【私と新聞】俳優・加藤雅也さん 物事の真実、見分ける力がつく
映画やテレビドラマで活躍する俳優、加藤雅也さん(58)。小・中・高校(保健体育)の教員免許を持ち教師を目指したこともあるだけに、教育における新聞の役割に期待を寄せています。「記事を読み込めば物事の真実に近づけるし、フェイクニュースにだまされることはない」と強調。米国を拠点に芸能活動を行った経験から、一般紙と英字紙を併読しているそうです。世界の出来事が私たちの暮らしに直結する時代。「日本の新聞はもっと国際ニュースを増やすべきだ」とも訴えます。
◆自分の頭で考える
学生時代、新聞といえば父と祖父が熱心に読んでいた記憶があるくらいで、意識してしっかり読むようになったのは俳優になってからですね。
仕事柄、自分に関する記事が載るからというのも理由でしたが、最大のきっかけは、平成3年に起きた「湾岸戦争」。刻々と変化する戦場の様子と戦争が起きた背景を伝える記事を連日読み、世界に広く目を向けるようになりました。27歳のころです。
今回の取材依頼をいただき、自分がなぜ学生時代に新聞を読まなかったか、考えてみたんです。答えはひとつ。受験勉強に関係なかったから。つまり、定期試験や入試に関係する記事が載っていなかったからです。
これは新聞の責任ではなく、むしろ教育制度に問題があると思うんです。日本の入試問題は基本的に、暗記に代表される“詰め込み教育”だと思います。「世の中で今、何が起きていて、その意義や背景を深く問い、考える」という点に重きを置いていない気がします。
でも、社会に出て必要なのは、自分の頭で考えること。私はかつて教師を目指したこともあるんですが、新聞を教材で使うとしたら、深い取材をもとに書かれた解説記事を使って、ニュースの裏側を生徒たちと議論したいですね。こうした記事には、物事を論理的に考える思考を育てる力があると思うんです。
◆米の新聞に感銘
20代後半のころ、米ハリウッドを目指し、英語を本格的に勉強しました。英会話の先生は、英単語をひたすら暗記する“詰め込み”ではなく、今起きている時事問題を英語にし、口に出して発音する方がいいと助言してくださったんです。そこで、日本の新聞に加え英字新聞も読む癖をつけました。自宅では今も、一般紙と英字新聞を購読しています。
32歳で渡米し約7年間、ハリウッドに近いロサンゼルスに住んでいました。英語の勉強と情報収集を兼ね、毎週、ロサンゼルス・タイムズ日曜版を買いました。山のように分冊が付いていて、政治から芸能まで1週間の総まとめのような感じです。
掲載されたニュースの量の膨大さに加え、歯に衣(きぬ)着せぬ映画評に感銘を受けました。駄作ははっきり駄作と書く。“横並び文化”の日本ではあり得ない書きっぷりに、大いに驚いた記憶があります。
◆時代劇と似ている
スマートフォンの普及で、ニュースもインターネットだけで見る人が急増していますが、私はやっぱり新聞にこだわりたいですね。
ネットのニュースは見出しで勝負、みたいなところがあって。新聞系のサイトはそうではないのですが、新興のニュースサイトのなかには、ニュースの内容自体も簡略化し過ぎている印象があるんです。物事の真実や裏側がどうなっているのか、ネットニュースの見出しの飛ばし読みだけでは、深い知識は得られません。
ネットで最近、「新型コロナウイルスのワクチンには、人々を監視するためのマイクロチップが仕込まれている」といった陰謀論まで出ました。でも、新聞をしっかり読んで、ニュースの背景を自分の頭で考える癖がついていれば、陰謀論やフェイクニュースにだまされないと思います。
新聞への注文としては、もっと国際ニュースを増やしてほしい。ネット時代、ニュースに国境はなく、世界の出来事が日本の経済や文化にダイレクトに影響を及ぼす時代。国際ニュースの価値は飛躍的に高まっています。
紙の新聞と時代劇は、とても似ていると思うんです。新聞は、記者の豊富な現場取材が読み応えのある記事になり、時代劇も俳優の経験が蓄積となって深みのある作品になります。どちらも時代の流れに押されていますが、必ず残さないといけない。
物事の真実を知るには新聞が一番。受験勉強に直接つながらなくても、毎日読んでいるうちに、物事の真実を見分ける力がつくのではないでしょうか。
【プロフィル】加藤雅也(かとう・まさや)昭和38年、奈良市出身。奈良県立奈良高校、横浜国立大学教育学部卒業。小・中・高校の教員免許取得。大学時代からモデルに。男性ファッション誌「メンズノンノ」やパリコレで活動後、63年から俳優の道へ。映画「マリリンに逢いたい」(63年)「帝都大戦」(平成元年)に出演。平成7年に渡米し、約7年間、米を拠点に活動。帰国後、NHKの連続テレビ小説「まんぷく」(30~31年)に出演するなど数々の映画やテレビドラマで活躍中。31年から奈良市観光特別大使を務めている。