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【美しきにっぽん】どっしりと 大地踏みしめ 寒立馬(青森・東通村)

生き物

【美しきにっぽん】どっしりと 大地踏みしめ 寒立馬(青森・東通村)

更新 sty2007090002
 太平洋から昇る朝日を背に草を食む寒立馬の親子。生まれたばかりの仔馬は華奢だが、成長するにつれ風格ある馬体になる。逞しさと人なつっこい無邪気さが特徴だ=青森県東通村(寺口純平撮影)  太平洋から昇る朝日を背に草を食む寒立馬の親子。生まれたばかりの仔馬は華奢だが、成長するにつれ風格ある馬体になる。逞しさと人なつっこい無邪気さが特徴だ=青森県東通村(寺口純平撮影)
草を求めて放牧地を歩く寒立馬。馬やバイクにも動じず堂々と闊歩する=青森県東通村(寺口純平撮影)
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草を求めて放牧地を歩く寒立馬。馬やバイクにも動じず堂々と闊歩する=青森県東通村(寺口純平撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 午前4時前。東の空がほのかに明るくなってきた。松林から馬の親子が姿をみせた。食べる草を探すためか頭を垂れながら、海岸沿いを進む。時折立ち止まり、草を食むその音はすぐそばに打ち寄せる波の音がかき消していく。

放牧地のそばにある東北最古の洋式灯台、尻屋崎灯台=青森県東通村(寺口純平撮影)
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放牧地のそばにある東北最古の洋式灯台、尻屋崎灯台=青森県東通村(寺口純平撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 赤や黄のグラデーションで水平線の向こうが染まり始めると、逆光でシルエットになり、2つの像が浮かび上がった。華奢な影が、どっしりとした母親の姿を追う。その仔馬の足取りはわずか1週間ほど前に生まれたとは思えない。

 青森県東通(ひがしどおり)村(下北郡)の尻屋崎(しりやざき)は、西は津軽海峡、東は太平洋に挟まれた下北半島最果ての地。そびえ立つ灯台のふもとにはニッコウキスゲの花々が風に揺れる。

 ゲートで仕切られた約600ヘクタールの広大な放牧地には現在23頭の「寒立馬(かんだちめ)」と呼ばれる700キロ近い大型の馬が暮らす。かつての日本在来馬である「南部馬」の血を引継ぎ、フォルムは独特で体高は140センチほど、首は太く筋肉質で、起伏に富む地形を歩くため蹄も大きい。あちらこちらで悠々と肩を並べて草を食み、人が近づいてもいびきをかいて横になる風景を見ることができる。

 リラックスした様子で寝息をたてて休む寒立馬 =青森県東通村(寺口純平撮影)
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 リラックスした様子で寝息をたてて休む寒立馬 =青森県東通村(寺口純平撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 かつては「野放し馬(のばなしうま)」と呼ばれ、軍用や農漁業で荷役馬として人と関わりあってきたが、戦後になり車が普及すると、需要がなくなった。現在、寒立馬とその生息地は青森県の天然記念物として保護されている。

  昭和45年に村立尻屋小中学校に赴任した校長が年頭あいさつで「東雲(しののめ)に 勇みいななく寒立馬 筑紫ケ原の 嵐ものかは」と歌を詠んだことから「寒立馬」と呼ばれるようになった。

放牧地内では馬優先のため、車道の真ん中を堂々と歩く寒立馬 =青森県東通村(寺口純平撮影)
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放牧地内では馬優先のため、車道の真ん中を堂々と歩く寒立馬 =青森県東通村(寺口純平撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 「寒立ち」とはカモシカが冬季に雪の山中に立ち尽くす様子を表す地元の猟師の言葉。少しでも冷たい風を避けるため1月から3月は太平洋側の「アタカ」と呼ばれる越冬放牧地に馬たちは移動する。それでも氷点下10℃を下回る時もあり、毛に氷柱を作りながら、雪に深く覆われたわずかな草を蹄でかきわけて探して食糧にするという。 

長いたてがみにつたう雨の雫 =青森県東通村(寺口純平撮影)
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長いたてがみにつたう雨の雫 =青森県東通村(寺口純平撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 40年以上「寒立馬」と接してきたのは尻屋牧野組合長の寺道和廣さん(68)。地元漁師でもある寺道さんは沖に出てタコやイカを取る合間をぬい、馬の体調管理や出産の世話をする。「分娩は30分が勝負でこの時期が一番気を使う。せっかく生まれても仔馬が乳を飲まないこともあったりして、生き物を相手にするのは本当に大変。とにかく無事に育ってくれれば」と今年生まれたばかりの仔馬を心配そうに見つめる。撮影に訪れた6月は出産シーズンでもある。今年は7頭の子馬が広大な緑の大地で駆け回っている。

 やがて、また来る厳しい冬。きっと乗り越えて、また新しい命が生まれる。初夏に母馬と寄り添う姿は、厳しい大地を生き抜く象徴だ。(写真報道局 寺口純平)

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