【パラアスリート】その視線は、まっすぐ アーチェリーの江口舞さん
更新 sty1601230006 背筋を伸ばし、凛(りん)としたたたずまいの選手を見て、「なぜか『1』という数字が浮かんだ」。
澄んだ瞳で初めてアーチェリーを見たときの思いを語るのは江口舞さん(18)。大阪府柏原市に住む高校3年生だ。
舞さんは高校2年のとき、駅のホームで電車と接触、左足の膝から下を失った。
「事故の記憶はない。気がつくと病院のベッドの上。足を失ったことは父親から告げられた」という。
約1カ月の入院後、テレビで走り回る子供を見て「自分はもうあんなふうに走れんのかって思った。1人でいるとマイナス思考になることもあった」という。ただ、友達が「底なしに明るい」と話す楽天家。「悩んだのは3日間」と笑う。「生きていただけよかった。人生楽しむしかない」と、今を受け入れる。
そんな舞さんの生き方を後押ししたのが、日本体育大学アーチェリー部総監督の藤本浩さん(47)との出会いだった。
昨年11月、府内のアーチェリー部の合同練習会に初参加。藤本さんによると「初めての人は、初日に矢を持つまで進まないし、まして的に当たらない」という。
でも、舞さんは3本の矢を的に命中させた。
「何よりガッツがある」と藤本さん。姿勢が大事なアーチェリー。舞さんは、両足の長さの違いによるフォームの乱れを努力でカバーする。長時間の練習で足が痛くなった舞さんに「ちょっと休憩しようか」といったが、「自分が納得できるまでやりたい」といって弓を置こうとはしなかった。
「アーチェリーの楽しさは?」と聞くと、「とにかく的に当たるのが快感。パラリンピック、世界の舞台に立ってみたい!」。
まっすぐな視線の先に未来が見えた。あの日感じた「1」という感覚は、スタートラインだったのかもしれない…。大きな夢に挑むパラアスリートが一歩を踏み出した。写真・文 頼光和弘(写真報道局)
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【江口舞(えぐち まい)】1997(平成9)年8月生まれ。幼い頃から活発で体育の成績はいつも5。義足は高価で新調は難しいが、体によりフィットする義足に、巡り合いたいという。釣りが大好きで、友人からは「マイマイ」と呼ばれる。