拝啓、前原誠司様 いまさら「希望の党との合流は正しくなかった」はないでしょう

野党ウオッチ
民進党の前原誠司代表インタビュー=10月4日午後、東京・永田町の民進党本部(斎藤良雄撮影

 拝啓、前原誠司様。冬が近づき、国会周辺はイチョウが黄色く染まりつつあります。初秋から始まった野党再編劇はようやく落ち着いたようですが、幾重にも身体に負われた傷は癒えましたでしょうか。

 今、前原さんのもとには、立憲民主党からだけでなく、希望の党に移籍した民進党出身者からも「議員辞職だけでは済まない」「万死に値する」などと厳しい批判が寄せられています。前原さんも10月27日の民進党両院議員総会で、民進党が希望の党へ全面合流するという決断について「(衆院選で)結果が伴わなかったので、正しかったとはいえない」と厳しい表情で語りました。

 前原さん。今さら「正しかったとはいえない」なんて言わないでほしいのです。

 前原さんは、何のために民進党を解体する決断をしたのでしょうか。産経新聞の10月4日のインタビューでは、真剣な表情でこう語っていましたね。

 「北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す中、日本を守れるのはもちろん自衛隊であり、やっぱり日米安全保障条約じゃないですか。日米安保を否定している政党と選挙協力して、本当にこの国を守れますか。これでは、ど真ん中のフェアウエー層が固まってしまい、政権は取れないと思いました」

 当時の前原さんが抱いていた危機意識とは、これまでの民進党執行部が共産党との選挙協力を重視するあまり、安保政策や憲法問題で現実的な対応を取れなくなったということだったはずです。希望の党への合流は、安保法制や憲法改正などの対応を現実路線に戻し、これらを全面否定する党内勢力と決別する目的があったでしょう。

 外交や安全保障は与野党でそれほどの違いがなく、税金の使い道や行政改革など内政面で違いを勝負する-。米国型の2大政党制を目指す前原さんの目的意識は正しかったと思います。北朝鮮情勢がこれほど緊迫する中、国民の多数が「安保法制の全廃」などを掲げる勢力に政権を託したいと考えるでしょうか。

 だからこそ、希望の党が民進出身者に提出を求めた政策協定書の当初の案文には「限定的な集団的自衛権の行使を含め、安全保障法制を基本的に容認する」との言葉を入れたのだと思っていました。

 前原さんは一連の合流劇の過程で大きな失敗を2つ犯したと考えています。1つは、全面合流を決めた9月28日の両院議員総会で「誰かを排除するのでない」などと大見得を切ったことです。

 衆院選では、小池氏が民進党左派を「排除する」と語って大きな批判を浴びましたが、国の根幹政策をめぐる違いがあれば、入党を断るのは当たり前じゃないですか。本当に全員を連れて行ってしまったら、右から左まで勢力が混在したまま身動きが取れない新政権ができていたかもしれません。それこそ大罪です。

 前原さんは正直に「政権交代を目指すためには現実的な安保法制を目指さなければならない」と語りかけ、党を割る覚悟を語るべきでした。「党を割ったら政権交代できないじゃないか」との批判もあるでしょうが、政権交代は「目的」でなく「手段」でなければなりません。そこが、前原さんが理想とする2大政党制を実現するための一丁目一番地だったはずです。

 もう1つは、民進党からの公認申請者がよりスムーズに希望の党へ移籍しやすいよう、安保法制に関する政策協定書の案文を緩めるよう努めたことです。

 最終的に政策協定書の文章はこうなりました。

 「現下の厳しい国際情勢にかんがみ、現行の安全保障法制については、憲法にのっとり適切に運用する。その上で不断の見直しを行い、現実的な安全保障政策を支持する」

 衆院選で小池氏の失速が明らかになるや、希望の党に移籍した民進党出身者の一部は、この文言を「錦の御旗」のように掲げ、民進党時代と齟齬がないように語り出しました。「民進党は安保法制の違憲部分に反対していたのだから、『憲法に則り適切に運用する』というくだりで整合性がとれる」という理屈です。

 希望の党の共同代表選に出馬した大串博志衆院議員は「安保法制は容認しない」と公言しました。前原さんはどんな思いでこの主張を聞かれたのでしょうか。

 民進党は前原さんが代表だった頃、安保法制をいったん廃止するよう求めていました。一方、小池氏は衆院選の公示直前の記者会見などで、希望の党代表として「現行の安保法制は容認する」とはっきり語っていました。

 両者の間には「ルビコン川」が明確に横たわっています。政策協定書の攻防はあくまで政党内部の話で、有権者はこんなテクニカルな話をどこまで理解できるでしょうか。

 政策協定書を原案通り変えなかったら、民進党からの公認申請者はさらに減っていたでしょう。合流構想に携わった関係者は「希望の党が政権を取るため、とにかく候補者を欲しがり、間口を広げるために協定書妥協を重ねた」とも打ち明けます。でも、これこそ当初の目的からすれば本末転倒ではないでしょうか。協定書の中身は薄めるべきでなかった。

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 選挙後、前原さんは同僚議員から「ウソつき」などとののしられました。「どんな手段を使っても安倍晋三政権を終わらせる」との約束は果たせず、仲間が大量に討ち死にしたのですから、一定の政治責任は負うべきでしょう。

 希望の党は衆院選で235人を擁立し、結果は50議席に終わりました。でも、ここで今回の合流構想自体が「正しくなかった」と自制し、先祖返りを認めていいのですか。「50議席しか得られなかった」でなく、当初の主張を一切曲げずに「50議席から始める」と思えないのでしょうか。これでは、単に合流構想が「政権を取りたかった」だけだと認めるようなものです。

 これからいよいよ本格的な冬将軍がやってきます。希望の党が「春」を迎えられるかどうか分かりませんが、前原さんには政治家として、最後の矜持だけは捨てないでほしいと切に願い、筆を置きます。敬具

(政治部 水内茂幸)