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【美しきにっぽん】「凄み」と「美」のはざまで 黒部峡谷・下ノ廊下

自然・風景

【美しきにっぽん】「凄み」と「美」のはざまで 黒部峡谷・下ノ廊下

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水面から高さ約20メートルの岩肌に登山道が続く下ノ廊下。眼下には黒部川が流れる =富山県立山町(ドローン使用) 水面から高さ約20メートルの岩肌に登山道が続く下ノ廊下。眼下には黒部川が流れる =富山県立山町(ドローン使用)
黒部川周辺の内蔵助平でドローンを飛ばすと、紅葉に彩られた立山の山々が囲むように広がっていた(パノラマ合成)
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黒部川周辺の内蔵助平でドローンを飛ばすと、紅葉に彩られた立山の山々が囲むように広がっていた(パノラマ合成)フルスクリーンで見る 閉じる

 黒部にけがなし-。かつて聞いた言葉が、頭の中を巡った。

 深々と切れ込んだV字の谷。崖の中腹から約20メートル下をのぞき込んだ。轟々(ごうごう)と流れる水は岩にぶつかり、水しぶきとなって、もとの流れにのみ込まれていく。鳴り響く水音は、同僚との会話をかき消してしまう。

岩肌に張られたワイヤをつたって細い道を慎重に歩く登山者。気が休まることのない上級者向けのコースだ =富山県立山町
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岩肌に張られたワイヤをつたって細い道を慎重に歩く登山者。気が休まることのない上級者向けのコースだ =富山県立山町フルスクリーンで見る 閉じる

 「けががない」のは無事だからではない。滑落した場合、助からないことを意味している。切り立った断崖と激流がつくりあげる峡谷の「凄み」と「美」を同時に感じた。

 富山県と長野県にまたがる北アルプスを源流とする黒部川。黒部ダムから下流の川沿いに、かつての「日本電力」が大正14年、電力開発の調査のため、開削に着手した「下ノ廊下(しものろうか)」と呼ばれる道がある。

黒部峡谷 =富山県立山町(ドローン使用)
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 深い峡谷には雪が長く残るため、雪が消えて整備を終えてから、次の雪が降り始めるまでのわずかな間しか通行できない。例年、9月下旬からの約1カ月、登山客らが訪れ、ひとときのにぎわいを見せる。

黒部峡谷 =富山県立山町(ドローン使用)
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 黒部ダムから「白竜峡(はくりゅうきょう)」を目指し、「下ノ廊下」を歩いた。崖の岩をえぐってできた道は、徐々に狭くなり、幅50センチほどになって続いていく。右側の真下は川。左手で岩盤に張り巡らされた細いワイヤを握り締めながら進んでいく。丸太で組まれた梯子(はしご)などを使って断崖を乗り越えるところもある。「こんな道をよくも人間が作ったもんだ」。思わず声が出た。

下ノ廊下 =富山県立山町(ドローン使用)
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 道中の岩室では、獣臭がした。付近はクマの目撃情報も頻繁にある。クマ避け用の鈴を鳴らしながらゆっくり歩いた。冬は日本有数の豪雪地帯。人を寄せつけない厳しい自然に生きる動物の息吹を感じる。

 緊張の連続だが、透明な川の流れが心を癒やしてくれる。5時間ほどで澄んだ水が岩に当たり、白く連なる様子から名付けられた「白竜峡」に到着した。

水平歩道 =富山県黒部市(寺口純平撮影)
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水平歩道 =富山県黒部市(寺口純平撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 やや広い場所でドローンを飛ばした。登山道からは見ることができないダイナミックな峡谷。ゆっくりと羽を広げて滑空する鳥になったような気分だ。

 「自分の登山技術や体力をきちんと把握して、余裕をもった計画を立て、無理な時は撤退する勇気をもってきてほしい」。黒部ダムから欅平(けやきだいら)間唯一の山小屋で、道の整備に携わる阿曽原(あぞはら)温泉小屋の主人、佐々木泉さん(59)は話す。

 下山後、登山靴のつま先に新しい傷がいくつもついているのに気がついた。今も見るたびに、たやすくはない道を歩き通すことで心に深く刻まれた自然の厳しさと美しさ、そして人の力の偉大さを思い出す。(写真報道局 沢野貴信、寺口純平) 

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