日本政府、拉致では評価 「諸懸案解決への第一歩」

米朝首脳会談
米朝首脳会談を受け記者団の質問に答える安倍晋三首相=12日午後、首相官邸(春名中撮影)

 政府は12日の米朝首脳会談と、トランプ米大統領と北朝鮮の金(キム)正(ジョン)恩(ウン)朝鮮労働党委員長が署名した「シンガポール共同声明」について評価しつつも、今後の米朝協議の行方を冷静に見守る構えだ。日本にとって重要な拉致問題に関しては、安倍晋三首相がこれまで説明したことをトランプ氏は「ちゃんと金氏に伝えてくれた」(政府高官)。金氏はそれをよく聞いていたといい、これからの北の対応を注視していく考えだ。

 「完全な(朝鮮半島の)非核化について、金氏がトランプ氏に確約したことは極めて重たい。共同声明にあるように、迅速に進めていかなければならない」

 安倍首相は12日夜、トランプ氏と電話会談した後に首相公邸で記者団にこう述べた。同日夕には官邸で記者団に対し、米朝会談について拉致・核・ミサイル問題解決の「第一歩」だと位置づけていた。

 裏を返せば、諸懸案解決のプロセスは始まったばかりということだ。迅速に進めたいという期待・建前と、必ずしも思う通りにはいかない現実の前で、言葉は交錯する。

 「これから長丁場になるだろう」

 安倍首相は11日夜には、周囲にこう語っていた。来週にも開かれる米朝協議の先には、拉致問題解決のための日朝首脳会談も見据えている。前途は山あり谷ありで決して平(へい)坦(たん)ではない。

 北朝鮮はこれまで何度も米国をはじめとする国際社会との約束を破り、核・ミサイル開発を進めてきた。このことは政府にとっては織り込み済みの話だ。

 一方、政府内では共同声明には明記されなかったものの、拉致問題をトランプ氏が安倍首相の主張通りに提起したことへの評価は高い。共同声明は米朝間の文書であり、もともと拉致問題が入る性質のものではないとの観測があった。

 反対に、核・ミサイル問題では「だめな内容。北朝鮮に譲ってしまった」(政府高官)との失望もある。小野寺五典防衛相は12日午前の時点で、記者団にこう懸念を表明していた。

 「米朝会談が進み、一定の約束が仮にあったとしても、(北朝鮮の)具体的な行動がしっかりと確認できるまでは決して気を許すべきではない」

 米朝が合意した朝鮮半島の非核化は、将来的には在韓米軍の撤退につながる可能性がある。トランプ氏も米朝会談後の記者会見で「いずれのときか、そうなってくれれば」と述べて否定しなかった。

 もし仮にそうなれば極東の安全保障環境は激変し、日本の軍事的負担は増大する。また、北朝鮮がこれまでと同様に国際社会をたばかり、ひそかに核・ミサイル開発と所持を続けるようであれば、米朝の緊張は高まり、米国による先制攻撃もありえる。政府はあらゆる可能性を視野に、それぞれの場合の対応を検討していく。(阿比留瑠比)