元自衛艦隊司令官・香田洋二氏「壮大な無駄遣いの政治ショー」

米朝首脳会談
香田洋二氏

 壮大な無駄遣いの政治ショーだ。共同声明は肝心なところに重しも押さえもない。トランプ米大統領の記者会見も全く得心できる内容ではなかった。トランプ氏は「過去の失敗を繰り返さない」と言ってきたが、同じ線路の上を走っているように見える。5月に訪米した際、多くの安全保障関係者が「大統領の功名心が危険だ」と指摘していた。まさにそうなった印象だ。

 非核化には実施の担保が全くない。拉致問題や人権問題も具体的なものが何もない。一方で北朝鮮は文書で体制保証を取り付け、義務を課せられないまま、米国からの軍事攻撃を相当な期間にわたり回避できることになった。何も失わないで時間稼ぎに成功した。

 北朝鮮はミサイルのエンジン試験場の解体を表明したというが、大陸間弾道ミサイル「火星15」など、配備済みのミサイルはそのままだ。火星15のエンジンテストは終わっており、実験場の解体に意味はない。あれを成果だというのは、正確に現状を理解していないのではないか。核実験場の廃棄も掘っ立て小屋をつぶしただけの子供だましだった。その延長にすぎない。

 トランプ氏は記者会見で将来的な在韓米軍の撤退にも言及した。わが耳と目を疑った。最大の失敗であり、大統領が決して言ってはいけないことだ。東アジアで今後、対中国の戦略を考えないといけないときに、自ら飛車・角を捨てるようなもの。日本にとっても在韓米軍の撤退は絶対に避けなければならない。もう一度、日米でしっかり戦略を整合する必要がある。

 今回の会談で、米国が北朝鮮に軍事力を行使する可能性は遠のいたとはいえる。ただ、北朝鮮の対応がトランプ氏の期待を裏切った場合、また軍事オプションが浮上する可能性はある。トランプ氏は軍事力を使う大統領だ。北朝鮮も高をくくったような対応はできないかもしれない。

 あえて言えば、両首脳に個人的パイプができたのは成果かもしれない。北朝鮮の今後の行動を見極め、必要なら直ちに厳しい態度に出ることが必要だ。事ここに至っては、そう言うしかない。