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【大学ナビ】針路を聞く 日本学士院会員・吉川弘之氏

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 ■専門職業人材養成こそ急務

 日本再興戦略や教育再生実行会議をはじめとした数々の提言を受け、来春、大学に新たな教育機関が加わる。専門職大学・短期大学である。「豊かな創造力」と「高度な実践力」を育むことを目的とした専門職大学の誕生によって、明治以来の伝統をもつ大学という高等教育の場での学びはどう変貌してゆくのか。現代を代表する「知の巨人」の一人である日本学士院会員、吉川弘之氏に聞いた。(編集委員 関厚夫)

  

 --なぜいま、文部科学省のいう「専門職業人材の養成」であり、専門職大学の開学なのでしょうか

 「最初に少しマクロな視点で申し上げますと、教育に対する非常に大きな変革-学問分野を超えた変革が現在、世界中で求められていると実感しています。『近代哲学の父』であるデカルトは主著『方法序説』で、『分析の規則』(問題解決のためにその対象をできるだけ細分化すること)と『総合の規則』(細分化された最も単純なものから段階を追って最も複雑なものの認識=真の理解に到達すること)を提唱しました。たとえて言いますと、その後、科学は前者の『分析』に偏り、より難度の高い『総合』を怠ってきました。その結果が地球規模の環境破壊であり、紛争や戦争であって、これからの学問は『総合』を重視すべきである-。そんな考えが国境を越えて広がっているのです。

 『細分化された世の知識を集めたときに何ができるのか』という問いに対する答え。言い方を換えれば、高度に専門化された数学や物理学、論理学では説明できない感性や感受性を支える知識の体系を探究する学問-私はデザイン(設計)学と呼んでいますが-それを構築することは21世紀における人類の最大の課題であり、日本の高等教育においてその責任の一端を担うのが専門職大学だと考えています」

 〈現在、専門職大学については東京や大阪、名古屋などの大都市や大学が少ない地方都市から計13校が文科省に来年開学の認可を申請。今秋をめどに可否が決まる〉

 --専門職大学ではどのような学びが期待できるのでしょう

 「現在の高等教育は、機械工学専攻ならば機械だけ、電気工学専攻ならば電気だけに特化している側面があります。もちろん、専門を極めることは非常に大事です。でも、『モノづくりをしたい』という夢をもって入学したものの、分野別に細分化された授業の現実に戸惑いを感じる大学生は相当数、存在するのではないでしょうか。

 これに対して専門職大学の出発点となるのは学生一人一人の夢です。たとえば、次世代のロボットや自動車の開発-あるいは『地球環境を改善する』でも結構です-まずつくりたいモノがある。入学後は、教員の指導や学友の協力を受けながら、その実現にはこれこれこういう専門知識が必要だと分析し、4年間をかけて学ぶ。そして卒業制作で自分の夢を実現する-つまりモノを一つ作りあげる。そんなプロセスをたどることになるでしょう」

 --専門職大学の卒業生たちが科学技術立国・日本の今後を担ってゆくことになるのでしょうか

 「そういう期待があるからこそ、専門職大学を開学する意義があるのです。細分化された分野を研究し、優秀な専門家がさらに切磋琢磨(せっさたくま)していいアイデアを出す。そんな伝統的な大学の役割は不変です。一方で、『現実の社会でいま、何が必要とされているのか』ということに極めて強い関心を寄せ、それを専門知識で解決してゆく。または、社会問題を的確に把握し、それを解決するために自分の専門を定め、研究することができる。そうした人材の育成が急務です。専門職大学はこうした科学と科学者の新しいあり方の『解』となり、21世紀を切り拓(ひら)く教育機関となる-。そう確信しています」

【プロフィル】吉川弘之

 よしかわ・ひろゆき 昭和31年、東京大学工学部卒。同学部長を経て、平成5~9年、東大総長。日本学術会議会長や国際科学会議会長、産業技術総合研究所理事長などを歴任。84歳。