【写真集】比留間幹『給水塔』
更新 inf1510170001時代映す“恐竜”たち
子供のころに住んでいた団地には給水塔があって、周囲の丘はいい遊び場だった。なんだか秘密基地っぽい、非日常感のある場所として記憶している。そんなふうに、原風景の隅っこに給水塔がそびえている人は多いはず。いま、塔は次々に消えているそうだ。給水のためにいったん水を高い場所に引き上げて…なんて必要がなくなったらしい。
各地の給水塔を撮った写真集が、どこか「懐かしさ」を感じさせるのは、そういうわけ。どの塔も古びていたり、放置された印象だったりする。必要とされなくなったのだから仕方ない。ページを繰るうちに「恐竜」という言葉が浮かんできた。
「給水塔」といえば、ベッヒャー夫妻の作品が〈写真史にそびえる金字塔〉だから、撮影は〈避けるべき対象をわざわざ選ぶ愚挙〉だった、と写真家は記している。それでも撮った。全国をくまなく歩いて。記録しなければ…という切実さがうかがえる。ひとつの時代の象徴が、静かに消えようとしている。(存)(リトルモア・1800円+税)