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新年 家族の笑顔があるから 西日本豪雨半年、ファインダー越しの思い

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新年 家族の笑顔があるから 西日本豪雨半年、ファインダー越しの思い

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ビニールハウスで収穫間近のチンゲンサイを見る乃理子さんと晃詩くん =4日、岡山県倉敷市真備町(鳥越瑞絵撮影) ビニールハウスで収穫間近のチンゲンサイを見る乃理子さんと晃詩くん =4日、岡山県倉敷市真備町(鳥越瑞絵撮影)

 昨年7月の集中豪雨で、岡山、広島、愛媛など15府県で222人が犠牲となった西日本豪雨被害から半年が経った。被災した人々は日常を取り戻すため、毎日懸命に歩み続けている「被災地の今を知りたい」。そんな思いに駆られ、以前、取材で知り合った一人の女性に会うため、年末年始に岡山県倉敷市真備町のある家族を訪ねた。(写真報道局 鳥越瑞絵)

町内の神社に初詣に向かう山田さん一家 =1日(鳥越瑞絵撮影)
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町内の神社に初詣に向かう山田さん一家 =1日(鳥越瑞絵撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 澄み渡った元日の空のもと、大人の先を行くように、子供たちが参道を駆けていく。3世代そろった初詣は毎年恒例だ。しかし去年、家族の生活は一変した。手を合わせ願ったことはただ一つ。「早く元通りの生活に」だ。

 岡山県倉敷市真備町で農業を営む山田乃理子さん(37)。自宅は西日本豪雨で、1階の天井近くまで浸水。数百万円の借金をしてそろえた14棟のビニールハウスと農機具、車のすべてを失った。

 山田さん一家は平成28年に農家に転身した。花作りをしていた義母の美幸さん(61)の提案に、義父の幸治(ゆきはる)さん(62)と乃理子さんの夫の健太さん(37)が脱サラして参加した。

浸水した自宅2階で夜を過ごす乃理子さんと晃詩くん =昨年12月30日(鳥越瑞絵撮影)
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浸水した自宅2階で夜を過ごす乃理子さんと晃詩くん =昨年12月30日(鳥越瑞絵撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 土づくりからこだわった自慢のコマツナとチンゲンサイは、地元の学校給食に出されるほど。そうして軌道に乗り始めた直後の豪雨被害だった。

 私が乃理子さんと最初に出会ったのは、被災地を取材していた昨年7月半ば。訪れた幼稚園に、臨月を迎えた乃理子さんがいた。「自宅の片付けが大変です」と話す表情に疲れは見えたが、連日の猛暑にも負けない明るい笑顔が印象的だった。

浸水し床面をはがした自宅1階で、生後2週間の晃詩ちゃんを抱く山田乃理子さん。「心ある子に育って欲しい」と話す =昨年8月6日、岡山県倉敷市真備町(鳥越瑞絵撮影)
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浸水し床面をはがした自宅1階で、生後2週間の晃詩ちゃんを抱く山田乃理子さん。「心ある子に育って欲しい」と話す =昨年8月6日、岡山県倉敷市真備町(鳥越瑞絵撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 その後、7月22日に男の子を出産したと聞き、8月初めに自宅を訪ねた。名前は晃詩(ひなた)くん。「明るい子に」と名付けられた。浸水のために床板を剥がした1階で、晃詩くんを抱く乃理子さんの姿が、私には聖母のように映った。

 一家の農業再開の資金調達にめどが立ったのは10月。ハウスの再建に取りかかり、翌月から苗の植え付けを開始したという。

親族が集まる恒例行事の餅つき大会では「みんなが集まれた」と笑顔があふれた =昨年12月30日(鳥越瑞絵撮影)
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親族が集まる恒例行事の餅つき大会では「みんなが集まれた」と笑顔があふれた =昨年12月30日(鳥越瑞絵撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 豪雨から半年。取材のため、年末と正月にかけて一家を訪れた。年末に親戚(しんせき)がそろう餅つき大会で、晃詩くんを抱かせてもらった。体重は7キロを超えているという。ずっしりとした重さが腕に残り、愛嬌(あいきょう)いっぱいの笑顔に癒やされた。

ボランティアが運営するクリスマス会でおどけた表情を見せる長男の伊織くん(左)ら =昨年12月22日(鳥越瑞絵撮影)
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ボランティアが運営するクリスマス会でおどけた表情を見せる長男の伊織くん(左)ら =昨年12月22日(鳥越瑞絵撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 今年初めての、チンゲンサイの苗の植え付けが今月4日に行われた。晃詩くんを連れた乃理子さんや美幸さんらが、直径5センチほどの苗を一つ一つ植え付けていく。

 通年で出荷するため、ハウスには、青々と成長したチンゲンサイも広がっている。晴天の陽気で春のような気温のハウスの中に、長女の愛結(あおい)ちゃん(12)、次女の瑞姫ちゃん(10)、長男の伊織くん(6)の元気な声が響いた。

 実は、山田さん一家の自宅の1階は、リビングや台所が使える程度と、被災したまま。だが、収入源となる農業を最優先するため、仮設やみなし住宅には入居していない。一家8人はハウス近くの自宅の2階で主に生活している。

 町内にはまだ倒壊した家屋が並ぶ地域があり、町を離れる家族もいる。仮設住宅で不自由な暮らしをする人もいる。

 「一人だったら無理だったかも」

 乃理子さんがつぶやいた何げない言葉に、力を合わせて生きる家族の絆を感じた。 

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