を始めなければならないのか。自民党県連関係者は「沖縄の選挙では郷友会が大事な役割を果たす。郷友会が集まるのは選挙まではお盆しかない。この機会に候補者をアピールすることが大事になる」と解説する。
 郷友会とは、郷土を同じくする移住者がつくる互助組織で、ある研究によると沖縄県内だけでも181の組織があるという。若者の「郷友会離れ」を指摘する声もあるが、自民党県連関係者は「それでも郷友会を無視することはできない。浮動票が多いとされる大都市部でも、石垣島や宮古島の郷友会が集票組織として機能する」と語る。同じ島の郷友会でも「こっちは保守系、あっちは革新系」などと色分けもされている。
 このため、玉城氏にとってはお盆の前に出馬表明して票固めに臨む必要があったというわけだ。しかし、これに待ったをかけたのが、玉城氏が幹事長を務める自由党の小沢一郎代表(76)だった。小沢氏は玉城氏に「日程を気にせずに、じっくり決めた方がいい」と述べ、野党各党の党首からの支持取り付けを優勢するよう求めた。結局、玉城氏は2度にわたり出馬表明を延期した。
 玉城氏が正式に立候補を表明したのはお盆も過ぎた8月29日で、沖縄の選挙事情を中央の小沢氏が無視した形となった。「オール沖縄」の幹部県議は玉城氏が出馬表明した29日、記者団に「もう小沢さんがひっかき回すことはないだろう」と疲れた表情を浮かべた。
 選挙戦序盤の各種情勢調査では、玉城氏が佐喜真氏を大きく引き離している。とはいえ、今年2月の名護市長選では、トリプルスコアで劣勢だった自民党系候補が大逆転を果たした例もある。子育て政策や選挙戦の出遅れがどのように結果に響くか。その結果が判明するのは、投開票が行われる9月30日だ。 (那覇支局長 杉本康士)