30年で虐待相談100倍…疲弊する児童相談所、限界も 命救う闘い、児相ぎりぎり - 産経ニュース

30年で虐待相談100倍…疲弊する児童相談所、限界も 命救う闘い、児相ぎりぎり

幼児用のイスやおもちゃが置かれた児童相談所の相談室(村嶋和樹撮影)
児童相談所と警察の虐待情報共有
児童虐待の対応件数
 児童虐待に関する情報を警察との間で共有する動きが全国の自治体で加速していることが30日、本紙調査で明らかになった。虐待相談が急増している背景には、子供への心理的な虐待など、児童相談所(児相)への相談内容の多様化がある。虐待防止へ児相の担う役割が重要性を増す一方、膨大な情報の中から、命に関わる“リスク”を見極めることが求められる児相職員らの負担は限界に達しつつある。児相の実態を取材した。(村嶋和樹)
全相談室「利用中」
 関東地方の児相を訪ねた。3歳くらいだろうか。玄関口に腰を下ろした男の子が、スリッパに履き替える母親らしき女性のそばで身を固くしていた。なにがしかの問題を抱えているのだろう。
 廊下の壁には、虐待などで一時保護された子供たちが描いた納涼祭のポスターが続く。浴衣姿で3人仲良く並んだ女の子の絵もあった。今月17日、所内に10室ある相談室の全てで、午前10時には「利用中」のランプがともっていた。
 「児童の命を守るのは児相の使命だが、保護した児童へのケアも重要。このまま虐待相談が増え続けたらどうなるか」。2階の大会議室では、男性部長(43)が頭を抱えていた。
 昼休みに入っても、相談室のランプが途切れることはなかった。
福祉司1人で60件
 関東地方の別の児相に勤務する児童福祉司の男性(36)も「多い日には1日に3~4件の緊急会議がある。慢性的な緊張状態が続き、3年目くらいで一時的にモチベーションが下がってしまった」と明かす。
 さらに「難しいのは、児童が親に気を遣って『大丈夫』と答えてしまうケース。脅かされているのは『命』なのか『育ち』なのか。見極める力が問われる」。緊張の糸が途切れることはない。
 平成29年度に全国で13万件超と、過去最多を更新した児童虐待の対応件数。2年度には約1100件だったが、約30年で100倍以上に膨らんだ。前出の児相でも、年間約1500件の虐待相談に20~25人の児童福祉司で対応。1人当たり60件以上の相談に向き合っている。対応する児相の手が足りていない。
 男性部長は「子供に直接暴力を振るうのではなく、子供の目の前で親が配偶者を殴るなど、心理的虐待も増えている。入り口が心理的虐待でも、家庭全体で問題がないかの調査は必要で、負担は増す一方だ」と打ち明ける。
声なき声聞けるか
 東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5)=が虐待死した事件を受け、政府は児童福祉司の増員を含む緊急対策を示したが、職員の「数」だけでなく「質」の確保も児相の重要な課題だ。
 東京都板橋区の虐待対策コーディネーターを務める斎藤幸芳(ゆきよし)さん(68)は「経験のある児童福祉司が適切に関わっていれば、結愛ちゃんのようなリスクのある家庭の特異さに気づくことは十分できたはず」と憤る。
 斎藤さんによると、一部の児相では、経験の少ない児童福祉司が研修中に虐待事案を担当する例もあるといい、「児童福祉司は本来、医師に次いで児童の命を守る仕事。ときには親と対峙(たいじ)し、子供たちの『声なき声』を拾わなければならない」と訴える。
■目黒女児虐待事件 東京都目黒区のアパートで3月、5歳の船戸結愛ちゃんが両親から十分な食事を与えられず、父親から暴行を受けた数日後に死亡。「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」とのメッセージが社会に衝撃を与えた。結愛ちゃんが以前住んでいた香川県では2度、児童相談所に一時保護されていたが、転居後の関係機関の連携不足が指摘されている。