(上)北朝鮮・安全保障 警鐘鳴らす産・読 危機はぐらかす朝・毎 

メディアは何を伝えたか
北朝鮮危機に関する衆院選の記事(10月11日付~22日付朝刊)

 「今回の総選挙は、北朝鮮による挑発や少子高齢化という大きな課題に立ち向かうことを問う選挙だ。安定した基盤のもと、政策を進めていくことに国民の理解と信頼を得られた」

 投開票日から一夜明けた23日、菅義偉官房長官はこう述べ、衆院選の争点の一つが北朝鮮危機だったことを強調した。

 核実験やミサイル連発などの挑発行為を繰り返す北朝鮮に対し、米軍が先制攻撃に踏み切れば、政府による後方支援や難民問題が現実の課題となる。選挙戦では、国民の生命や生活を守るために何ができるか、地に足の着いた安全保障政策を打ち出すことを、各党は求められていた。

 そんな中で最大の争点といえる北朝鮮・安全保障問題について、新聞各紙とも衆院選報道で多く取り上げた。11日付から22日付までの合計は、産経新聞が1627行、新聞1ページ換算で約3・5ページ分と最大のスペースを割き、次に朝日新聞が1034行、約1・9ページ分だった。

 だが、報じた内容は極端に違う。産経や読売新聞が危機に警鐘を鳴らしたり、対応を求めたりする中身が多かった。朝日、毎日新聞は安倍晋三首相が支持拡大のために北朝鮮の脅威をあおったり、選挙利用したりしているなどとして争点化を否定するような姿勢が目立った。

 公示日翌日の11日付で、産経は「北有事・改憲 3極論戦」(1面)とし、「首相が国難と位置付ける北朝鮮危機への対応を誰に任せるかが最大の争点」だと強調した。石橋文登編集局次長兼政治部長の論文「迫る危機 問われる覚悟」(同)も掲載した。

 読売も「対北、安保法制で応酬」(3面)で、対北政策や安全保障法制などをめぐって対立する与野党の主張を紹介した。

 産経は12日付の企画「国難を問う」(1、3面)では、北朝鮮有事が起きた場合の難民の発生や戦費、米軍の北の戦力分析などを踏み込んで報道した。選挙戦終盤の21日付では、拉致被害者をいかに救出すべきかを聞いた各党へのアンケート結果を掲載した。

 読売は13日付の「北の核 身守る個人」(社会面)で、北朝鮮情勢の緊迫化で家庭用核シェルターが注目されているとして「各党は具体的な身の守り方にも触れてほしい」という一般の声を取り上げた。

 これに対し、朝日、毎日は11日付では北朝鮮関連の見出しの記事はゼロだった。朝日は記事中で、首相が第一声で北への圧力強化路線に理解を求めたと紹介するのにとどまった。

 朝日の論調で象徴的だったのは12日付の「『国難突破』解散の方便か」(社会面)。国難突破を掲げ、衆院を解散した首相に疑問を抱く自民党支持者や、「解散するより訪朝すべきだ」という支持者の意見を取り上げた。そのうえで「『国難』は解散の方便なのか。圧力の先に何があるのか。各党とも選挙戦を通じて明確な答えを示せるだろうか」とした。

 また、16日付の「安保法制 膨らむ『容認派』」(3面)では、「安倍政権が描いているのは『北朝鮮の脅威』を追い風にした衆院選だ」と断じた。

 19日付の「『武装難民』発言に物議」(社会面)では、北朝鮮有事の場合、武装した難民への対応を考えるべきだという麻生太郎副総理兼財務相の発言を取り上げ、抗議声明を出した弁護士らの「危機感をあおっている」などの声を紹介した。

 毎日は15日付の「『国難』なぜ選挙?」(1面)で、Jアラート(全国瞬時警報システム)が鳴ってもどうすればいいか分からないという生徒の声などを紹介。首相は北朝鮮の脅威を「国難」と称し、選挙に打って出たが、「北の核・ミサイル開発を容認する政党があるわけもなく、北への対応は主要な争点になっていない」と断言した。「北朝鮮にかこつけて選挙で勝つのが目的でしょ」という一般の意見も取り上げた。

 さらに「白紙委任求める首相 問題解決の道筋示さず」(3面)として、首相は北朝鮮の情勢判断の根拠などは示さないまま、「『強い外交力には国民の信任が必要』と事実上の白紙委任を国民に求めている」と批判した。

 それでは、北朝鮮は争点ではなかったのか。答えは、読売が選挙終盤の20日付で掲載した「中高生 北情勢に関心」(社会面)が明らかにしているのではないか。中高生9千人を対象に行ったアンケートで、全体の3割が最も関心のある政治テーマとして「北朝鮮情勢」を選び、トップになったという。若い世代にとって北の危機は目の前に迫る現実なのだ。

 また、NHKが投開票日の22日に実施し、27万3千人以上が回答した出口調査でも、今回の投票で何を重視したかは(1)消費税率の引き上げへの対応29%(2)憲法改正への対応23%(3)北朝鮮問題への対応16%-の順で、有権者の北有事への関心が高まっていることが分かる。(田村龍彦)

 「国民の皆さん、新聞をよくファクト(事実)チェックをしていただきたい」

 衆院選公示前の10月8日、安倍首相は日本記者クラブ主催の党首討論会でこう呼びかけた。新聞は事実をありのままに、正確に報じているのかという疑問を表明したのだ。「フェイク(偽物)ニュース」が横行する時代にあって、公示日から投開票日まで新聞は何をどう伝えたのか。「北朝鮮・安全保障」「森友・加計問題」「憲法改正」-3つの争点について、各紙の紙面を比較・分析する。

 ■調査対象と方法 10月11日付から22日付までの産経、朝日、毎日、読売、日経の東京朝刊(1~3、総合、社会面)に掲載された衆院選をめぐる記事(社説、コラムは除く)のうち、見出しに(1)北朝鮮・安全保障(2)森友・加計学園問題(3)憲法改正に関係する言葉を含むものを抽出し、記事の行数と面積(見出し、写真、図表を含む)を求めた。見出しに「北・9条」など複数のテーマに関する言葉がある場合は、それぞれのテーマの記事として集計した。