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「ゴルフ会談」撮影NGの舞台裏 記者は〝軟禁状態〟

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「ゴルフ会談」撮影NGの舞台裏 記者は〝軟禁状態〟

更新 sty1702120013
ラウンド前にゴルフ場内で談笑するトランプ大統領と安倍晋三首相とみられる2人。バスの中から撮影したが、まさかこの後“密室”に閉じ込められ、何もできない状態か続くとは… =11日午前、フロリダ州ジュピター(松本健吾撮影) ラウンド前にゴルフ場内で談笑するトランプ大統領と安倍晋三首相とみられる2人。バスの中から撮影したが、まさかこの後“密室”に閉じ込められ、何もできない状態か続くとは… =11日午前、フロリダ州ジュピター(松本健吾撮影)
ゴルフ場に向かうトランプ大統領と安倍晋三首相を乗せた車列に向けて抗議のプラカードを掲げる人たち=11日午前、フロリダ州ジュピター(松本健吾撮影)
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ゴルフ場に向かうトランプ大統領と安倍晋三首相を乗せた車列に向けて抗議のプラカードを掲げる人たち=11日午前、フロリダ州ジュピター(松本健吾撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 きつねにつままれたようだった。ドアにはスーツに身を包んだ監視役が出入りに目を光らせる。窓には、豪華な部屋に似合わない黒いビニールで目張りがされ、外を望むことはできない。事実上の密室。ホテルを出発したのが朝、6時半、バスで待機させられ、この部屋に閉じ込められ、そこまで押したシャッターはバスの窓越しからのわずか数カット。アメリカまで来て、時間を無駄に浪費していた。
 前の晩、厳寒の首都ワシントンから政府専用機2時間半で南部フロリダに到着した。暖かい風の出迎えに胸を躍らせたのがはるか昔のようだ。外の空気が懐かしかった。
 フロリダのパームビーチ郊外。「トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ・ジュピター」のクラブハウスのなかの一室。その安倍晋三首相の訪米同行記者の“待機室”には30人ほどの日米合わせた報道陣が缶詰になっていた。ふんだんに用意された飲み物や食べ物。それはこの“軟禁状態”が長引くことを意味していたのだ。
 すぐ外のゴルフコースでは、いまごろ安倍首相とトランプ大統領が歴史的なラウンドをしているはずだった。私は、満を持してそれを撮りにここに来て、今がまさにその時のはずだったが、小さな部屋で焦りを募らせていた。

期待を胸にアメリカへ

 2月の上旬。所属する写真報道局の上司に声をかけられたのが取材の始まりだ。「安倍首相がトランプ大統領に会いにいき、一緒にゴルフをやるらしい。これからの日米同盟を占う訪米になる可能性がある。行けるか?」。
 普段は海外通信社などの配信写真を使い、滅多に行く機会のない首相の外遊への同行取材だ。たまたまアメリカの報道ビザを持っていた私に声が掛かった。幸運な巡り合わせで掴んだチャンス。否が応でも力が入る。
 安倍首相とトランプ大統領は、就任後の初顔合わせ。さらにゴルフ。遡れば安倍首相の祖父、岸信介もアイゼンハワー大統領とゴルフをプレーした歴史もある。宿命のような出来事だ。トランプ大統領就任前、安倍首相は黄金のクラブを贈っていた。そのクラブでショットを打つトランプ大統領、笑顔で見守る安倍首相。日米関係の新しい一幕。間違いなく今回の訪米の目玉のシーンだ。わき上がる様々なイメージ。撮影できればカメラマン冥利に尽きる。

ゴルフ場に向かうトランプ大統領と安倍晋三首相を乗せた車列に向けて抗議のプラカードを掲げる人たち=11日午前、フロリダ州ジュピター(松本健吾撮影)
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ゴルフ場に向かうトランプ大統領と安倍晋三首相を乗せた車列に向けて抗議のプラカードを掲げる人たち=11日午前、フロリダ州ジュピター(松本健吾撮影)フルスクリーンで見る 閉じる

 一方で、不安もあった。外務省によれば、通例からいけば、ホワイトハウスで行われる初日のメーンとなる首脳会談や共同記者会見は、比較的自由に取材できるとのことだった。一方、ゴルフの取材の可否については、報道担当者は「調整中」と繰り返すばかりで、ヤキモキする日々が続いた。しかし、どこか私は楽観的に捉えていた。「調整」とは、つまり、どの程度取材できるか。ティーショットなのか、コースを歩いているところなのか、最悪ゴルフを終えた後の束の間かと、つまり条件的な折り合いをつけていると、受け取っていたからだ。
 事前の見通し通り、ホワイトハウスでの取材は成功裏に終わった。笑顔のツーショットも、握手もしつこいくらいに撮影できた。ゴルフ取材に関しても期待が高まっていた。
 「結局、ゴルフ取材はできるかどうか、まだ分かりません」。ホワイトハウスでの取材を終えた夜、翌日にラウンドを控える状況になっても外務省の報道担当者の表情は冴えなかった。「できるかどうか分かりませんが、少なくとも地元メディアが取材できるケースには日本メディアも乗り遅れないようにします」。こういう取材では、急に取材が入ったり、なくなったり、地元メディアが優先的に取材できたりするケースが度々起こる。「日本メディアを置いてきぼりにはしない」と約束してくれたのは有り難かった。
 我々同行カメラマン一行は、「デスウォッチャー」と呼ばれる、常に大統領に張り付いて暗殺を警戒する地元の記者たちと行動を共にすることになった。365日24時間大統領から目を離さないのが役目の記者団だ。移動の際は大統領の車列のなかに入り、離れることはない。我々のバスもその車列に入れてもらうことで、大統領に密着できる立場だ。

怪しい雲行き

 しかしこの部屋に押し込まれ、刻々と時間が過ぎていくにつれ、雲行きが怪しくなっているのに気づいた。ただもう出来ることはここで待機することだ。「可能性はゼロではない」と自分に言い聞かせていた。いつか、「カメラを持って急いで来て下さい」と声がかかり、ゴルフコースに案内され2人を撮影できる時がくるはずだ。少なくとも2人がいるこの場所を離れることは得策ではない。
 だが、次第に、ここまでして、なぜ撮らせないのかとの疑問も生まれた。外務省の報道担当者やペン記者などに聞くと、持論を披露してくれる。「世界から反発されているトランプ大統領と笑顔でゴルフをしている様子が流れることで、イメージへの悪影響を心配した安倍首相が首を縦に振らない」という、日本側原因論から、「プライベートな時間だから取材させないのが基本」というそもそも論から、「トランプ大統領がアメリカ国内のさらなる反感を警戒して」「いずれにせよ、アメリカが撮影を許せば、日本は従わざるを得ないのだから、アメリカが断っている」という米国側が原因論。どれも納得できるようで、腑に落ちなかった。トランプ大統領は日米首脳会談でも、共同記者会見でもしきりにゴルフが楽しみだとアピールしていた。「いまさら隠す必要があるのか」と、問うても、「まぁ、トランプさんだからねぇ」とつぶやいて、うやむやになるのだった。

ゴルフ取材はノーチャンス

 その日、昼食時に改めて、米側のプレスオフィサーに取材を要請した際に戻ってきた「こんな暑いなかでゴルフやって汗だくのところを撮影させる訳にはいかない」と木で鼻をくくったような回答に、ようやく私はノーチャンスだと悟った。
 そのころにはもう、「撮れるかもと、思わせぶりにして、カメラマンの居場所を管理するのが目的だったんだ」との被害妄想ともつかない考えに頭が支配されていた。脳天気に構えていた自分に腹が立ち、また敗北感に打ちのめされた。フロリダまで来て、手ぶらで帰ることはみじめだからだ。
 別のゴルフ場で2人が昼食を取るのを待つ2箇所目の“軟禁先”になるともはや飲み物すら用意されてなかった。トイレに行くにも一団で連れていかれ、男性用便器が一つしかないため、前の人の小便が便器を打つ音を何度も聞かなくてはいけなかった。加えて、汗だくでクタクタなはずの2人がそのゴルフ場でさらにハーフコースを回ったことを知り、言葉を失った。
 無力感に苛まれるなか、外務省の報道担当者から「ゴルフはこれで終わりです」との報告を受け、全てが徒労に終わったことが決定づけられると、どっとした疲れに襲われた。またとない機会を任され、期待の言葉で送り出してくれた同僚たちにも申し訳ない気持ち溢れ、いたたまれない気持ちになった。

北朝鮮がミサイル発射

「この仕事、撮れたり、撮れなかったり。勝ったり、負けたりだ」。プレスルームで落ち込む私を察したのか、共に取材していた他社の先輩カメラマンが声をかけてくれた。そうこうするうちに「北朝鮮がミサイル発射」との一報が流れた。それを受け、急遽、安倍首相とトランプ大統領が揃って記者発表することになった。いつまでも肩を落としてはいられない。カメラを掴んでホテルを飛び出した。(写真報道局 松本健吾)

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