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「夢をありがとう」敗戦にも万雷の拍手 姫野「日本が一つになれた」経験を糧に4年後へ

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「夢をありがとう」敗戦にも万雷の拍手 姫野「日本が一つになれた」経験を糧に4年後へ

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国歌斉唱する日本代表フィフティーン=20日、味の素スタジアム(山田俊介撮影) 国歌斉唱する日本代表フィフティーン=20日、味の素スタジアム(山田俊介撮影)
南アフリカに敗れ、あいさつするリーチ・マイケル(左)ら日本フィフティーン。スタンドからの暖かい拍手に包まれた=味の素スタジアム (撮影・山田俊介)
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南アフリカに敗れ、あいさつするリーチ・マイケル(左)ら日本フィフティーン。スタンドからの暖かい拍手に包まれた=味の素スタジアム (撮影・山田俊介)フルスクリーンで見る 閉じる

 ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会の準々決勝で20日、優勝候補の一角・南アフリカと対戦した日本代表。後半に突き放されて敗れ、惜しくも4強入りを逃したが、史上初の8強入りを成し遂げた今大会の快進撃は、多くの死者・行方不明者を出した台風19号に打ちのめされた日本人を勇気づけた。東京・味の素スタジアムに詰めかけたファンは大声援を送り、試合後には「夢をありがとう」とフィフティーンに温かい拍手を送った。

試合後、日本代表フィフティーンの健闘を称えるファンら= 味の素スタジアム (撮影・中井誠)
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試合後、日本代表フィフティーンの健闘を称えるファンら= 味の素スタジアム (撮影・中井誠)フルスクリーンで見る 閉じる

 4年前のイングランド大会で南アを破った「ブライトンの奇跡」の再現を狙った大一番。試合前には台風の被害者に黙祷(もくとう)がささげられた。
 前半、日本は先制トライを奪われたが、相手の反則で数的優位を得ると反撃を開始。スクラムで押し勝つ場面もあり、田村優のペナルティーキックで得点を挙げて2点差に詰め寄り、折り返した。

後半、パスを出すリーチ・マイケル(中央)=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)
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後半、パスを出すリーチ・マイケル(中央)=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)フルスクリーンで見る 閉じる

 スタジアムでは、ピンチに陥るたびに「ニッポン、ニッポン」のコールが上がった。今大会、日本代表の全試合を現地で観戦したという大阪府枚方市の会社員、下口克久さん(50)と同府門真市の同、坂本日出夫さん(48)は「選手の頑張る姿が勇気や元気を与えてくれる。台風の被災者にも届いてほしい」と声を張り上げた。
 この日は選手、監督として4度W杯に出場し平成28年に53歳で急逝した「ミスターラグビー」、平尾誠二さんの命日。さいたま市から来た会社員の田村泰児さんは「日本が初めて決勝トーナメントで戦う日が平尾さんの命日なのは偶然ではないと思う。平尾さん(の魂)と一緒に日本の勝利を後押ししたい」と声をからした。

前半、スクラムで相手の反則を誘い、叫ぶリーチ・マイケルら日本FW陣=味の素スタジアム(撮影・松永渉平)
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前半、スクラムで相手の反則を誘い、叫ぶリーチ・マイケルら日本FW陣=味の素スタジアム(撮影・松永渉平)フルスクリーンで見る 閉じる

 だが、後半に入ると南アが徐々に地力を発揮。ペナルティーゴールでじわじわと点差を広げられると、強力な相手フォワード陣に押し込まれる場面が目立ち始め、連続でトライを奪われた。最後までトライを狙ったがはね返され、日本の挑戦はベスト8で終了した。
 それでも試合後、スタンドから選手たちへの拍手は鳴りやむことはなかった。
 岐阜市の会社員、桐谷勝さん(51)は「ここまで来られたので大満足。南アフリカは強かった。日本の戦いに感動した」。日本代表の躍進でラグビーに興味を持ち、試合を見に来たという東京都府中市の会社員、田上輝(ひかる)さん(23)も「大会前はラグビーをあまり知らなかったが、一つのボールをみんなでつなぐ姿は本当に格好良かった」と笑顔を見せた。

 栃木県足利市の高校3年生、安達佳歩(かほ)さん(17)は「決勝まで行ってほしかったが、台風で被災した人たちに、勇気と感動を与えてくれたと思う」と話した。

突進のたび「リーチ」大合唱 「桜の戦士」象徴した主将

前半、突進する日本のリーチ・マイケル=味の素スタジアム(撮影・松永渉平)
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 ボールを持って突進するたびに、「リーチ、リーチ」の大合唱がわき起こった。2大会連続で主将を務めるニュージーランド出身のリーチ・マイケル(31)は、甚大な被害をもたらした台風19号の被災者への思いを胸にピッチに立った。15歳で来日し、日本国籍も取得。多様なルーツの選手が集う桜の戦士たちの「象徴」は、最前線で体を張り続けた。
 「避難している人たちに勇気を与えられたと思う」
 台風19号が東日本を縦断した直後の13日夜に行われた1次リーグ最終戦のスコットランド戦。激闘を制した試合の後、リーチはこう語り、被災地に思いを寄せた。

前半、競り合うリーチ・マイケル(右)=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)
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前半、競り合うリーチ・マイケル(右)=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)フルスクリーンで見る 閉じる

 ニュージーランド人の父とフィジー出身の母の間に生まれ、5歳でラグビーを始めた。15歳で札幌山の手高(北海道)に留学したが、当時は177センチ、76キロ。同校ラグビー部監督の佐藤幹夫さん(58)は「細くて、ラグビーできるかな、という感じだった」と振り返る。
 練習後にファミリーレストランで400グラムのハンバーグと大盛りライスのセットを2つ平らげるなど“食トレ”を重ね、卒業時には体重は100キロに。試合に負ければ「みんなに申し訳ない」と1人で居残り練習をし、グラウンド整備や荷物持ちといった裏方仕事にも率先して取り組んだ。北の大地で己を磨いた高校時代の3年間を、リーチ自身も「原点」と語る。
 進学した東海大でも1年からレギュラーとして活躍、代表入りが期待されるようになった。強豪のニュージーランドやフィジーの代表を目指す選択肢もあったが、「いろいろな人の世話になった。桜のジャージーでプレーするのが一番の恩返し」と日本代表を選んだ。
 大学時代の同級生と結婚し、平成25年には日本国籍も取得した。「将来、マイケルが主将になって日本代表を強くしろよ」。佐藤さんが折に触れてかけ続けた言葉通り、豪州やサモア、トンガ、南アフリカなど、多くの国の出身者が集まる集団を一つにまとめ上げ、4戦全勝で1次リーグ1位通過という快挙を成し遂げた。

前半、ラインアウトのボールを処理するリーチ・マイケル=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)
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前半、ラインアウトのボールを処理するリーチ・マイケル=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)フルスクリーンで見る 閉じる

 「怖いくらい強くなっている。国民の応援があってここまで頑張れている」と、チームの成長を誇らしげに語ったリーチ。この日も持ち前の献身的なプレーでチームを鼓舞。最後まであきらめない姿は、「史上最強のジャパン」のリーダーにふさわしかった。(大渡美咲)

姫野「僕もそういうリーダーになりたい」

 仲間と健闘をたたえ合うと、ナンバー8の姫野はこみ上げるものを抑えきれなかった。達成感ともどかしさが入り交じった涙だった。「日本中がラグビーで一つになれたと感じた。この経験を糧にチームとしても個人としても強くならないといけない」。日本を初の8強に導いた25歳の視線は先を見据えた。

前半、突進する日本の姫野和樹=味の素スタジアム(撮影・松永渉平)
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前半、突進する日本の姫野和樹=味の素スタジアム(撮影・松永渉平)フルスクリーンで見る 閉じる

 南アフリカには完敗だった。密集で相手のボールをもぎ取る得意の「ジャッカル」も有効ではなかった。「全ての場面で負けてしまった」。後半10分すぎに退き、ピッチ外から敗退の瞬間を見つめた。
 前回の15年大会は代表入りを逃した。その悔しさが成長の原動力になった。今大会は身体の強さを発揮して活躍した。最後は世界のトップとの差を痛感したが、またラグビーに打ち込む原動力にするつもりだ。

 大会を振り返り、「自分のことで精いっぱいだった」。4年後に向け、自身に課せられる役割は分かっている。「リーチさんの背中を見ているだけで元気になった。僕もそういうリーダーになりたい」。手にした経験を糧に、さらなる成長を誓った。(浜田慎太郎)

リスペクトと冷徹采配で導く ジョセフHC

 激闘を終えたピッチに、満面の笑みで選手たちをねぎらう姿があった。日本を初の8強へと導いたジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC、49)。その穏やかな笑みからは、ともに戦い抜いた選手、スタッフへの「リスペクト」が感じられた。

試合後、スタンドの声援に応える(左から)リーチ・マイケル、ジェイミー・ジョセフHC、姫野和樹=味の素スタジアム (撮影・山田俊介)
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試合後、スタンドの声援に応える(左から)リーチ・マイケル、ジェイミー・ジョセフHC、姫野和樹=味の素スタジアム (撮影・山田俊介)フルスクリーンで見る 閉じる

 「日本という国に感謝したい。選手は勇気、強い決意を持って最後まで頑張った。本当に誇りに思っている」。南アフリカに敗れたとはいえ、新たな扉を開き、日本国中に勇気を届ける活躍を演じた選手たちへの心からの言葉だった。
 苦笑いでチームを盛り上げたことがある。16日にチームのレクリエーションに参加した際、じゃんけんに敗れ、堀江翔太(パナソニック)におもちゃのハンマーで思い切りぶたれると、196センチの大きな体をかがめて苦笑いを浮かべた。 

 「誰もエディーの頭をしばけなかったと思います」と笑うのは田中史朗(キヤノン)。前回2015年大会で歴史的3勝をもたらしたエディー・ジョーンズ前HCは選手を厳しく管理したが、自主性を重んじるジョセフHCはリラックスできる環境を尊重した。
 それでも真骨頂は冷徹にも映る采配。アイルランドとの1次リーグ第2戦では主将のリーチ・マイケル(東芝)を先発から外した。「プレーの質がほかの選手の方が上」。ロシアとの開幕戦で振るわなかった大黒柱も容赦しなかった。

試合後、円陣を組む日本フィフティーン=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)
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試合後、円陣を組む日本フィフティーン=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)フルスクリーンで見る 閉じる

 ただ徹底した実力主義は最終的に選手からの信頼に結びつく。奮起したリーチは途中出場で大活躍し、アイルランド撃破に貢献した。的確な選手起用でチームを4連勝に導いたジョセフHCの手腕を、リーチは「間違いなくジェイミーがよかった。ベストのチームを選んだ」と認める。
 この日も日本の躍進を支えたナンバー8、姫野和樹(トヨタ自動車)を後半12分に今大会初めて途中交代させた。指揮官は最後まで試合を諦めなかった。

試合後、スタンドに一礼するリーチ・マイケル(手前)ら =味の素スタジアム (撮影・山田俊介)
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試合後、スタンドに一礼するリーチ・マイケル(手前)ら =味の素スタジアム (撮影・山田俊介)フルスクリーンで見る 閉じる

 1995年の南アフリカW杯にニュージーランド代表として出場したジョセフHC。日本を145-17で圧倒した「オールブラックス」の一員が、24年後に日本を率いて当時決勝で敗れた南アフリカと4強入りを争うなど想像もできなかっただろう。“縁”はまだある。20日はくしくも2016年に53歳の若さで死去した「ミスターラグビー」平尾誠二氏の命日。造語「洋魂和才」を掲げ、外国人選手の経験を代表に取り込もうとした平尾氏に、1999年W杯メンバーとして招集された一人が日本でプレーしていたジョセフ氏だった。

試合後、スタンドに手を振るリーチ・マイケル(中央)ら=味の素スタジアム (撮影・山田俊介)
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試合後、スタンドに手を振るリーチ・マイケル(中央)ら=味の素スタジアム (撮影・山田俊介)フルスクリーンで見る 閉じる

 平尾氏は代表強化のため、外国人が多いとの批判を意に介さなかった。ジョセフHCもW杯メンバーに過去最多となる15人の海外出身選手を選んだ。受け継がれたともいえる平尾イズムで挑んだ4強への挑戦は、今回ははね返された。だが、再び新たな代表へと受け継がれるに違いない。(奥村信哉)

日本独自のスタイル、海外も評価

 強豪国を次々に破り、初の8強入りを果たした日本。その快進撃ぶりは、ラグビーがさかんな海外のメディアにも、驚きとともに強い印象を与えた。

 「ブラボーだ」。アイルランドのテレビ局「EIR SPORT TV」のコメンテーター、リアム・トーランドさんは、同じ1次リーグA組を首位で通過した日本を簡潔に表現した。「フィジカルが強いだけではなく、プレーはテクニカルで正確。運動量も豊富だ」。自国が敗れたのもやむなしといった口ぶりで、賛辞の言葉を並べた。

試合を終え、引きあげる日本フィフティーン=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)
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試合を終え、引きあげる日本フィフティーン=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)フルスクリーンで見る 閉じる

 仏紙「レキップ」のフレッド・バーンズ記者は「結果だけでなく、内容が素晴らしい。プレーにリズムがある」と評価。「松島と福岡の両WTBは観ていて楽しい」と、選手の個人名も口にした。
 海外と比べ、体格で劣る日本のスピードあふれる戦いぶりに感銘を受けたとの声も多い。英紙「インディペンデント」は、1次リーグ最終戦のスコットランド戦で60キロに及ぶチームの体重差をはね返して勝利したことを紹介し「高速で汚れのないパスゲームで、(1次リーグの)対戦相手全てを破った」とたたえた。

 「日本はパスやキックを使った独自のスタイルを築いた。勇気あるプレースタイルはすごく好感が持てる」と英BBCリポーターのソニア・マクラホランさん。開催国の情熱と誇りは、世界中のラグビーファンの心をつかんだようだ。
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試合後、日本代表フィフティーンの健闘を称えるファンら= 味の素スタジアム (撮影・中井誠)
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前半、相手選手に掴まれるリーチ・マイケル(右)=味の素スタジアム(撮影・蔵賢斗)
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