【廃炉へ~福島第1原発は今】(下)役目を終えた汚染タンクと最新技術で走る自動運転バス
更新 sty2005170003異様な風景が広がる東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の作業現場で、道路わきに2段重ねでズラリと並ぶタンクが目に入った。
取材ポイントに向かう車を止めてもらい、車を降りてシャッターを切る。「事故発生当時、汚染水を入れていたタンクです」と広報担当者。事故で溶け落ちた燃料は冷やし続けなければいけない。しかし、冷却に使った水は核物質で汚染される。事故直後、大量の汚染水をためるタンクはなかった。
一刻を争う緊急事態。融通が利く一般的な工業用のタンク約360基を全国からかき集めた。現在、敷地内に並ぶ処理水が入ったタンクと比べると、容量は10分の1程度の100トン。それでも、当時は現場になくてはならないものだった。
事故から9年以上が経過した今、汚染水は移され、タンクは空になっている。しかし、内部は汚染されたまま。巨大な放射性廃棄物に行き場はなく、しばらくはこのまま放置するしかないという。
古びたタンクを撮影中、その横を小さなバスが、音もたてずにゆっくりと通り過ぎた。ナンバープレートの部分には「はまかぜe」の表示。丸みを帯びたおしゃれなデザインは、廃炉作業の現場で少しミスマッチに思えた。
これは、国内で初めて実用化された自動運転の電気バス。福島第1原発の敷地は東京ドーム約75個分、350万平方メートルもあり、構内の移動に車は欠かせない。電気バスは一昨年4月に導入され、作業員らの移送を担っている。フランス製で全長4.75メートル、幅2.11メートル。高さが2.65メートルあるため見た目は大きく感じる。15人乗りでハンドルはもちろん、運転席もない。
GPS(衛星利用測位システム)で自分の位置を確かめながら、プログラムされたルートを走る。ルートは「入退域管理施設」と「登録センター」を結ぶ往復約2キロの系統など複数ある。このバスには自動運転交通の実用化に向け、実績を積み重ねてノウハウを蓄積するという使命もある。
事故から10年目を迎えた廃炉の現場には、時間が止まったままの場所がある一方で、真新しい技術が日々投入されている。行き場を失った汚染水を保管したタンクの横を、最新技術を詰め込んだ自動運転の電気バスが行き交う-。こんな風景も日常になっている。(福島支局 芹沢伸生)