安倍首相…圧勝へ党員票照準 石破元幹事長…「空中戦」制限に焦り

自民党総裁選
所見発表演説会を終えた石破茂元幹事長 左は安倍晋三首相=10日午前、東京都千代田区・自民党本部(納冨康撮影)

 自民党総裁選(20日投開票)の論戦が10日、本格的にスタートした。安倍晋三首相(党総裁)は景気回復に伴う経済指標の好転など5年8カ月間の政権運営の実績を挙げ、石破茂元幹事長との「格の違い」をアピール。対する石破氏は首相への個人攻撃を控えつつ、憲法改正や地方創生の在り方をめぐり首相との違いを鮮明にした。双方とも党員・党友票を少しでも多く集めるための戦略がにじむ。

 安倍陣営、電話作戦を本格化

 「さまざまな批判を真摯(しんし)に受けとめながら、自らを省みて、改めるべき点はしっかりと改め、謙虚に丁寧に政権運営を行っていきたい」

 首相は党本部で開かれた所見発表演説会の冒頭、森友・加計学園問題を念頭にこう述べると、その後も一切笑顔を見せなかった。

 ひたすら低姿勢に徹し、政権に返り咲いてからの約5年8カ月で、国内総生産(GDP)や有効求人倍率など経済指標が劇的に改善したことを、数値を交えながら訴えた。

 ただ、首相がこだわる憲法改正では、石破氏と立場の違いを鮮明にさせた。石破氏は自衛隊員に国際法上の権益を確実に享受させるため戦力不保持と交戦権の否定をうたう9条2項を削除し、自衛隊を軍隊と位置づけるよう求めている。

 「この機会に政府の立場で反論したい」。首相はそう切り出し、日本が戦争や戦闘のやり方を規定したハーグ陸戦条約や軍人の捕虜の扱いを定めたジュネーブ条約に加盟していることを説明。「(自衛隊は)外国からみれば軍隊であることは明確で、両条約上のさまざまな権利は行使できる」と述べた。

 首相は投票資格を持つ国会議員の9割近くの支持を固める勢いで、連続3期目の政権運営を盤石にするため「完膚なきまでの圧勝」(陣営幹部)を目指し、党員票の上積みを狙う。首相を支持する党内5派閥の所属議員らは、北海道地震に伴う選挙運動の自粛期間が終わったことを受け、手分けして党員に投票を依頼する電話作戦を本格化させた。10日に発送された党員向け投票用紙の多くは数日以内で返送されるからだ。

 安倍選対の甘利明事務総長は10日、平成24年の総裁選で石破氏が党員票300票のうち165票(55%)を得たことを踏まえ、「党員票で圧勝という評価があった石破氏の24年の得票率を超えたい」と訴えた。

 謙虚な姿勢と経済再生、9条改正へのこだわりを示し、首相の固定的な支持層だけでなく幅広い支持を集めたい-。この日の論戦にはそんな思いがにじんだ。(原川貴郎)

■石破陣営は地方行脚に活路

 「確かに大胆な金融緩和で円は安くなり、金利は下がった。大企業は空前の収益をあげた。素晴らしいことだ。では、なぜ企業の稼ぎが働く人に回る労働分配率が43年ぶりに最低の水準になったのか」

 石破氏は演説会で、首相の経済政策「アベノミクス」の効果を評価しつつも、働き手の所得が伸び悩んでいると指摘。地方の農林水産業や中小企業を中心に地方創生を進め、アベノミクスの方向性を修正するよう求めた。

 先月10日の出馬表明会見では「今の政治が国民から信頼を得ているかが、今回の総裁選で問われている」などと首相への個人攻撃ともとれる言動が目立った。演説会では政策を中心に違いを出すことに専念したが、首相と交互に見解を述べ合う共同記者会見に移ると対決姿勢をにじませた。

 憲法改正をめぐり、首相が昨年5月に9条1、2項を維持して自衛隊を明記する案を示して以降、党の所属議員に直接説明していないことを批判。演説会では控えめだった政権批判も、森友・加計学園問題を念頭に「信頼回復をしないと、政府がやる大改革に国民が共感しない」と述べた。

 国会議員票で劣勢に立たされているだけに、平成24年総裁選で首相を上回った党員票の支持拡大を頼みの綱とする。党員への電話作戦などは「相手の物量作戦の前に手出しできない」(石破陣営幹部)のが現状で、首相と直接対決する討論会やテレビ出演に活路を見いだそうとしていた。しかし、北海道の地震の影響で予定したテレビ出演は軒並み中止された。

 石破氏はこれまで「誰よりも街頭に出て講演をしてきた」と自負し、地方の党員票集めを進めてきた。10日も会見直後に水戸市に飛び、街頭演説を行った。11日は神戸、大阪両市などを回り、12日には富山県に足を運ぶ予定だ。

 ただ、陣営には「空中戦」の機会を制限されることへの焦りが募る。石破氏は10日の会見で「極めて短い期間で、残念ながらこのような意見を述べる機会を大きく制約されている」と嘆いた。(奥原慎平)