【防災最前線】水上疾走 響くは希望の音 レスキューエアボート
更新 sty1707040011 水上にサイレンを響かせ、低い風切り音と水しぶきを上げ疾走する。高知県警が全国の警察で初めて導入した水難救助活動用の「エアボート(プロペラボート)」だ。
船尾に設置された直径2メートルのプロペラの風力を推進力とし、最高速度は時速46キロに達する。高い機動力を誇り、岸から陸に上がり、街中の走行も可能だ。
プロペラが水中にないためがれきや浮遊物などを巻き込む心配がなく、津波で浸水した市街地での救助活動が期待される。
操縦を担当する機動隊員の森田隆さん(24)は「ゴムボートに比べ安定性が高い」と話す。
エアボートの製造を手がけるフレッシュエアー代表取締役の佐々木甲(こう)さん(60)は、東日本大震災のニュース映像が忘れられないという。タンスに捕まり助けを求める男性の元へゴムボートが向かうも、漂流物がスクリューに絡まり前に進めない…。
「あの場所にエアボートがあればと、猛烈なもどかしさを感じた」と振り返る。それまでレジャー用ボートの製造を行っていたが「日本の環境に合った救助用エアボートを作る」と決意した。
海外から輸入したボートを改造し、日本の狭い道路や住宅街でも活動できるようした。平成25年の東京国際消防防災展に初出展。
災害現場での初めての活動は27年9月の茨城県常総市で発生した鬼怒川の堤防決壊。地元消防の要請を受け現場に急行した。活動を始めたのは午前3時。水没した真っ暗な住宅街は不気味なほど静かだった。
「本当に救助者がいるのか?」と不安にかられたが、エンジン音を聞いた住民が一斉に窓を開け救助を求めてきた。「ここだ!助けて!」、必死に叫び声を上げる46人を救助した。
それまで大きなプロペラによる“羽音”は救助において弱点だと考えていた。が、救助者にとっては希望の音でもあることに気付いた。識者の間では「レスキューサウンド」と呼ばれていることを知る。
「エアボートがさらに認知され、救助の幅が広がれば」。力強い言葉に、使命感があふれた。(写真報道局 志儀駒貴)