海に浮かぶ無数の影 和歌山県串本町・近大マグロ養殖場
更新 sty1903210001大きな丸い生(い)け簀(す)の中に黒い魚影が見える。無数の影の正体は「近大マグロ」のブランドで知られる完全養殖マグロだ。横付けされた船から餌が投げ込まれると、スピードを上げてごちそうにありついた。
「近大マグロ」は平成14年に、近畿大学水産研究所(和歌山県白浜町)が世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロのこと。
もちろん食用で、JR大阪駅前の「グランフロント大阪」(大阪市北区)にある飲食店「近畿大学水産研究所」などで提供され、人気を集めている。
同県串本町にある大島実験場は、近大マグロの古里だ。水産研究所が昭和45年に開設し、総勢24人の研究員や作業員がマグロの養殖技術の開発に取り組んでいる。
マグロの姿を捉えようと、ドローンを飛ばし、上空から生け簀にレンズを向けた。
モニター画面に直径30メートルの生け簀が映る。中では約200匹のマグロがグルグルと反時計回りに泳いでいる。高度を下げながら、ゆっくり海面に近づいていくと、餌のサバを食べようと集まってきた。
完全養殖の成功から17年。養殖技術は進化を続けている。当初、人工孵化(ふか)の成功率は、卵1万個に数匹の確率だったが、3~5%までに上昇。
孵化して40日ほどで、生け簀へ放たれた稚魚は、4年後には体長160センチ、重さ60キロまで成長し、水揚げされる。
鹿児島県奄美大島でも養殖が始まり、天然マグロを超える味をめざして、新たな技術の開発も進んでいる。
関西から全国へ。豊かな自然と研究者の探求心が作り出した完全養殖マグロが届けられていく。(写真報道局 沢野貴信)